第15話 親切なギャル(?)の桃さん ~今日もピンチのマリーさん~

 今日は3限と4限が両方とも休講になると言う僥倖。

 しかもバイトも休み。


 こんな日は家に帰ってチャーシューでも煮込むのが吉と俺の中では決まっている。

 チャーシューはそのまま食べても良いし、チャーハンなどに叩き込むだけでワンランク上の料理へと進化させる事も出来る強力な素材アイテム。

 食べ盛りの茉莉子も満足してくれるし、手間をかけた分だけ美味しくなるし、なにより安い。


 そうと決まれば、スーパーでやっすい豚肉を買いに行かなくては。


「ぼっち警察だ!! 止まりたまえ!!」

「ふっ。今日の俺は学食には寄らないんだ。悪いな、新菜。ぼっち警察の世話にはならない!!」


「えー。なんだよ。つまんない。学食でわたしがぼっち飯とか、切ないじゃんかー」

「というか、新菜って基本俺と講義かぶってるよね?」


「そうだぜー? ボッチ警察の美人婦警としては、入学初日に大学デビューし損ねた秀亀を無視できないじゃん? 顔はフツメンだし、身長高いし細マッチョだし。まともなコミュ力があればバラ色の大学生活がワンチャンあったのにねー。いやー。入学式で女子のグループに声かけられたのにねー。いやいやー。緊張し過ぎて立ちくらみ起こして、倒れるふりして抱きついてきたのがこの新菜さんで良かったよねー。わたしみたいに心の広い女子じゃなかったら、もうぼっち確定演出だったもんねー。あっ! じゃあなんで今、秀亀はぼっちなのかしら!?」



「今日、休講だぞって教えようと思ったけど。ヤメた。休講じゃないぞ」

「マジで!? いやっほう! 秀亀んちでゲームしよう!!」


 どれだけいじられても、どれだけ古傷に粗塩すり込まれても。

 ぼっち警察であらせられる新菜さんに保護してもらわないとガチぼっちなのだ。


 何も言えない!!



「スーパー寄るからな」

「あらやだ! わたしを食べ物で落とす気だ! 秀亀はご飯美味しいからなー。晩御飯なぁに?」


「今晩は庭のナスでなにか一品つく……ゔっ!!」


 脳内に大音量で響き渡るのは、マリーさんの声である。

 最近は時間に応じて茉莉子とマリーの使い分けを普段から行っているので、いざという時にも口から出て来るのは適切な名称。


(おじさん! おじさん!! おじさん!!! 助けてください! ヤバい、ヤバい、ヤバい!! マジでヤバいです!! もぉ、無理です!! 死にます!! 命取られます!!)


 緊急事態なのは声のボリュームで察知できた。

 マリーさんが迷子になってお漏らしした時と同じ音量だもんね。


(してないですぅ!! ギリギリセーフでしたからぁ!!)


 確認してないから、俺には断言できかねる。

 けど、そうだね。

 茉莉子がおねしょしてたのは9歳までだもんね。



(……今晩、おじさんが寝た後、部屋におじゃまして。お味噌汁の残りを股間中心にぶっかけますから)


 ばあちゃんがよく言っていた。「茉莉子はあたしにそっくり!!」と。

 サイコパスなんだよなぁ! 冗談に対する仕返しの発想がさぁ!!



 突然黙った俺を見て、新菜が腕組みをしながら頷いていた。


「分かる分かる。やるよねー。今でもさ。うん。20歳って言っても、まだ心は思春期! わたしもやるよ? 自分の部屋で夜中にテンション上がった時とか! 胸押さえてさ! ……くっ! 騒ぎ始めた……っ!! とか!!」


 マリーさんに告ぐ。

 ピンチの時こそ小さな声でテレパシーはお願いします。


 大学で唯一の友人に中二病フレンズ認定されたから。


(だって! 仕方ないじゃないですかぁ! ゲーセン? とか言う魔境に来たんですけど! ほら、町娘としての嗜み的な? 今度、小春ちゃんたちと一緒に来た時にデカい面したいので!)


 なんて無謀な事を。

 さては、激しい光を凝視し過ぎて具合が悪くなったな?


 待ってろ。すぐに行く。



(……あの。都市伝説だと思っていた、ギャルとか呼ばれる人に捕まって、今からクラブ? とかいうとこに連れていかれて、大人の遊び? とかいうのを教わるみたいです。ヤバくないなら行きますけど。もしかして、過剰に反応し過ぎました?)


