第27話 ピュアゆえに! 歪んだ恋に目覚めてしまった小春ちゃん!! ~マリーの会・恋バナ座談会は継続中~

 貶められると当たり前のように落ち込む。

 だが、褒められるとそれはそれでどうしたら良いのか分からなくなる。


 過剰に評価されると前後不覚に陥り、なんかもうフワフワして酩酊状態になる。



 童貞とは哀しき生き物。

 もう、拗らせたら女子に何されてもダメージを受けるのである。


 そう! 今の俺みたいにね!!



「小松くん!! スプリンクラー作動してる!! 1度火を止めよう!!」

「店長!」


「君がボスって言わない時はだいたい嫌な事が起きるんだよ! なんだね!?」

「俺の評価が良い方に炎上しているせいで、これもう火の手は弱まりませんわ!!」


「何言ってるんだね、君は!? 小松くん!! しっかりして!! 病欠の子が出たら飛んできて、女の子がダルいんでーパスでーすとか言っても飛んできて、シフトが埋まってる時に呼んでもないのに飛んできて、気にしないでください! ここで勉強してます!! って言ってくれた、あの頼もしい君はどこに行ったの!?」

「店長! 待ってください!!」


 俺が手を伸ばすと、店長がピタリと動きを止め、口を閉じ、呼吸さえも遠慮してくれる。

 そこまでされたら、俺だって隠し事はできない。



「次、小春ちゃんの番なので!! ちょっと静かにしてもらっても良いですか!?」

「ガスを止めてから交渉しよう!? ねぇ! 小松くん!!」



 お嬢様に、村越家のご息女に。

 俺がどんなふうに思われているのか。


 この流れで聞かないとか! ないじゃないですか!! ねえ、店長!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



 という事で、マリーさんの超便利なテレパシージャックに耳を傾けるのである。


「むむぅー。新菜さん、まさかの愛人枠に入って来るとは……!! ですが! あたし、夫の交友関係には寛容なので!! 本妻の立場さえ侵さないでくれるなら、ウェルカムです!!」

「ぬおおー!! まりっぺ、15歳にしてなんと言う恋愛観……!! ただれてるぜー!!」


「あたしの故郷では、結構そーゆうのあるので! 見慣れてます!!」


 うん。御亀村では結構そーゆうのがあるんだ。

 俺も見慣れてる。


 だって、トップのばあちゃんが行きずりの男食うからね!!


「す、すごいんですね。地中海って。私、今年の夏に行こうって父と約束してたんですけど。ヤメておきます。まだちょっと早いかなって」



 すみません! 地中海さんには、うちの実家で漬けた沢庵を送るので!

 これでどうか穏便に済ませちゃもらえませんか!!



「そんじゃ! こはるんの事情聴取をおっぱじめるぜー!!」

「ええっ!? やっぱり私も言わなくちゃダメですか!?」


「もちろんですよー! 小春ちゃんはあたしの親友! 卒業しても、大人になっても、おじさんがビッグダディになっても家族ぐるみのお付き合いしたいですもん!」

「マリーちゃん……!!」


 おい、村越家って老舗の漬物屋だって覚えてる!?

 マリーさん!?


 俺の実家、親父とお袋が適当に漬けた沢庵を道の駅で売ってんだけど!!



 家族ぐるみのお付き合いを1番しちゃダメなお宅なんだよ、村越家って!!



「うぅー。恥ずかしいですけど。秀亀さんに聞かれてないですし。恋バナって、高校生になったらするのは当たり前なんですよね。……だったら、はい。頑張ります」


(おじさん! おじさん!! なんでしょうか! この罪悪感!! そしてはるかに勝る、この興奮!! おじさん! 小春ちゃんがおじさんに聞かれてないと思って正直な気持ちを吐露しますよ!! バッチリ聞かれてるのに!! んふふー! これ、ドキドキしますね!!)


 マリーさんや。

 もうさ、本当にそういうところはね、俺も黙っちゃいられないんだよ。



 なんかね、すげぇ分かる!!



