第25話 ついに動き出したマリーの会! ~バイト先には身内に来られたくない派の秀亀くん~

 来週からゴールデンウイークが始まる。

 連休は帰省や旅行、その他リア充イベントで学生アルバイト戦士が一時的な人手不足に陥る時期。


 連休にシフト入れないのは分かるが、連休の前週くらいからシフトががら空きになるのは何故なのか。

 あいにくと、ゴールデンウイークをバイト以外で過ごした経験がないため俺に知るすべはないが、仕事は増えるし時給は色がつくしで結構助かる。


「小松くん。今日は珍しく遅番だけど、良いのかな?」

「ボス! はい! 家族の世話をしてくれる人がいるので!! 22時まで! みっちり働きます!!」


 今日はファミレスに昼から来ており、閉店までシフトに入れてもらった。

 茉莉子の世話があるので普段ならば18時に上がるのだが、なんと桃さんが「茉莉子さんがウチみたいなスライムベスの料理学びティースとか言ってくれたんで! もうガチ追い込みかけますわ!!」と、今日は家に泊まるらしい。


 つまり、何なら深夜まで残業も可能。

 稼げるときにガッツリ稼ぐのが俺のやり方。


 ばあちゃんに習った。


 ちなみにファミレスの店長は保須ほすさん。

 敬愛を込めて、従業員はボスとお呼びしている。


「もうシャッター下ろします? あと5分ですし」


 ファミレスの営業時間は午後9時まで。

 現在8時55分。

 滑り込みのお客が来るほど、うちのファミレスは流行っていない。


「そうだね。他の子には帰ってもらったし。いやいや、小松くんが人の3倍働いてくれるから、大助かりだよ!! はははっ!」

「とんでもないですよ! 高校生の頃からお世話になってるので! ご恩返しさせてください! じゃあ、店閉めますね!!」


 その時、脳内に声が響く。


(あたし、マリーさん)


 トラブルの時じゃん!!

 なに!?


 家が火事になったの!?


(もぉー。おじさんってば、なにビビってるんですかぁー! そんな訳ないでしょー!!)


 心臓を握りつぶしにかかるのヤメて。

 じゃあ、普通に声かけてくれる?


(テレパシー受信に注文をつけるようになるとは、おじさんもやるようになりましたねー。んふふー。あたしのこと、どんどん覚えていくんですからぁー)


 そりゃあね、一緒に暮らしてるんだもの。

 で、桃さんと美味い飯は作れたのか?


(来ちゃいました!!)


 何が?

 あ! TwitterでRTしたら抽選で貰える謎のメーカーのウェハースが届いた!?


(ちーがーいーまーすぅー!! おじさんの働いてるとこ、見たいなって!!)


 ふっ。無駄、無駄ぁ!

 いくら頭ん中覗かれたって、田舎娘にファミレスへたどり着ける索敵能力がまだ備わっていない事は熟知している!!


 お前の行動範囲は家から500メートルまで!!

 ここは家から8キロもあるんだぞ!!


 愚か者め!!


(おじさぁーん? 今日って、あたし独りじゃないんですよねぇー!!)


 ぬるりと嫌な予感が俺の背中を舐めた。

 桃さんは記憶力チート。


 いや、待て。

 俺は職場のことを話したか?


 ……雑談でバイトについては話題にした事があるような気もするが。

 多分、言ってないよ。うん。別の職場のヤツだ、絶対。


 ピンポーンと来店を知らせるインターフォンが鳴る。


「あらら。小松くん。お客さんだ。まだ2分あるから、仕方ない。お迎えしよう。厨房は任せて良いかな?」

「…………」


「小松くん?」

「10秒ください。俺の杞憂だと今、信じているところです」


 聞き慣れた声が無人の店内に響いた。


「これがファミリーレストラン!! 初めて来ましたー!! 都会の食堂ですね!」

「茉莉子さんは表現がオモローっすね! いつもお世話になってんで、ウチが奢っちまいますよ! 任せんティーっす!!」


 来やがった!!


 身内にバイト先に来られるのって本当に嫌なの、俺。

 陽の者が「えー! 今度あたいのバイト先に来なよー! サービスしちゃうー!!」とか言ってるの聞くけど、ちょっと何言ってるのか分からない。


 家と学校と職場は全部別空間なので、混同したくないよね。普通さ。


 まあ、来たのが茉莉子と桃さんで良かった。

 新菜には何回聞かれても断固として教えてないからね。


 ポテト持たせて追い返そう。


「静かに!! ぼっち警察、童貞犯係だ!! しゃあー!! 秀亀の職場ってことは、親友割引適応案件だぜー!! 食うぞー!!」


 なんでだよ!!


「新菜さんったら! 適用じゃないですか? ふふっ。私、妹割引案件でイケるでしょうか」


 やだぁ! 勢揃いじゃん!!


 モニターを見ると、茉莉子を先頭に、桃さん、新菜、小春ちゃんが並んでいた。

 おかしいじゃないか。


 新菜と小春ちゃんまで来る理由がない。


(あのですね! 桃さんに新菜さんの事をお話したら、是非会いんシュタインなんすけど!! 現役の女子パイセンとか!! マスティーで会いてぇす!! と言うのでー)


 なるほどね。

 それで、スマホが使えない茉莉子の代わりに桃さんがギャリーオンして新菜と接触したんだ。


 小春ちゃんは?


(仲間外れはかわいそうなので!!)


 なるほど。マリーさんは優しいもんな。

 来たものは仕方ない。


 職場荒らすんじゃねぇぞ。


「みんな、聞いてー! ぼっち警察の調べによると! ここのファミレスの制服、乳袋あるんだって! 乳袋!! 秀亀、ガチの乳袋信者だかんね! もー確実に女子の制服目当てだぜ! 厨房でガン見してんの! はぁはぁ言って、口から果汁垂らして!!」

「マジすか! ウチ、貧相な胸なんで。秀亀さんに申し訳ねぇっす」


「あぅ。私もです。新菜さんに習った乳袋はとてもじゃないけど作れませんでした……」

「んふふー! あたしはイケます!! 何なら、最近は朝! 身支度してる時に1度おじさんの前で頑張ってこう、ふっくらさせて! おじさんをもっこりさせてから着替えてます!!」


 ボスがこっちを向いてにこやかに問いかけてくれた。


「おや。小松くんの知り合いだね? ははは。賑やかな子たちだなぁ!」

「店長」


「なんで急にボスじゃなくなったの? この間もそうだったよね?」

「今日で仕事、辞めます」



「どうして!? 気にしないよ、私!! 確かにうちの系列は令和のご時世にコンプラ無視して際どい制服採用してるけど! 仕方ないよ! 小松くんだってお年頃だもの!! 見て良いから! ヨダレ垂らしてるのは知らなかったから、明日からフェイスガードしてくれたら、もう存分に見なさい! 人の3倍働く君には権利がある!!」

「店長。今すぐ退職届書きます。5分下さい」



 家に帰ってシャワー浴びて、ストロングゼロ飲んで寝たい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……いらっしゃいませ」


 ボスが気を利かせて「もう店は閉めるから、ゆっくりしてもらいなさい! 接客も

して良いよ! いいとこ見せちゃえ!!」と背中を押してくれた。



 そのひと押しで俺は辞めますから!!



「ヘイヘイヘーイ! 愛想がないぜー!! ぼっち警察だ!! 笑顔を見せろ!!」

「……ちっ」


「やだぁ! みんな聞いたぁ!? 秀亀ったら、こんな美少女4人も集まったのに、舌打ちしたよー!? もう信じらんなーい!!」

「ご注文、水でよろしいですか? お持ち帰りですね? お店出られて、左手に水道がございますので、ホースから直飲みくださいませー」



「邪魔っすよね、ウチみたいなくそバカ女。さーせんした……」

「ごめんなさい……。1000円でお料理が食べられるレストランなんて聞いた事がなかったので……。好奇心で勝手にワクワクして、私ったら……」


 ほらぁ!!

 桃さんと小春ちゃん連れてくんのはさ!!


 何もしてねぇのに罪悪感に苛まれるから、絶対にズルいじゃん!!


 もうこれイエローカードじゃ済まねぇぞ!?

 悪質過ぎるんだよ!!



(おじさん、おじさん!!)


 そうか!

 茉莉子! 上手いこと、こいつら帰らせてくれ!!


(ぼっち警察情報なんですけど! バイト先の制服を家で女子が着ると、おじさんが喜ぶというのは本当でしょうか!?)


 ぼっち警察ぅ!!


(そういうことでしたら、あたしにも用意があります!!)


 しなくていい!!


 テレパシー系イモ娘に思考を読まれ、唯一の悪友には習性把握されて手玉に取られ、ギャルなのに気遣いがデキる子は邪見にできず、世間知らずなお嬢様に失礼をしたら家が潰れて漬物食えなくなる。


 なに、こいつら。



 とうとうアベンジャーズになりやがったよ!!



「小松くん。制服、貸して差し上げようか?」

「うるせぇ!!」


「えっ!? あ、ごめんね!!」

「あ゛あ゛っ! すみません!! 違うんです、ボス!! お気遣いが嬉しくて、ついテンション高めのリアクションを!!」


「えー!! みんな聞いた!? なんかコスプレできるらしいぜー!!」

「おじさん!! これが狙いだったんですね!!」


 よく分かった。


 今日は味方が1人もいやしねぇパターンだな!!



~~~~~~~~~

 明日も2話更新!

 お疲れでしたら、ご無理なさらず!


 月末には完結しているはずですので、お暇な時に摘まんでくだされば私は幸せです!!

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