えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第34話 庶民の旅行に参加するマリーさん ~イベント前には女子が集まる~
第34話 庶民の旅行に参加するマリーさん ~イベント前には女子が集まる~
ゴールデンウイークなので、茉莉子は学校が休み。
俺はがっつり稼ぐ予定だったのに、ぼっち警察が気を回してくれたおかげで連休終了日まで全てのバイトがお休みに。
何をしてくれてんだよ!!
勤労学生が輝くゴールデンウイーク、盆、正月の1つを潰しやがって!!
そんな訳で、する事がない。
こんな無為な生活をしていて良いのだろうか。
1度しかない人生。
今は今しかない訳で、ほら、今が過ぎて行って、また新しい今が。
「おじさん! お腹がすきました!!」
「俺の哲学的なポエムは拾えよ! 何ならちょっと、茉莉子にインテリなとこ見せてやろ! くらいの意気込みだったのに!!」
「……あたしもキャラ作ってるから分かるんですけど。身の丈に合わないことを無理すると、虚しくなりません?」
「ああ、もう! やるんじゃなかった! チャーハン作るわ!!」
いつものようにソファで寝そべって雑誌を読んでいるだけの茉莉子に論破された。
心理学は無力なのかもしれない。
あと、お前。
そのTシャツ、昨日の夜から着てるだろ。
ちゃんと朝の洗濯に出しとけよ。
「間に合わなかったんですもん。だったらですよ? もう1日着ても平気かなーって。ほら! 女子の汗ってなんかいい匂いするらしいですし!」
「品位の欠片もねぇ!! なんで俺はちょっと知的気取っただけで虚しいとかディスられて、侯爵令嬢名乗ってるお前は堂々と干物女子高生してんの!?」
チャーハンを皿に山盛りにした瞬間、シュバッと機敏になり、姿勢よくちゃぶ台の前で待機する茉莉子が割と可愛いので腹が立つ。
「ごめんくださいよー。秀亀くん。連休の昼間から家にいるとか、具合悪いのかね?」
診療所の丸岡先生が訪ねて来た。
自治会費を支払い、自家製味噌のお裾分けを頂戴して「たまたま暇になってしまいまして。時間を持て余していますよ」と応じる。
「珍しいねー。茉莉子ちゃんもいるのか」
「こんにちふぁー!!」
マリーさんになれとは言わんが、せめて茉莉子でご挨拶しろよ!
チャーハン食いながらスプーンを手の代わりに挙げるな!!
「はははっ。元気そうで何より。ああ、だったら秀亀くんたちも行くかね? 明後日の自治会旅行。君は毎年不参加だけど、茉莉子ちゃんと一緒に。年寄りばかりだから、若い子がいると賑やかで良いし」
「俺は旅行の積み立てしてませんから」
(おじさん! 旅行! 行きたいです、行きたいです、行きたいです、行きたいです!!)
うるせぇ!
昨日ちょっとした旅行気分で御亀村から戻って来ただろ!!
(……ぶっちゃけ、電車に乗るだけの8時間ってつまんなかったです)
それに付き合わされたのが俺!!
確か、旅行費が結構高いんだよ。
それを2人分はちょっときついな。
「ああ、費用なら出すよ?」
「えっ!? 申し訳ないですよ! 普段から良くして頂いているのに!!」
「何を言っとるのかね、秀亀くん。君は毎朝ゴミ捨て場の掃除をしてくれるし、清掃活動では1番働くし、みんな感謝してるんだよ。実はね、毎回のように秀亀くんを旅行に誘おうって話が出るんだけど、若者1人連れ出すのは逆に申し訳ないかと思ってさ。けど、今年は茉莉子ちゃんもいるから」
「いやー。ですが、当然の事をしているだけで、そこまで過分なご配慮は……」
(おじさん! そーゆうとこですよ! あたしが何しても手を出してこないし! 今は目の前にぶら下がってる旅行券もゲットしないし!! 何なんですかぁ!? そーゆう人がバカを見るんですからね!!)
半沢直樹見せるんじゃなかった!!
世の中、いい人がバカを見るのはフィクションだけだよ!!
俺はそう信じたい!!
振り向かなくても分かる。
絶対に頬っぺた膨らませて涙目になってこっち睨んでるじゃん。
それ見たら心が折れるから、絶対に見ないぞ。
「丸岡せんせー!! ちなみに、どこに行くんですかー?」
「ははっ。茉莉子ちゃんは乗り気かな? 1泊2日で温泉だよ。……ううむ。しかし、若い子には退屈かもしれないね。ヤメておこうか?」
(おじさん! おじさん!! 温泉とか言うの、行ってみたいですぅ!!)
ああ。目が合った。
「……お世話になってもよろしいでしょうか?」
「そうかい!? それはもちろん! いや、嬉しいね! 早速、自治会のじじいとばばあに周知徹底して来るよ! バスの中でカラオケするから! 秀亀くんは2時間くらい米津玄師とか歌ってね! もう、みんな演歌ばっかり歌うから基本8割は寝落ちするんだよ!! これ案内状!!」
そう言うと丸岡先生は帰って行った。
「人生初! 旅行です! そして初の温泉!! 噂には聞いていました!! 都会のデキる女子が癒しを求めて向かう、非日常体験!! るるぶに書いてありました!!」
「良かったな。おかげで俺は米津玄師メドレー歌う事になったよ……」
とは言え、茉莉子のやりたい事はできるだけ叶えてやりたい。
帰省して改めて思ったのは、御亀村ってマジで何もねぇもん!
そりゃ色々憧れて「あたし東京行きます!!」とか立派な胸を張りだすよ!!
つまり、俺は茉莉子の希望をマリーさん生活の間にできるだけ叶えてやって、東京なんて魔境に行きたいという興味を失くさせるのだ。
これが心理学だよ、茉莉子くん。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
旅行の支度がすげぇ難航していた。
「私、旅行の時には新しい服と下着を買うようにって母がいつも言うんですよ! マリーちゃんはもう買いました?」
「そうなんですか!? おじさん!!」
「ダメだ。あるもので済ませなさい」
「ぶー。ケチ! おじさんの童貞! ケチ過ぎて童貞もくれないおじさん!!」
最終的に俺の童貞の価値が上がってない!?
「分かるっす。秀亀さん。旅行の時のマストアイテムはこれっすよね。パパもママも、基本使わねぇんで、ひでキング先生に持ってけウェーイって!」
「お。マジで? なんだろ。悪いなぁ、気を遣ってもらって。……これは?」
「キャンドゥームっす!! ストロベリィー味らしーっす! ウチは使ったことねーんすけど、なんかパパのイチオシらしーんで! キメちゃってオナシャス!!」
「レアピィィィーチ!! 君の家は本当にアレだよ! なんで君が一人っ子なのか分かんねぇ奔放さ!! こんなもん、いらん!! サイズまで豊富に取り揃えて頂いてくださりやがって!!」
秀亀のヒデキはこういうの見ると感激するよりしょんぼりすんだよ!!
「それってなんですかー? なんか可愛い箱ですねー!!」
「レアピさんは私の知らない事を教えてくれるので、勉強になります。それはどうやって使うものですか?」
「肺活量鍛える風船だよ! 男専用だから、君たちには使えないね!!」
茉莉子の旅行の準備を手伝うぜ! とやって来た、小春ちゃんと桃さん。
こんな時に割と頼りになるぼっち警察が、なんと実家に帰省してやがって不在。
ひとつとして支度が済んでない絶望を、何と喩えようか。
おい、レアピーチ!! そのピンクの箱をうちの神聖なちゃぶ台に置くな!!
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