第23話 小松絹子という女
小松絹子。
俺や茉莉子のばあちゃんであり、御年80歳のでぇベテラン。
肉も野菜も米も食い、若い男も食うという好き嫌いのなさが若さの秘訣。
御亀村では知らない者のいないばあちゃんであり、豪快過ぎるところはあるが村人から愛されている、尊敬すべきばあちゃんでもある。
確かに資産家として君臨しているが、ロッテンマイヤー侯爵夫人の狼狽え方は尋常じゃない。
いくらなんでも、村の地主と侯爵夫人では財力も発言力も違うだろ。
『ロッテンマイヤー。スピーカーにしな』
「はっ? いえ、わたくし、携帯電話の操作が分かりませんので……!!」
『ふぅん? 上手い逃げ口だねぇ。しばらく見ない間に、賢しくなっちまってねぇ。このあたしに口ごたえできるようになるなんて、偉くなったじゃないか? んんー?』
「ひっ! 操作方法を教えて頂ければ、ご随意に!!」
『そこにいるヒジキに頼みなぁ!! それ、あたしの孫だよ!!』
「え゛ぁ゛!? カマンベール大公では!? きききき、絹子様のお孫様……!?」
なんかえらいことになってきた。
周りのお嬢様たちは固まっているし、茉莉子からのテレパシーも未だ途絶中なのでやっぱり固まっているのだろう。
教頭先生からは「私、もうあなたの事を小松さんなどと気安く呼びません」と通信が入り、なんか距離ができた。
ロッテンマイヤーさんが跪くと、プルプルしながらシンプルスマホを差し出す。
「ひひ、ヒジキ様……!! お願いできますでしょうか……!! はひ、はっ、はひっ!」
「え。ああ。はい」
秀亀だよ!! って、言えない空気!!
スピーカーフォンになったスマホから小松絹子ばあちゃんの声が響く。
『あたしゃ、キヌーコ・フォン・アンビシャス!! マリーとヒジキの祖母だよ! あんたたち、よろしくね!!』
ばあちゃん!
キャラ作るのは良いよ!? 茉莉子を守るためでしょ!?
ヒジキもいれてよ!!
俺だけ海藻じゃん!! ねぇ!! アンビシャスさせて!!
俺の願いを置き去りにして話は続く。
『あたしゃね、喜津音女学院の学院長なんだよね!!』
「嘘つけよ、ばあちゃん! 俺、何回か会ったぞ! 学院長に! 品のあるお婆さんだったよ!!」
『あれね! ばあちゃんアクターズクラブから来てもらってる、プロばあちゃんさ!!』
「何言ってんのか分からねェ!! なに、プロばあちゃんって!?」
『レンタルばばあだよ!!』
「今度は分かったけど、ヤメろよ、その名称!! ぜってぇ怒られるだろ!!」
緊急事態。
うちのばあちゃん、この学院の1番偉いババアだった。
おかしいと感じてはいたんだよ、俺だって。
いくら多額の寄付してたってさ、小松茉莉子の戸籍を捻じ曲げるのは無茶だろって。
何回か疑問に思ったけど、茉莉子との生活が楽しくてどうでも良くなってた。
学院長、ばあちゃんかよ!!
じゃあデータの改ざんも余裕だわ!!
『あたしゃね、世界で28校ほどお嬢様学校の経営してるけどね!!』
「情報が多い! そんで、ワールドワイド! 御亀村が世界に羽ばたいていく!! 置いて行かれるこっちの身にもなれよ!! ばあちゃん、何者なんだよ!!」
『小松絹子だよ!! 可愛いヒジキのばあちゃんさ!!』
「知ってる!! で、ばあちゃんがずっと可愛がってんのは海藻なんだよなァ!!!」
あと!
ほんの数分前のキヌーコ・フォン・アンビシャスどこ行ったんだよ!!
ばあちゃんの演説は続く。
全ての人間を取り残して。
いや、ついて行ってるな。
俺だけはまだ、辛うじて。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ばあちゃんは語った。
「喜津音女学院に不審な資金の流れがあったので、小銭くらいだから放置しといたけど、茉莉子入学させたしちょっと掃除しようかなって思ったんだよ」と。
その下手人がロッテンマイヤー侯爵夫人だったという事らしい。
『ロッテン!!』
「はひぃ!!」
さっきまで強者の風格だったババアがロッベンみたいに!!