「あの。私にとって秀亀さんは、ご存じだと思うんですけど。初めて親しくさせて頂いた男の人でして。以前は、父と執事くらいしかお話をさせてもらえなかったので。厳しい父が認めた秀亀さんです。私の気持ちなんて決まっているじゃないですか」

「パナップっすか!? ぱりぴ萌えーっすか!?」


 ちょっと桃さん、黙って。

 大事なとこだから、レアピーチ語で邪魔しないで。


「正直、秀亀さんが世の中の男の人のスタンダードなら、私は一生恋愛とかしなくてもいいかなって!」


 どこか遠くの方で、ゴチンと音がした。

 何の音だろうか。


「小松くぅぅぅん!! そこ、流し場じゃないよ!? それフライヤー!! ダメだよ、フライパンぶち込んだらぁ!! ああああ! ほら、爆ぜてる! ちょっと、小松くん?」

「店長。俺、海藻のくせに人のふりして生きてました。すみませんでした」


 店長の叫び声が遠ざかっていく。

 ああ。これが世にいう、レクイエムってヤツか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「こ、小春ちゃん!? あ、あの! あたしに気を遣ってるんですよね!? 平気ですよ、あたし!! あの全然平気です! 親友と同じ人好きになれるとか、嬉しいですもん! だから! 気を遣わずに!!」

「んーん。マリーちゃん。秀亀さんはさ、一見すると紳士だけど。会った時には絶対にね、1秒にも満たない時間で私の体をチラ見するんだよ。それでね、なんか確認完了。今日も異常なし。みたいな、満足そうな顔をしてからね、マリーちゃんを見るの。私の10倍くらいの時間を使って」


(おじさん?)


 違うよ!


「私の体が魅力的じゃないことは分かるんだけどさ。普段、秀亀さんって優しいでしょ? あんなに優しい人が、私の貧しい体を見て世界は今日も正常だな、みたいに思ってると知った時の私の気持ち、分かる? 足元から見上げるんだよ? 太もも見て、腰回り見て、胸を見て、1度も視線が止まらないの。それで、顔だけはジッと見るの。あ。私、顔くらいは秀亀さんのタイプなんだなって思ったらさ。ちょっとだけ救われた気持ちになってね。ははっ。なんだか、それ以上に虚しいなって」


(おじさん?)


 違うよ!!


「秀亀さんは魅力的だし、私、初めて会った時は正直に言うと。結婚するならこんなお兄さんが良いなって思ったの」

「じゃ、じゃあ! その気持ちを大事にしましょう! ねっ!!」


「今はね、ジェットコースターみたいに下って行ってるところだよ。男の人は全員海の中に還ればいいのにとか思ったりしてる。夜、私には無意味なナイトブラをメイドに渡されながら。はは」


(おじさん?)



 ごめん! ちょっと海に還るわ!!

 なんか落胆してた俺が申し訳ない!! でもね、違うよ!!



「あのー。いっすか? こはるるーさん」

「あ。はい。レアピさん」


 なんかそこだけ、お互いに呼び方がアレだね!!

 仲良しだね!!


「それって、好きなんじゃねっすか? 秀亀さんのこと」

「えっ。違いますよ? 何なら今は、包丁とか近くにあったらちょっとくらいチクってやってもいいかな! とか思うこともありますけど。秀亀さんの腹筋固いですし」


「や。パパが言ってんすけど。それ、逆にちょー意識してるパティーンすよ。だって、興味ナッシングなメンズの視線とか、犬のクソみたいなものっすから。関心抱かねぇっすもん」

「……あれ? ……ん? そう、なんですか?」



(おじさん! おじさん!! なんか小春ちゃんが怖いですけど!! これ、何て言うんですっけ!? ヤドラン!?)


「俺も今ね、すっごく怖い!! 一般的にはヤンデレって言うんだけどな? 小春ちゃん、別にデレてないよね? つまりただの病んでる子だな!! 刺されるよね、俺!!」



「……よく考えてみると。秀亀さんをあっと言わせてみたいと思うと、なんだか胸がキュッとなるような気が。……秀亀さんが成長した私の豊満なボディを見てガクガク震えながら、涙と鼻水を流して謝罪してくれたら、ハンカチでキレイに拭いてあげたいかもです。それで、優しく撫でてあげて。もう、間違えちゃダメですよ? って、教えてあげたいです!!」

「あばばばばばば。こ、小春ちゃん?」



「マリーちゃん! 私、秀亀さんのことが好きみたい!!」

「あたしもよく分からないですけど! 多分です、多分ですよ? 違うと思うんです!! 小春ちゃんのそれ!! 少なくともあたしのヤツとは商品の棚が違うかなって!!」



 あ。やべっ。

 フライパンが高温の油の中に沈んでるわ。




~~~~~~~~~

 明日も2話更新!

 万が一の場合は1話更新!!

 ですが、12時と18時に血を吐きながらお待ちしております!!

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