えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第21話 ガチの侯爵夫人、ロッテンマイヤーさん ~小松秀亀の少し長い1日~
第21話 ガチの侯爵夫人、ロッテンマイヤーさん ~小松秀亀の少し長い1日~
喜津音女学院から電話があったのは、ちょうど家でカップラーメンをすすっていたお昼の事である。
今日は日曜特別授業とか言うヤツらしく、朝からぶーぶー文句言いながら茉莉子は登校して行った。
「はい。小松です」
『あなたのソウルフレンド。喜津音女学院の大山田でございます』
誰だよ!?
と、思ったが、声で教頭先生だとすぐに気付いた。
俺たちは魂が繋がっていたのか。
じゃあ、名前くらい教えてくださいよ!!
「大変ですね。日曜日もお仕事とは」
『まあ、平日に休みがありますからね。……家族と休みが合わないので、学院でも家でも独りぼっちですけど』
教頭先生と俺、ソウルフレンドだったよ!
「ところで、何かご用でしょうか?」
『ああ、これは失礼。ついつい小松さんに電話をかけられると思っただけで興奮してしまいましてね! 世間話から入ってしまいました!! ふふふ! あのですね、本日は社交界のマナー講座を6時間目までみっちり行っているのですが』
さすが県内どころか、近隣地域屈指のお嬢様学校。
そんな事もやるんだ。
「すごいですねー」
『まったくもっておっしゃる通り。それでですね、お宅のマリーさんなのですが。食事マナーの授業で手を滑らせて、スープを制服にこぼされましてな。お皿をダイレクトに持ち上げたと聞いております。いやはや、周りの緊張をほぐそうとされたんでしょうなぁ! なにせ、マナー講座は高等部から始まる授業で、本日はその1回目! お優しい子ですねぇ!』
嫌な予感が全力疾走して来る。
こっち来るな! あっち行けよ!!
「マリーが何か言っていましたか?」
『制服のスペアがないとの事で、おじ様に持って来て欲しいと。助けて欲しいと言っておられましたので、暇を持て余していた私がご連絡差し上げた次第です。お時間がおありでしたら』
教頭先生の言葉を遮るのは申し訳なかったが、俺は即答した。
「すぐに行きます」
ばあちゃんが手配してくれた制服のストックは20ほどある。
とりあえず2着ほど手に取り、今回はバッグにそれを押し込んで、自転車にまたがるとペダルを全力で踏み込んだ。
近いうちに原付バイクを買おう。
いや、軽自動車が良い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
無事に校門の守衛さんチェックもクリアして、俺は学院の敷地内へと突入。
嫌な予感はさっきから俺と肩を組んでダンスしている。
茉莉子、いや、マリーさんにはテレパシーがある。
今回はそれが不通。
助けを求める余裕もないと見た。
だって、朝、家を出る時にあの子言ってたもの。
「日曜日に授業って何するんですかねー? なんかプリント貰ってたんですけど、紙飛行機折ってたらつい飛ばしちゃいましてー! 上等な紙見ると、折りたくなりますもんね!!」とニコニコしながら。
今は絶対にニコニコしてねぇな!!
1年4組の場所は未だに分からんが、とにかく接触しなくては。
そう思いエレガントに小走りしていると、名前が判明した教頭先生。
大山田教頭がにこやかに手招きをしていた。
「ああ! わざわざお出迎え頂けるとは! 申し訳ありません!!」
「とんでもありませんよ! 私がお待ちしていたのですから! 共に参りましょう!!」
「ご案内までしてくださるんですか!?」
「いえ! 授業参観の許可を取り付けました!! もうね、職員室に男って私だけなので! 全方位を女性に囲まれているんですよ! 今の時代、目が合うだけでも星屑ロンリネスでしょう? もう、脱出する理由をゲットしたら、行使しねぇ理由がないんですよねェ!!」
テンションの高い教頭先生。重ねてすみません。利用させてください。
授業を見る事ができれば、俺が助けてやれるかもしれない。
待っててくれ、茉莉子!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
1年4組の教室が、とりあえず俺の家よりも大きかった。
喜津音大学の1番大きな講堂よりも大きかった。
マリーさんや。ここで君、側転したの!?
すごいなぁ! 胸囲だけじゃなくて、度胸までデカくなってんだ!!
(……おじさん!?)
