第2章

第33話 帰ってきたマリーさん

 小松茉莉子。15歳。

 金髪のセミロングヘアーをサイドテールでまとめている。

 いわく「遠くからでも一目で分かる。これこそが侯爵令嬢!!」とのこと。


 学校や友人とお出かけの際には蒼いカラーコンタクトを付ける。

 調子のいい日は40分ほどで碧眼になるので、1ヶ月で随分と成長したものだ。


 15歳のくせに、やたらと立派なスタイルをしている。

 身長は157センチ。これは高1女子の平均値ど真ん中。

 それなのに、胸とか腰回りとかはなんだかわがままな感じに育っている。


 御亀村というほとんど限界集落で育ったため、一般常識にやや欠ける。

 それを補おうとする好奇心で1つ知識を付ける間に、5つ付けなくてもいい知恵を広い食いする。


 そんな彼女は俺の家で同居しており、学校ではマリー・フォン・フランソワと名乗っている、超の付く見栄っ張りである。


(あのー。おじさん。おじさーん)


 そしてテレパシーが使える。


(もしもーし。おじさーん。ちょっとー)


 テレパシーは俺としか繋がらない。


(15歳女子にガチ告白した、ロリコン童貞大学生のおじさーん)



 ヤメてよ!! 今、お前の紹介してんだから!!

 あと茉莉子は見た目だと絶対にロリ枠じゃないから、俺はロリコンじゃない!!



(隣にあたしが座ってるのに、スタイルについて色々と考察するのヤメてもらってもいいですかー。なんで高1女子の平均身長とか知ってるんですか? ちょっとキモいですよ? ……あ。これ、胸囲とかも調べてるパターンですね? そーゆうとこありますよねー)


 平均体重は51キロだから、茉莉子はちょっと食事の量を減らした方が良いと思う。


「いだっ! なにすんだよ!?」

「年頃の女子に体重の話をしてくるからですぅー!!」


「いや! 考えてただけでしょうが! 口に出したらアウトだろうけどさ!? 考えるのは自由じゃない!?」

「はー。ですよ。おじさん。あたしの事が大好きなくせに、テレパシーを抜いて考えるとか。がっかりし過ぎてむしろ愛しいまであります!」


 このように、基本的に頭の中を覗かれた状態で、割と可愛い女子高生と同じ家で過ごすのは、1人の成人男性として色々と思うところがないと言えば嘘になる。


(割と? 割と可愛い? 超絶ではなくてですか? おじさんは、好きな女子を評価する時に割とって言っちゃう童貞さんですか? それは今後さらに可愛くなれよ! という期待値込みですか? ならば許します!! んふふー)


 まあ、電車の中などでテレパシーは便利な能力。

 俺が頭の中で何かを考えれば茉莉子が勝手に拾ってテレパシーで返事してくるので、周りの人に気を遣わずに済む。


(それだとあたしの思ってることが伝わらないんですけどー)


 顔見てれば分かるから問題ない。

 今は、「もぉー! なんですか、おじさんってばー! あたしのこと、好きすぎて表情を言語化できるようになったんですかー?」とか思っている。


(な、なな、なんで分かるんですかぁ!?)


 ね?

 便利でしょう?


 ちなみに、高校1年生は男子と女子の平均胸囲がほとんど同じというキセキの世代。

 どっちもだいたい81センチなのである。


(ほらー! やっぱり知ってるー!! おじさんのすけべー!!)


 本日、ゴールデンウイーク3日目。

 今年の連休は形が素晴らしく、平日を1日挟むがそこを休めば8連休になる。


 その連休を利用して御亀村に帰省した俺たちは今、電車に乗って喜津音市へ戻っているところ。

 女子の体形については茉莉子の食生活の見直しのために調べただけだから、変な勘違いとかされると本当に困る。


(ちなみにですけど、あたしの同世代女子の平均おっぱいレベルはアルファベットで言うと?)


 AとBの間だとよ。


(んふふふー!! あらあらあらー!! そーなんですかぁ!!)


 さて、トイレに行って来ようかな。


(ちょっと! あたしのサイズについて言及! あるいは考察してくださいよー!!)


 何言っても事故るから嫌だ。


(良いじゃないですかー! あたし、そーゆうの気にしませんからぁー! むしろ、おじさんに興味持たれてないと不安になるんですぅー!!)


 男がトイレに入ってる時にテレパシーで胸の話するのヤメてくれねぇかな!?


(ではではー! ヒントを出してあげましょー!! 小春ちゃんよりおっきいです!!)


 知っとるわ!!

 ヤメろよ、親友の貧乳ディスるの!!


(新菜さんよりはー)


 うるせぇ!

 茉莉子はFだろうが! 知ってるんだよ!!


(……おじさん)


 いや! 洗濯する時とか!!

 あとお前の制服だって発注は俺がやったんだし!

 なんで黙るんだよ!!


 トイレから戻ると、満面の笑みを浮かべた茉莉子が嬉しそうにこちらを見ていた。

 この面倒くさいけど、その倍くらい可愛いのがうちのマリーさん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「んぎゅー!! お尻が痛いですねー!! もう電車の旅は満足したので、次からおばあちゃんのヘリコプターにしましょー」

「デカい声でなんつーセリフだよ、侯爵令嬢のマリーさん。なんでばあちゃんはヘリの操縦なんかできるんだ……。ん? 噂をすればだ。ばあちゃんから電話」


 スマホを耳に当てると「おっす! おら、アンジェリーナ・ジョリー!!」と元気な声が響く。


「なんだよ、ばあちゃん」

『いやね、ちょうど喜津音駅に着いたみたいだから』


「おう。なんで分かるの?」

『ハッキングって知ってるかい? 可愛いヒジキや』


「マジでヤメろよ!! 海藻はハッキングなんか知らねぇよ! いい加減、たまには俺も可愛がれよ!!」

『なんだい。人がせっかくプレゼントしてやろうって言うのに』


「沢庵なら死ぬほど持たされたからもう良いよ。御亀村の沢庵、全部俺の家が漬けてんじゃん」

『ばあちゃんセレクションの勝負下着だよ! もうそっちに送ったから!』


「茉莉子にゃ早いよ! ヤメてくれ!! 年相応のヤツで良いの!! 学校で着替える時とか恥かくかもだろ! あいつ何でも喜んで着るんだから!」

『やだよ、このヒジキ。一丁前に発情し始めて。あんたの勝負下着だよ!!』



「俺のかよ!! 余計にいらねぇ!!」

『……勝負する前から負けてんのかい。かわいそうな秀亀だよ。ばあちゃん、涙いいっすか』


 同情する時だけ秀亀って呼ぶのもヤメろよ!

 マジで惨めになるから!!



 しょうもない電話に時間を使ってしまった。

 茉莉子が退屈してぶーぶー文句言って来るぞ、絶対。


「ぎゃっ!? ちょっと、駅員さん! スマホをピッてやったのにぃ!! なんでこのドア開かないんですかぁ!? 壊れてますよ!!」

「お客様……。スマホを拝見したところ、アプリがインストールされていませんので……」


「スマホですよ! おじさんと買ったんです!! これはダメなんですか!? ちょっとおじさん! 田舎者だって機械がバカにしてくるんですけど!! なんでちょっと嬉しそうなんですかぁ!? マリーがバカにされてるんですよ!!」


 駅員さんに土下座をしながら、俺は思う。


 今日からまた、賑やかな毎日が始まるんだな。

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