「新菜! 今度好きな時に遊びに来てくれ!! なんでも食いたいもの作ってやる!! だから今日はすまん!! うちの茉莉子がヤバい!! 悪ぃ! 俺、行くわ!!」


 マジですぐ行く!!



「あー。あれだ。僕らはいつも以心伝心とか言うヤツだ。わたしは弟のエロ本見つけるくらいしかできないけど、やるなー。小松家!!」


 なんだか生暖かい目で見送られた気がする。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 スマホの位置情報サービスを考えた人はマジで偉い。

 うちの子のピンチに颯爽と参上できるんだから。


 自転車を急いで停めると、俺は駅前のゲームセンターへと突入する。

 すぐにマリーを発見。

 こういう時、金髪って便利でいいね。


「マリー!! 無事か!? 大人の遊びはもう覚えた!? だったら俺にも教えて!!」

「おじさぁーん!! ふぐぅぅ! 助かりましたぁー!!」


 涙目のマリーさんを確保。

 隣には赤に近い茶髪の女子高生がチュッパチャプスを2本同時に舐めていた。


「ギャルだ……!!」

「やっぱり、そうですよね!? 飴ちゃん2つも咥えるとか、ガチですよね!?」


「ああ……。これほどの使い手は俺も見たことがない!!」

「ひぃぃ! 都会怖い、都会怖い、都会怖い……!! おじさんの経験則にぼっち加味して言ってることの信憑性がゼロでも、やっぱり怖いですぅ!!」


 ギャルが俺に向かってゆっくりと歩いて来る。

 その足運びで確信した。

 俺たちとはそもそも立っているステージが違う。


「すみません!! 勘弁してやってください!! こいつ、地中海から来たばっかりなので!!」

「マジでー!? 地中海とかすごくね!? あ、ウチはたまたまね、茉莉子さんの財布拾ったんだけど。なんか距離掴めなくて? とりま、ケー番交換したとこ!」


 思っていたのと結構違うんだが。

 お財布拾ってもらったの?


(拾ってもらいました。けど、けどですよ! おばあちゃんが! 予めお財布をすってから、さも拾ったように接して来る輩が東京にはいるって!!)


 マリーさんや。

 まずここは東京じゃない。

 確かにね、そういう人もいるとは思う。一定数は。


 けど、親切にお財布拾ってくれる人の方が日本ではまだ圧倒的に多いと俺は信じたい。


「すみませんでした。この子、本当に喜津音市に越してきたばかりで。しかし、なぜ電話番号を?」

「やー。なんかテンパってっから、ご自宅にお電話してあげた方がいっかなって! で、番号教えてって言ったら、何故かケー番だった!!」


 ケー番だったの?


(家の電話番号を教えたら、悪いセールスがたくさん来るっておばあちゃんが!!)


 ばあちゃん、入れ知恵は良いけど偏ってんだよ。

 しかも確定で悪ふざけ入ってるからな。


「何から何までご迷惑を。俺は小松秀亀。こいつの保護者です」

「あーね! パパだ!」


「叔父です。伯父かもしれません。けれどパパではないので、勘弁してください。もうそう呼ばれただけで死の気配が漂う時代なんです」

「ウチはももって呼んでくださいっす! 秀亀さんと茉莉子さん! ヨロっす!」


 そう言えば、どうしてマリーじゃなくて茉莉子なんだろうか。


(スマホをピッてやって、パッてやったら! あーね! 茉莉子さんか! とか言い出したんです、この人!! 多分、ギャルが使う技ですよ! あの、キャッシング詐欺とか言うヤツ!!)


 フィッシングと間違えてるんだろうけど、正しくはスキミング。

 ちょっとスマホ見せてくれ。


(はい。ウイルス入ってませんか!?)


 律儀に桃さんの情報も登録してくれている。

 山森幻桃さん。なんて読むのだろうか。


「あー! 名前っすか? さーせん! キラキラネームなんで!」

「いえいえ。ちなみに、何とお読みすれば?」



「ヤマモリレアピーチっす!!」


 山盛りレアピーチ!!!



 これがギャルの桃さんとの出会いだったが、この程度は序の口。

 桃さんは色々とすごい人で、そもそもギャルじゃなかったのである。



~~~~~~~~~

 ついにストックが残り3になりました!

 ですので、明日も普通に2話更新!

 お時間12時と18時!!


 ここからが本番です!

 私の!!

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