そのマリーさんの声がやっと脳内に響いた。
いつもはうんざりするのだが、今日はなんだかホッとする。
どこだとキョロキョロしていると、教頭先生が双眼鏡を貸してくれた。
「授業参観は基本的にこちらを用います。あと、こちらもどうぞ。音を拾えますよ」
「人気アイドルのコンサートみたい!!」
イヤホンを耳に挿し込むと、今度は現実が「やあ!」と気安く歩み寄って来た。
『それでは、ダンスの講義を始めます。まずウィンナー・ワルツ。次にフォックストロット。ブギも行いますよ。皆さん、経験があるからと言って手を抜かないように!!』
地獄かな?
俺は教頭先生に尋ねた。
「あの、日村先生はどちらに?」
「隅に控えていますよ。マナー講座はロッテンマイヤー公爵夫人が行われるので。長年本学院に縁のある講師の方ですし、我々はお手伝いをするくらいですな」
見れば見るほどにフランクフルトにお勤めのロッテンマイヤーさんにしか見えない、ロッテンマイヤー侯爵夫人が、なんか鞭っぽいものを持って、カマキリみたいなメガネを光らせていた。
地獄かな?
教頭先生がトランシーバーを取り出す。
「侯爵夫人は現代機器がお嫌いでしてね。連絡はもっぱらこれです」との事。
「失礼します。教頭の大山田です。マリー・フォン・フランソワさんのご家族が参られましたので、彼女に少し退席の許可を頂けますでしょうか」
『そうですか。フランソワさん。どうぞ、着替えていらっしゃい。周囲の緊張を解そうとした貴女の行動はエレガントでしたけれど、スープをかぶるのはやり過ぎです。清潔な服装でなければダンスはできませんからね』
ロッテンマイヤー先生はそう言うと、鞭をビシッと鳴らした。
それ、必要ですか!?
もう茉莉子を助けるには、教育委員会にこの動画を提出するしかない気がする!!
「ロッテンマイヤー侯爵夫人は喜津音市に毎年ふるさと納税を2億ほどされておられるとか。いやー。想像もつきませんなぁ!!」
じゃあ教育委員会はダメだ!
絶対に手が回っている!!
俺が絶望していると、マリーさんがげっそりしてやって来た。
制服のブレザーも、シャツも黄色くなっている。
「おじ様。ご足労頂き感謝いたしますわ」
「お、おう。教頭先生。ちょっと着替えさせて来ても良いですか?」
「教室の隣に個室がありますので、そちらで」
「個室ですか?」
「学院の生徒には1つずつ個室が割り当てられていますので、着替えなどはそこでする事になっているのですよ。シャワーもついていますので。ただ、あまりゆっくりされるのはおススメできませんな。侯爵夫人、更年期障害気味なので。ひっ!!」
鞭が矢のように飛んで来て、教頭先生の頬をかすめる。
俺、鞭をあんな風に使う人を初めて見たなぁ。
とりあえず、マリーさんを連れて教室を出た。
件の個室は四畳半ほどの広さがあり、もうここで暮らせそうである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おじさぁぁぁん!! もぉ無理ですよぉ!! なんですか、あれぇ!! 急に世界名作劇場の中に叩き込まれたんですけどぉ!? ご令嬢の時計って18世紀くらいで止まってるんですかぁ!?」
涙目のマリーさん。
今日ばかりは涙をこぼさないマリーさんってすごいと思う。
「とりあえず、着替えるか」
「おじさん。あたしをここからさらってください!!」
「カリオストロの城見たもんな、一昨日。けどな、茉莉子? 俺ルパンじゃねぇし。お前クラリスじゃなくてマリーだし。無理じゃね!?」
「うあああー!! こんなガチのヤツ、想定外ですよぉ!! お嬢様じゃなくて、貴族じゃないですかぁ!! 違うんですぅ! あたしの理想と全然! 怖いですぅ!!」
耳につけたままのイヤホンに教頭先生の声が響いた。
『小松さん。お急ぎください。侯爵夫人がブレイクダンス始めました!!』
「どういう状況!? 茉莉子! とりあえず急げ! 早く戻らんと事態が悪化しそうだ!!」
普通にシャツを脱いで下着姿の茉莉子が俺を見つめて問いかけた。
「これ以上の悪化ってあります? それ、心臓止まるとかのレベルですよ? あぅ。もう帰りたいです……」
「はははは! ……ばあちゃんに電話するわ」
現実逃避だけは上手くなりそうな予感のする、日曜日の昼下がり。
どうして俺はたまの休みに地獄へ来てしまったのだろうか。
けれども、茉莉子が泣きそうなら俺がハンカチーフになるしかない。
涙を零させてなるものか。
エレガントに拭ってやる。
ばあちゃん! 早く電話に出ろよ!!
~~~~~~~~~
明日も2話更新!
お時間いつもの12時と18時!!
すとっく。知らない言葉です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます