第19話 個別学習デビューする桃さんと家庭教師デビューする秀亀くん ~ギャルとは何なのか~

 今日は山森幻桃さん、いわゆる桃さん。本名レアピーチさんの家庭教師。

 その初日を迎える。


 本来ならば俺が桃さんの家に出向くのが筋なのだが、「やっ! 秀亀さんバイト多いらしいじゃないすか! ウチが行くっす!」と極めた優しさの片鱗で俺の心を虜にする。


「あのー。おじさん。まさか桃さんのこと……」

「とてもステキな人だと思うよ」


 と、口頭で褒めたところで、どうせ茉莉子には心を読まれている。

 桃さんは人間的に大変尊敬できるのは事実だし、4月に誕生日を迎えているので年齢的には俺と2歳しか違わないのに器の大きさは既に余裕で負けている。


 とは言え、1度しか会っていない女子を異性として、恋愛対象として意識できるかと言えば話は変わる。

 周りの女どもに散々いじられているが、童貞を拗らせている自覚はあるんだ。


 男子校から大学でぼっちデビューをキメた俺に、一目惚れとかそう言うのはハードルが高すぎる。

 と、これだけ弁解しておけば茉莉子も安心しただろう。


「ななななななな、なんで黙るんですかぁ!? ほ、ホントに桃さんの事を……!? 待ってください、おじさん!! あたし! あたしアレですよ! ほら、アレ!! ええと! アレです!! もうおじさんになら何されても許せます!! これ! ほら、良くないですか!? ねぇ!!」


 この子、肝心な時に思考を共有してくれないのはどうしてなの?



「よ、よーし。分かりました。分かりましたよ、おじさん。あたしも覚悟を決めましょう。マウント、摘まんでも良いですよ!!! 特別にぃ!!」

「お前マジでマウントの意味くらい理解しろよ!! 確かにお嬢様はマウント取ってやりますわ! とか言わんだろうけど! それ、隠語じゃねぇからな!? なに!? お前、15の女子の胸を摘まむ俺が見たいの!?」


 無言で頷く茉莉子さん。

 頷くなよ!! どうしていいか分からなくなるわ!!



 タイミングよく呼び鈴が鳴った。

 桃さんが来たらしい。


「よし。仕事の時間だ。茉莉子は邪魔しないようにな。お給料を頂く以上、本気でやるのが俺の流儀だ。桃さんには喜津音大学に入ってもらう!!」

「はいっ! あたしはお茶淹れたり、お菓子持って来たり、お菓子食べたりします!!」


「……マウント寄せるの、ヤメてくれるか?」

「あー! 見てるじゃないですかぁ! おじさんの正直者っ!! よーし! マウント取られた事ですし、お迎えして来ます! 桃さーん、いらっしゃい! どうぞどうぞー!!」


 俺はちゃぶ台をもう一度拭いてから、参考書を並べるのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ちょりーっす!! 本日からヨロピコなんでシクヨロでっす!!」

「すごい! 何を言っているのか分かりません!!」

「おう。俺もよく分からんが、なんかニュアンスは伝わって来る。すげぇな」


 桃さんは私服だった。

 1度学校から家に帰って、着替えてからやって来たらしい。

 理由を聞くと「ご近所の人とかに知らない女子高生が入り浸ってるとか思われたら、秀亀さんヤバめじゃないすか!!」との事。


 本当に配慮を行き届かせるプロだよ、この子。



 でも、既に小春ちゃんと新菜が結構な頻度で入り浸ってるんだよなぁ!!



「桃さん! それがギャルファッションですね!!」

「そっすよ! これ! ホットパンティーっす!!」


「ホットパンツじゃなくて!? なんかもう、制服で来てくれた方が良いってすぐ思い直せるくらい酷い名称なんだけど! ……ほら! ホットパンツじゃん! 今スマホで調べたよ!! あとね、ホットパンティーも存在したよ! それ穿いて歩いたら捕まる!!」

「おじさん、おじさん。ズボンの事をパンツって言うんですよ? 都会では」


「うん。知ってるけど」

「つまり! 丁寧な言葉にすると、パンティーになるのでは!?」



「バカばっかり!! パンツの丁寧な言い方がパンティーじゃねぇからな!?」

「えっ!?」

「マジすか!?」


 俺、これで時給2万円とか既に申し訳なくて耐えられそうにないよ!?



