えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第22話 秀亀くん、オーバーラン!! ~そして単独事故!!~
第22話 秀亀くん、オーバーラン!! ~そして単独事故!!~
とりあえず困ったときは電話。
ばあちゃんに連絡。
これが御亀村の伝統で、最適解とされている。
割と懐疑的だが、現状俺には妙案どころか愚策すら思いつけない。
涙目の茉莉子を助けるためなら、何だってするさ。
「もしもし! ばあちゃん!!」
『おっす! おら、ジェニファー・ロペス!!』
今日も元気そうでなにより!!
「ちょっとやべぇんだよ! ばあちゃん、知恵貸してくれ!!」
「いいともさ! 初めてでどうにもならない時は、諦めな! 無理して奮い立たせようとしたらね、それがトラウマになって次もミスるよ!! なぁに、それで見限られたらその程度の女だったって事さ!!」
「俺のやべぇを童貞卒業失敗って決めつけんなよ!! すげぇ勉強になる!!」
「なんだい、違うのかい。じゃあ普通のテンションで聞くよ。どうしたね?」
俺以外の相談だったら普通に聞いてくれたんだ!!
とにかく時間がない。
喜津音女学院になんかヤベー先生がいるからどうにかしてくれ、話違うじゃん! と抗議の意味を込めてばあちゃんに叫ぶ。
『ほーん。ロッテンマイヤーねぇ? そのおばはん、カマキリみたいなメガネしてないかい?』
「してる!!」
『日本人っぽくないかい?』
「言われてみれば! 確かに日系人っぽい!!」
『なるほどねぇ』
「ばあちゃん、まさか見てたの!?」
『いや? 秀亀の内容と心情、焦り方なんかを纏めて推論出しただけだけど? 心理学の基本だろ?』
「心理学まで修めてんの!? 無敵かよ!! じゃあ、なんか打開策ちょうだい!!」
『秀亀さ』
「うん!」
『茉莉子を大事に思ってる気持ちはよーく分かった。そのために骨を折ろうってのは立派だよ。良い男になったじゃないか。で?』
「うん?」
『大事な茉莉子を助けるのにばあちゃんの手ぇ借りて、それで満足かい? 秀亀の矜持は? 10年経ってから、あの時どうして俺は……って後悔しないかい?』
「ガチで相談に乗ってくれたら、そういう感じなんだ。秀亀って呼ばれて諭されるとクルな、これ……。なんか俺が間違ってたわ。ごめん、ばあちゃん」
電話の切り際、ばあちゃんが言った。
『安心しな! ばあちゃんも行けたら行くから!!』
「来ねぇヤツの常套句!! サンキュー! 逝ってくる!!」
『ヒジキならできるわ!!』
「おざなりにセイラさんのモノマネすんなよ! やだな、そのセイラさん! 金塊持って軍抜てけそう!! 秀亀なんだよ、俺ぇ!! ヒジキでできるなら、秀亀でもできる気がしてきたわ!!」
通話を終えると、着替えた茉莉子が俺を不安そうに見つめていた。
「あの、おじさん。あたし自分でどうにかするので」
「待て、茉莉子。俺はお前を任されてるんだ。保護者だぞ。保護させてくれよ!!」
「どうやってですか!?」
「そりゃ内緒だ! 茉莉子はすぐ顔に出るからな。俺の頭の中でも読んで、安心してろ!!」
目を閉じる茉莉子。
少しだけ落ち着いたように見えた。
「おし! 戻るぞ!!」
「……お漏らししそう!! で、頭の中がいっぱいですけど。あの、個室の端にトイレあるので。今は授業中ですし、あたしが外で見てるから済ませてきてください」
これでもう、恐れるものは何もない!!
マリーさんは俺が守ってやるからな!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
教室に戻った俺は、教頭先生に小声で呟いた。
「俺は今から、侯爵夫人に挑戦します」
「なんと。死ぬつもりですか!?」
「えっ!? 死ぬんですか、俺!」
「ロッテンマイヤー侯爵夫人は資産家です! 潰されますよ!!」
「そ、それでも、俺は!! 戦わなくちゃいけないんです!!」
「そこまで決意が固いのですか。……私は嬉しいですよ、小松さん!! 喜津音女学院の教員になるために、爪痕を残そうと言うのですね!?」
「違いますけど!?」
「そう言うことでしたら協力は惜しみませんよ!! 貴重な男の同僚です!! 全力で助太刀しましょう! あんなババアに負けてはいけません!!」
「……俺、今年から教職課程も取ります!!」
「ババアの弱点は地位です! 自分よりも身分が上の者にはへつらう習性があります!! 小松さんもやんごとなき身分ですものね!!」
その弱点の情報、全然役に立ちませんでした!!
俺、ただの秀亀です!!
教頭先生に敬礼をして、教室の真ん中へと向かう。
当然、ロッテンマイヤー先生が鋭い視線で睨みつけて来た。
おしっこして来て良かったぜ!!
