第24話 マリーさんの再起動!

「もぉ! ビックリしましたよー!! なんですかぁ! おばあちゃんってば酷いんですからぁ!! 色々と内緒にしてて! ねー! おじさん!!」

「そうだなぁ」


 意外と普通のテンションだった茉莉子。

 こいつも度胸お化けのばあちゃん遺伝子を受け継いでいるのだろうか。


「そんな訳ないじゃないですか……。怖かったんですから! なんか、あたしの憧れてたお嬢様の世界とは全然違う、現実を見ちゃいましたよ……」

「そっか」


 夢見る少女の終わりが来たのかもしれない。

 現実と向き合う時は、誰にでもいつかは来るものだ。


 茉莉子はよく頑張った。


「え? ヤメませんよ?」

「なんで!? そういう流れだったじゃん!!」


「せっかくお友達できたのに!! やですよ! 今さら転校するの!!」

「そりゃそうかもしれんが! 辛くなったんじゃねぇの!?」


「怖かったですけど、別に社交界が全部あんなカマキリおばさんだけって訳でもないでしょー? 小春ちゃんとか、お友達は普通にいい子ですもん!」

「そりゃまあ、確かに?」


「それに! おじさんがいれば怖いものなしです!! いつでもテレパシーひとつで助けに来てくれるんですから!!」

「お前なぁ! 俺だって間に合わないこともあるんだぞ!?」


「今までなかったですけど?」

「今後はあるかもしれんって言ってるの!」


「あるんですか?」


 大きな瞳で俺を見つめる茉莉子。

 蒼いカラーコンタクトどこやった。


 オリジナル茉莉子の瞳で見つめて来るなよ。

 反則だろうが。



「ねぇよ! 茉莉子のピンチも! マリーのピンチも!! 俺が全部助けてやる!!」

「んふふー! おじさん、あたしのことが大好きですもんねー!!」


 それはこっちのセリフだ。



 茉莉子はテレパシーを使わなかったのか、それとも既読スルーしたのかは分からないがご機嫌な様子で冷蔵庫を漁り出した。

 お腹空いたのかな。


 そう言えばスープをダイナミックに飲んだとかで、ちゃんと昼飯食ってないんだったか。

 それがきっかけで、制服を持って行ったのが始まりだった。


「違いますぅー!! 茉莉子さんの恩返しを食らわせてやろうと思いましてー!! 今日こそ、あたしの手料理でおじさんの股間を掴み取ります!!」

「そうかよ。そこは掴み取るなよ!! 胃袋! せめてハート!! そこ掴んだら、もう後には引けねぇからな!? あああ! 待て、制服脱いでくれ!」



(え。おじさん。股間掴むっていうお嬢様ジョークを真に受けて、数秒で制服脱がせるんですか? しかも自分で脱げとか、え。おじさん、征服したいタイプですか? 童貞なのに? あたし、15歳の女子高生ですけど。え。命令されたらあたし、普通にされるがままですけど?)


 汚れるからだよ!!

 なんか韻踏みながら俺の地位を貶めるのヤメて!?


 どっちかって言うと征服されたい方の童貞だから!!



「へぇー? かしこまりました!! ロッテンさんの鞭、今度もらって来よ!!」

「なにこれ! 頑張ったのにさ、俺!! 結局いつも通りじゃん!!」


 とは言え、いつも通りが1番幸せなのは普遍的な事実なのである。

 それから茉莉子が作ってくれた飯は、やっぱり普通に不味くてホッとした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 色々あり過ぎて今日は疲れた。

 まだ11時過ぎだが、もう寝てしまおう。


 布団に潜り込むとフカフカした枕が俺を迎えてくれた。

 もう大好き。


 枕ちゃんと添い遂げたい。


「おじゃましまーす!!」

「寝かせてよ……」


「おじさんがベッドに入るのを今か今かと待ち構えていました!! んふふー!」

「そうだった。テレパシーって便利だよな。おやすみ」


「なんで寝るんですかぁー!! あたしを見て! ほらぁ!!」

「体操服じゃん。ランニングにでも行くの? ヤメて。迷子探すのって夜は難易度上がるから。その辺で腹筋していいからさ。おやすみー」


「嘘でしょ! ホントに寝ようと思ってる!! おじさんの好きな服装なんですけど!!」

「いや。別に好きじゃねぇけど?」


「えっ?」


 あれ。

 この子、ガチで意外そうな顔してる。



「もしもし!? 新菜さん!? お話違うじゃないですかぁ!! はい。はい。あっ! なるほどー!! そーなんですか!! 分かりましたぁ!!」


 ぼっち警察ぅ!!