 デニムのホットパンツ。

 へそが余裕で出ているニット。

 陽な女子の皆さんがよく被っているキャップ。


 確かに見た目は完璧にギャルである。


「すごいです……! そのボロぎれジーンズって高いんですよね! 穴だらけなのに!」

「バカだなぁ、茉莉子は。それ、ダメージ加工って言うんだよ。わざわざそういう風にしてるから、むしろ普通のデニムより高いの。そのくらい俺だって知ってる」


「や。これ、もとは普通のジーパンっすよ? 膝のとこ破れたんで、バシッて切ったりました! 普通にボロボロになっただけっす! もったいねーんで!!」

「物持ちが良いだけかよ!!」


「おへそ出すとか、これがギャル……!! お腹冷えそうです……!!」

「バカだなぁ、茉莉子は。そういう人はこんな格好しないんだよ」


「正直、もうお腹痛いっす。ウチ、すぐお腹冷えるんで」

「茉莉子! 温かいお茶淹れて!! あと、お前のブランケット貸してあげて! リラックマのヤツ!!」


 ギャルをするためには体調まで犠牲にしなければならないとは。

 崇高な種族であることを再認識した。


「はい、桃さん! お茶ですよー! ところで、なんでギャルの人って野球帽かぶるんですか?」

「バカだなぁ、茉莉子は。多分桃さんもバカだから、ちょっと待ってなさい」


「これっすか? パパが大ファンなんで!」

「ほらご覧よ!! よく見たら、中日ドラゴンズの帽子じゃん! ヤンキースのヤツとかじゃなくて!!」


「本気出す時は、こう! クルっと後ろ向きに回すんで!!」

「それ、サトシがモンスターボール投げる時のルーティーン!! そんな被り方してるギャルなんか知らねぇよ、俺!!」



「おじさん。ギャルの知り合いなんていないでしょ? どうしてツッコミのために見栄を張るんですか? もしかして、大学では机に伏せてギャルの観察してます?」

「そうなんすか!? 秀亀さん、ウチで良ければガン見おけまるっすよ!!」


 そろそろ授業させてもらえねぇかな!!

 茉莉子はごんぎつねとか泣いた赤鬼とか読んで、優しさを勉強してなさい!!



 やっと桃さんの導入部が終わったらしく、もう絶対に脱線させないと俺は誓った。

 三年生になってから習熟度テストがあったとの事なので、今日はその答案と順位が記載された成績表を持参してもらった。


「なかなかハズィーっすね。ええと、どこに入れたっすかねー?」

「なんで鞄だけ小学生の頃、家庭科で作るナップザックなんだよ!! 物持ちが良いなぁホントに! なんか好きになりそう!!」


「え゛っ!? おじさん! おじさん!! あたし! 小学生の頃に作ったトーテムポール持って来てます!! あたしのハートに帰って来て下さい!!」

「御亀村は昭和なのかな!? ああ、もう! 仕事させろよ! 愛してるから!! 桃さん、まだストップウォッチ押してないからね!!」


 茉莉子が満足そうに「ふすーっ」と鼻を膨らませているので、この隙に桃さんの成績を確認しよう。

 聞けば、喜津音女学院の中等部に在籍していた頃から塾通いをしているらしい。

 それなりの学力はあるだろう。


 喜津音商業高校だって結構偏差値高いし、そこの編入試験もパスしたのだから。


「これが答案で! こっちが成績表っす!! パナップでしょ!!」

「桃さん。こんなベタな事を聞きたくないけどさ。30点満点だったりする?」



「200点満点っすけど?」

「おい、マジかよ!! 俺の想定をどんどん下に超えてくんだけど!! 絶対日本語おかしいけど、そうとしか言えねぇ!! なんだよ、下に超えるって!!」


 全ての答案が30点より低いのだから、そう思いたくもなるよ!!



 順位を確認したところ、39位。

 桃さんに1学年の生徒数を聞いたところ、120人と言う。


 喜津音商業高校の生徒がちょっとアレなのか。

 それとも問題が難しすぎて、平均点が12点くらいだったのか。


「あーね! 秀亀さん! それ、クラス単位っす!」

「ブービー賞じゃねぇか!! でも、下に1人いてなんだかちょっと救われた!!」


「秀亀さん、オモロー! ウチのクラス、1人退学してるんで! 全39人っすよ?」

「なら最下位じゃん!! いや、分かってたよ! けど、やっぱすげぇ絶望感!! どうしたらいいの、俺!!」


 俺と桃さん。

 二人三脚で針山地獄を走るような、苦難の道のりが始まったのである。


 だが、どんな時でも希望ってヤツはある。

 願望9割だが、1割を引けばいいんでしょう?



~~~~~~~~~

 明日も2話更新! ストックなくなりました!!

 大丈夫です! 今から書きます!!

 お時間12時と18時!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る