えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第38話 浴衣とマリーさん ~自撮りと乳の暗黒卿ダース・こはるん~
第38話 浴衣とマリーさん ~自撮りと乳の暗黒卿ダース・こはるん~
自治会の旅行はフリーダム。
丸岡先生が「あとはまあ、晩御飯まで好きに過ごしてよ。もうね、年寄りになると団体行動とか無理なんだ。晩御飯だけは一緒に食べるのがルールね」と言っていた通り、チェックインを済ませたみんなは好き勝手に散開していく。
とりあえず、俺と茉莉子も部屋へと向かった。
「良い部屋ご用意してますぜー。旦那ぁー」
「なんで新菜がついて来るんだよ。仕事しろよ。実家なんだろ?」
「え? 秀亀って帰省しても働くの? ヤベーぜー! 勤労民族じゃん!! わたしはアレだから。ファッションお手伝い。ガチで忙しい時は、新菜さんの胸ポケットに格納されているスマホが震えんの! ほれ、見てみ?」
「なんでジャージに胸ポケット付いてんのかなとは思ってた」
「年取ったら垂れるかもじゃん? 若いうちに揺らしとかなきゃ損じゃん? ってことで、童貞なお客様へのサービス?」
「ご実家に悪影響だから今すぐヤメろ!! 老舗旅館で何しとるんじゃ、お前は!!」
そして結局部屋まで付いてきた新菜さん。
繰り返すが、仕事しろよ。
だが、部屋を見るとそんなとげとげしい感情もなくなる。
なにこれぇ! やだぁ! るるぶに載ってたヤツじゃん!
ここにタダで泊まるとか、マジで許されるの!?
「おじさん、おじさん!! 見てください!! なんかすごいです! これが非日常体験!! 都会の体を持て余した女が癒しを求めて来るヤツですか!!」
「言い方があれだが、確かにすげぇな。癒されるわ。新菜が気を利かせてくれたのか?」
「んーにゃ? うちの部屋ってだいたいこんな感じよ?」
「ええ……。お前んち、ちょっとした自営業って言ってたじゃん。嘘つき!!」
「まりっぺはご令嬢じゃん? こはるんはお嬢様じゃん? レアぴっぴはパパが年間1兆円稼ぐホストじゃん? わたしなんかちょっとした民宿の娘ですわよー」
「まりっぺとレアぴっぴに関しては訂正したいが、そうか。俺の周りってみんなお嬢様だったんだ……。俺だけだったんだ。もやしが今日は8円安い! とか言ってはしゃいでたの……」
新菜の胸が震えた。
「うげー。マジのお手伝い要請が来ちったよー。うち、弟がいるからさー。最終的にヤツが家を継ぐんだよねー。ってことは、今のうちにポイント稼いどかないと、いざって時にニートできないじゃん? 困るよねー。んじゃ、また後でねー!!」
新菜は廊下を走って行った。
走りながらジャージ脱いでタンクトップになってたんだけど、マジで品格落とし過ぎるとニートの道も断たれるよ?
まあ、それはそれとして。
こんな豪華な旅館に泊まれる機会なんて人生で何度あるか分からない。
堪能しよう。
まずはテーブルにある高そうなお茶淹れて、高そうなお菓子食おう。
「おじさーん」
「……なんでお前は服脱いでんの? もう風呂入るの?」
「違いますよー。浴衣! 浴衣を着てみたいんです!! るるぶのお姉さんたち、みんな浴衣でしたもん! あたしも侯爵令嬢として、浴衣くらい着こなさなければ!!」
「ああ。そう。まあ好きにしなさいよ。えーと。お、あった。ほれ」
「ありがとーございまーす! ではー!!」
「よし。待て。何故お前は下着まで脱ごうとしている。言わずとも知れた事! どっかで変な知識拾って来たな!?」
俺は知らないが、マリーの会で旅行の支度をしていた時に話題として挙がったらしい。
「だって! 桃さんが! 浴衣の下は全裸だって!!」
やっぱりレアピーチ!!
あの子、IPO株価が最高値タイプか!?
◆◇◆◇◆◇◆◇
茉莉子は言った。
「浴衣って下着つけないんですよー? おじさん、そんな事も知らないから童貞なんですよー。もぉ! 安心できますねぇー!!」と、ドヤ顔で。
それさ、浴衣違いじゃない?
俺は現代っ子の味方、スマートフォンですぐに調べる。
ほらご覧なさい!
温泉の浴衣ははだけやすいから、夜寝る時以外は地味な色の下着やキャミソールなどを付けましょうってヤフー知恵袋に書いてあるじゃん!!
「そうなんですかー? んー。確かに、おじさん以外の人にだらしない子って思われるのはちょっと困りますねー」
「マリーさん、羞恥心とかあったんだ」
「失礼なおじさんです! 嫌じゃないですか! おじさんが、自分の姪にもちゃんと注意ができない大人だって思われるの! 好きな人の評価って大事なんですよ! 女子にとって!!」
なんかマリーさんが泣かせにかかってきたんだけど!!
なにこのいい子! すげぇ嬉しいこと考えてくれてるじゃん!!
すごいや! 非日常体験って!!
俺が感動に打ち震えていると、しっかりとカラーコンタクトを涙目で装着したパーフェクト・マリーさんが、スマホで自撮りを試みていた。
うちの子の成長でまた泣きそう。
自動改札にスマホが負けたとか言ってぷんすか怒ってたのはつい数日前なのに、この子、自撮りできるようになってる……!!
「んしょ! おおー! これが! ゥイィンキャメラ!!」
インカメラな。
レアピーチ語が移り始めてるのは要警戒だ。
「見てください、見てください! おじさん!! 茉莉子の初! 自撮りです!!」
「おお、すげぇ! ……いや、待て。お前、すっげぇ胸元が開いてんだけど。これまずいだろ。下着全開どころか、谷間全開じゃん」
「むぅー。難しいですねぇ、浴衣って。そだ! みんなの知恵を借りましょー!!」
そう言うと、茉莉子はスマホをポチポチと人差し指で操作し始める。
分かる、分かる。
最初の頃ってどうしても指1本で操作しちゃうよね。
なにこの可愛い女子。しばらく眺めていたい。
しばらく眺めていると、俺のスマホがピコンと鳴った。
そう言えば、ラインの使い方も教えたんだったか。
初めての自撮りを俺に送って来るとか、本当に可愛いじゃないか!
よし、おじさんがなんか美味いものでも食わせてやるよ!!
スマホのロック画面を解除しようとしている間に、ピコン、ピコンと連続で通知音が鳴る。
どれだけ送って来てるんだよ。困ったヤツだな。
「分かった。分かった。慌てるなって! ……お前。いつの間にグループ作ったの?」
「へ? グループってなんですか?」
「……桃さん辺りか。まあ、マリーの会のグループだから、茉莉子のセクシーな自撮りが流出したりはしないだろうけど。お前、浴衣の着方、これで合ってますかって。合ってねぇって言っただろ! はっはっは! は、はは……。おい、小春ちゃんからすげぇメッセージ連打されてんだけど」
『分かりません』『すみません、お役に立てなくて』『多分、一生お役に立てません』『すごいですね。浴衣って』『私が着たら引っ掛かる場所がなくて落ちちゃうかもですね笑』『……秀亀さん? 笑ってくださいよ?』とか、鬼のようにメッセージが届く。
今日は最初からダークサイドに堕ちてるね、小春ちゃん。
俺は無言で服を脱ぎ、浴衣に着替えた。
続けて、胸元をはだけさせた自撮りをラインで共有する。
なんか急に静かになったから、多分これが正解だったんだと思う。
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