「失礼! 私、マリーの叔父です! 伯父かもしれません!!」
「警備の者を呼びましょうね」
迷いのない通報!
これが侯爵夫人!!
「ヒデーキ・フォン・カマンベール伯爵と申します」
「そうですか。私はロッテンマイヤー侯爵夫人ですが」
「伯爵です」
「ええ。こちらは侯爵です」
「伯爵ですが?」
「無礼ですね。鞭で叩きますよ?」
おかしい! 鞭で叩かれる!!
渾身のブラフが効いていないだと!?
やっぱりコテコテの日本人顔がダメなのか?
この人だって日本ババアに見えるのに!!
教頭先生の声がイヤホンから聞こえてくる。
とても悲しそうだった。
『小松さん。あの、伯爵よりも侯爵の方が貴族階級では上なのですが……』
そうなんですか!?
ええ!? 知らなかった!! じゃあ、侯爵より上のヤツ教えて欲しいなぁ!!
茉莉子が教頭先生に耳打ちしてくれているのが見えた。
ナイステレパシー!! 完璧な連携じゃないか!!
「あの、小松さん? 一応、その上は大公なんですけど。それはですね」
俺は教頭先生の言葉を最後まで聞かずに、侯爵夫人に向かって「あいや、待たれい!!」とポーズをキメる。
喰らえ! ババア!!
俺は叫んだ。
気分は完全に逆転裁判。
「失礼。私はヒデーキ・フォン・カマンベール大公です」
「……大公殿下ですか?」
「ええ」
「どちらの?」
「どちら? ああ、オカーメです。オカーメ」
「聞いた事がありません」
「ふっ。モグリですね!」
「言っておきますが、私を謀っているのならば相応のお覚悟を。どのようなおつもりで先ほどから授業の邪魔をしているのかも存じ上げませんが」
俺の心理学を喰うが良い。
「今の時代にそぐわないと私、少しばかり思いましてね。いやなに、大公として、少しばかりね、少しばかりご忠告をと。自由な時代なのですよ、今は。この学院は日本にある。ババアの国ではどうだか知りませんが、あ、ババアっていい意味でですよ。とにかく日本では日本に則した教育と言うものがあると思います。このように生徒たちを委縮させる事に何の意味がありましゃうや!!」
完璧に決まった。
俺は今、生まれて初めて俺が輝いていると確信に至る。
そうとも。
確認のしようがない以上、大公の俺から忠言を受ければ聞かざるを得まい!!
侯爵ババア!!
「それで? オカーメと言うのは国ですか?」
「どっかの島ですけど? 今はそんな事よりも、あなたの時代遅れな高圧的教育についてお話をしているのです。このカマンベール大公がね!!」
「大公とは、王族に連なる者。あるいは小国の王。この場合は公国を治める者の称号ですが。オカーメとはどこにある国ですか? 場所をおっしゃいなさい」
そうなんだ!! じゃあ、無理ですね!!
……やっちまったなぁ!!
知らねぇもん! 爵位に興味持つ環境で育ってねぇもん!!
実家は沢庵漬けて生計立ててんだもん!
俺は命を諦めた。
小便してる時にちょっとググれば良かったのに。
嘘で塗り固めた羽はカマキリみたいなメガネの光で焼かれてしまった。
イカロスだって蝋で翼を作っていたのに、俺の翼は嘘だから。物質ですらないし。
概念で空は飛べないんだよね!!
ロッテンマイヤー侯爵夫人がベルを鳴らすと、ロマンスグレーの髪を撫でつけたガチの爵位持ってそうなダンディが歩いて来る。
ギロチン刑に処されるのかしら。
「セバスチャン。この無礼者を連れて行きなさい」
セバスチャン!!
そのオーラで、まさかの執事でいらっしゃる!?
完全に終わった。
だって俺、ヒジキだし。
「奥様。お電話が入っております」
「私は携帯電話が嫌いだと知っての事ですね? それほど重要なのですか?」
「はい。とにかく出ろ! と申されておりまして」
「無礼者ばかりに遭う日です。……はい。ロッテンマイヤーですが」
携帯電話の受話音量は最近、結構大きいのが主流らしい。
なんだか耳慣れた声が漏れ聞こえて来た。
『ロッテンマイヤーねぇ? ずいぶんと贅沢な名前になったもんだよ』
「誰ですか、あなたは。私の身分を知っての狼藉ですか? 許しませんよ?」
電話の声は「ひっひっひ」と不気味に笑った。
やっぱり聞き覚えのあるようにしか思えない。
『あたしの声を忘れたかい? 小松絹子だよ。ロッテンマイヤー。うちのヒジキがずいぶんとお世話になってるようだねぇ?』
「こま、こまっ!? き、絹子様!?」
ばあちゃん!!
行けたら行くで来てくれた、奇跡のばあちゃん!!
だけどなんでラスボスみたいな威厳を放って、侯爵ババアをビビらせてんの!?
えっ!?
何が始まるんです?
~~~~~~~~~
次話は18時!
今書いてます!!
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