サッカー上手そう!!
『あんたぁ!! あたしが侯爵との縁談を仲介してやったのに!! よーくも、恩を仇で返したねぇ!?』
「ちが、違うんです!! セバスチャン! そう! セバスチャンが!! わたくしではなく!!」
『ふっ。セバス!! 言ってやんな!!』
ロマンスグレーのダンディがゆっくりと歩いてきたかと思えば、ロッテンマイヤー侯爵夫人の鞭を取り上げて放り投げる。
「いだっ!!」
それが何故か俺に当たった!!
「夫人。私はセバスチャンではありません」
「はぁ!? 15年わたくしに仕えた、セバスチャンでしょうに!?」
「絹子様に抱かれた、行きずりの男です。3億やるから、ちょいと整形してくんな! と言われ、10年前からセバスチャンになっておりました。本名は
もう何が起きてんのか分からねぇけど!!
ばあちゃん、よそ様の人生金で買うなよ!!
「落ち着かれなさいませ、秀亀様」
「良男さんマジで良い男だったわ! なんか久しぶりに秀亀って呼ばれた!!」
「人生は金で買えます。私、パチンコにはまって、競馬にはまって、FXで2度ほど死んで、ラスベガスで一発当てようとして自爆して、2億9千万の借金がありましたので。何なら1千万ほど貯金もできました。バイトすらした事ないです」
「やってる事は最悪だよ! 悪い男じゃん! パチンコで留まれよ、良男さん!!」
良男さんはセバスチャン生活のおかげで、礼儀作法と社交界でのマナーまで学べて今じゃドイツ語喋れます。こんなにステキな事はないのですと丁寧に頭を下げた。
「絹子様のご指示で、調査をしておりました。夫人。喜津音市に寄付をして、喜津音女学院から資金を横領しておられましたね。5年前から。レーン回って来た人の皿の寿司食って、そのまま皿をレーンに戻すような愚行を!!」
「う、うぅぅ!! そんな……!! バレていたなんて……!!」
ダメだ。
なんかクライマックスの雰囲気だけど、言わずにいられない。
「ばあちゃん!! 待てよ! 良男さん、10年前に潜入させてんだよな!? どういうこと!? ロッテンマイヤー侯爵夫人はその時点から怪しかったの?」
『ふふっ! ロッテンは本名、小松
俺は考えるのをヤメた。
それから、ロッテンが泣き崩れて「だって! ドイツ語分からないんですもの!!」と供述していたが、もうどうでも良い。
とりあえずセバスチャン良男にひっ捕らえられて、連行されていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『そう言う訳でね! 可愛い生徒のみんな!! 今そこにいる、細マッチョの童貞!! ヒジキはみんなのために一芝居うったってスンポーさ!! 今後もたまに出没するけど、良い童貞だからね! 優しくしてやんな! 近づいても食われないから、童貞観察もアリだよ!! それからマリーは何も知らなかったからね!! 巻き込んじまってごめんね、ごめんねー!! なっ! ヒジキ!!』
ばあちゃんは茉莉子の身分と見栄と設定を守ろうという腹積もりらしい。
良いぜ。俺を生贄にしてくれ。
乗ってやる!!
「ああ! 俺はばあちゃんの指示に従っていただけだ!! みんな、驚かせてすまない!!」
『童貞も拗らせるとね、意外と良い出汁が滲んでくるもんさ!! ご苦労だったね! ヒジキ!! 帰って良いよ! マリーも疲れただろうから、今日は早退しな!! 教頭先生!!』
「え゛っ!? あ! はい!!」
『レンタルばばあ通して色々指示してるの、あたしだから! 次期学院長、任せたよ!! あと、なんか変な空気になってるだろうから! 下校時間までに整えといて!! スコーンと紅茶とかで!! じゃあね! 愛してるよ、みんな!!』
ばあちゃん、声だけの出演で全てを収める。
教頭先生がげっそりとした顔で「後はお任せを。おヒジキ様」と言って、俺と茉莉子を帰らせてくれた。
俺のことをヒジキって呼ぶ人が大量に増えたことだけはよく分かった。
タクシーで家に帰るまでずっと無言で俺の腕にくっ付いていた茉莉子。
靴を脱いでソファに座ると、やっと口を開いた。
~~~~~~~~~
明日も2話更新!!
もう締切まで10日ないので止まれません!!
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