「おじさん! 秀亀は体育の時間にわたしを常に目で追いかけてるんだぜー。巨乳、体操服。この双方を持ちさらに現役JKまりっぺは無敵! だそうです!!」

「違う!! 体育が何故か男女合同なんだよ、うちの大学!! 寂しいじゃん! 何もしてないのに虚空見つめてたら! 知ってるヤツ見てるだけ!!」


「……元気出してください。そだ。今日から体操服、好きになりましょ? そうすれば、新菜さんを必死で探さなくても、手近な女子で興奮できますし。ねっ?」

「変な同情しながら布団に入ってくんなよ! 寝かせてよ!!」


 茉莉子は何を思ったのか、俺の頭に抱きついてきやがった。

 洒落にならんから、本当にダメだと思う。


(恩返しですぅー。あたしはおじさんの頭の中をいつも覗いてますけどぉー? おじさんはあたしの頭の中を覗いてくれないので! こんなにドキドキしてますよってお伝えする、物理的テレパシーサービスです!!)


 なにそれ。

 画期的。


 もうテレパシーじゃないもん。


 とは言え、何やらドクンドクンと高鳴っている茉莉子の胸の鼓動は妙に落ち着くというか、疲れていたせいもあるのだろう。

 気付くと俺は、眠りに落ちていた。


「ありがとうございます。おじさん」


 茉莉子が何か呟いた気もしたが、夢だったのかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 目が覚めると、茉莉子の足の裏が俺の顔の上にあった。

 普通さ、胸に俺の顔挟まれててさ、「お、おい! お前ぇ! 何してんだよぉ!」とか、そんな感じの朝になるのが自然な形じゃない?


 なんで君、俺の顔を踏んでるの?


(おじさん。そんな事だから童貞なんですよー。そんなの、顔が近すぎて眠れなかったから、仕方なく反対側に頭を脱出させたに決まってるじゃないですかぁ)


 起きてんのかよ。

 あと意外と乙女な理由。



 普通に可愛いからヤメろよ!!



(あと、新菜さんが言ってました。童貞は拗らせると特殊な性癖を持つ可能性が高いから、足の裏に興奮するか今のうちにチェックしといた方が良いって)


 ぼっち警察。公安部に通報しとこう。

 ちょっとアレだ。


 近頃、うちの茉莉子に良くない事を吹き込み過ぎだな!!


「んー!! 枕がないから、肩が凝っちゃいましたよぉー。おはよーございまーす」

「はい。おはよう。さて、朝飯作るか」


「おじさんが足裏フェチじゃなくて安心しました。ところで、ご飯作ってくれるんですか?」

「いや、お腹空いただろ?」


「いえ? あたし、さっきご飯食べて来ましたから」

「どういうこあ゛あ゛あ゛あ゛!! 10時半じゃねぇか!! 嘘だろ!? 目覚まし時計、どうした!?」


「おばあちゃんがですね、ヒジキも頑張ったから今日は寝かせてやんなって! 電話してきたので! あ。うちは今日、振替のお休みです!」

「気持ちは嬉しいけど! 月曜日にそれして欲しくなかったなぁ!! 土曜とかにしてくれる!? 1限から授業あるんだけど!! 簿記2級講座!!」


 ジト目になる茉莉子さん。

 もう何を言ってくるか、想像がつく。


「おじさん……。やらしい学問のランク上げたんですか? まだ使ったことないのに、もう角度とか硬さとかに不安があるんですか? ……あたし、気にしませんよ! あの! 一生懸命演技しますから!!」

「ヤダ! この年頃の子ってすげぇ勢いでしょうもねぇ知識拾ってくんだけど!! 女子が怖い!! とにかく、俺は大学行くから!! 休みだったらお前はゆっくりしてろ!!」


 急いでパジャマを脱いで、何を着たものかと思案する。

 背後に視線を感じた。


(……おじさん。ちょ、その。いきなり服を脱がれると、あたしも何というか。ドキドキするので。ヤメてもらえますか?)


 普通に風呂覗いて来るのに、なんで!?


(そーゆうとこですよー。茉莉子センサーに当たってるんですってばー。不意にその引き締まった腹筋とか見せられると、思わずしがみつきたくなるじゃないですか!!)


 よし。分かった。

 俺が悪かった。


 だからマジでにじり寄って来るな。

 もう猶予がないの!

 2限にも遅れちゃう!!


 ねぇ! お願いだから!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



 大学に着いたのは昼過ぎだった。


「おいーっす。秀亀ー。何サボってんのー? ほい。ノートとプリント」

「やっぱね、最強はぼっち警察なんだわ。唐揚げ、2個やるよ。小鉢のヒジキも食べる? あ。いらない? そう。美味しいのに」


 茉莉子が元気になって良かったが。

 この日以降、見栄っ張りがさらに増していく事を俺はまだ知らないでいる。




~~~~~~~~~

 次話は18時!!

 あと30000文字!


 だけど30000文字じゃ終わりそうにない!!

 あたしってホントばか!!

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