第12話 一緒に風呂に入ろうとして、風呂を覗いて、布団に潜り込んで、お約束な茉莉子さん ~小松家ではホラーゲーム規制法案が可決されました~

「おおおおおお、おじ、おじおじ、おじさん!! そのですね!」

「一緒に風呂には入らんぞ!! で、なにかね?」


「なんでですかぁ!! あたしが誘ってるんですよ!?」

「なんでもなにも! お前、女子高生じゃん! 俺、男子大学生!!」


「それがなにか!? あたし、妹ポジションなのでセーフでしょ!? 子供の頃は一緒にお風呂入ったじゃないですかぁ!!」

「必死なテンションで言って来るなよ! そのセリフ、男が言って女子が赤面するか、女子がからかってきて男が照れるかのどっちかなんだよ! ガチの誘い文句で言う女子いる!? お嬢様キャラはどうした!?」


「お嬢様だって、好きな人とお風呂にくらい入りますぅー!! そーゆう偏見、良くないと思いますぅー!!」

「さらっと告白してくんな!! じゃあなおさらダメだろ!! 自分を大事にしろ!!」


「はぁー、なんですけど!? 自分を大事にした結果、おじさんを誘ってるんですよ!! この家、古いからお風呂も怖いんですよ!! 天井から雫が落ちて来るとか、昭和ですか!? 村のお風呂からグレードダウンするとか事件ですよ!!」

「そりゃそうだろ! 村の風呂って、どの家もオール電化だったじゃん!! 干し柿吊るしてるのに、電気売ってるとかどうなってんのって思ってたよ!!」


 俺と茉莉子の攻防戦は既に1時間にわたる長さになっていた。

 頑なに一緒に風呂に入ろうと譲らない女子高生。


 しかも水着とかバスタオルとか絶対に必要なオプションも「そんなのいいですから!!」とかなぐり捨ててくる。

 「明日、日直なので朝が早いんですよぉ!!」と涙目で恫喝してくる。



 女子高生に混浴しろって脅される日が来るとは。

 令和って時代の可能性を俺は今、目撃しているのかもしれない。



 最終的に「脱衣所に俺が待機している状態で入浴させる」という折衷案が採択されたのは、もう夜の10時近くなってからだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 服を脱いで、茉莉子が風呂場に入る。

 ドアが閉まった瞬間に脳内が大騒ぎ。


(おじさん! 早く! おじさん! 早く!! おじさん、おじさん!! 早く来てください!! 怖いから!! 間違ってドア開けてください!! お願いですから!! 慣れてない家のお風呂ってだけでも怖いのに! ゾンビが! ゾンビが!! ……あの! もう出て良いですか!?)


 良いことあるか!!


 入って1分しか経っていない。

 せめて髪と体くらい洗ってから出て来なさい!


(……髪を洗う!? バカなんですか!?)


 言うと思った!!

 目を閉じるのが怖いから無理って言う件が始まるんだな!!


 じゃあ、もう良いよ! 体だけ洗って出て来いよ!!



(……髪、浴槽に浸かってびしょびしょになりましたけど?)


 アホすぎる質問テレパシーで送って来られて、俺になんて答えて欲しいんだよ!!

 洗え! 濡らしてシャンプーしないで出て来るとか、1番不衛生なヤツじゃん!!



 茉莉子が出て来るまでに1時間かかった。

 もう23時を過ぎようとしているのに、やっと風呂が空いた。


 俺だって明日、1限から講義があるのに。


「あのさ。茉莉子?」

「なんですか?」


「髪乾かしたよね?」

「はい」


「出てってくれない?」

「えっ? 嫌ですけど!?」



「風呂に入れねぇんだよ!! 脱衣所から出ていけよ!!」

「何でですか!? 怖いじゃないですか!! おじさんが裸になってお風呂に入って、色々してから出てきて、体拭いて服着て髪乾かすまで逃げませんからね!! 視線だって逸らしませんから!!」


 俺の想定していたオチよりも2段階程度は酷い茉莉子さん。

 だからヤメようって言ったのに!



 それから俺は妹のようだけど全然妹じゃない、親戚とは言えむちゃくちゃ遠縁の女子高生に見られながら、風呂に入った。

 というか、こいつ普通にドア開けやがった。


 知ってるか?

 今のご時世、それも立派なセクハラなんだぞ。


(おじさん、そこまで嫌がってないじゃないですか)


 それは確かに、そうかもしれない。


(あのですね。あたし、おじさんの脳内を全部まるっとお見通せるんですよ? ちょっとドキドキして、なんなら興奮してたまであるってことくらい、熟知してますから!!)


 テレパシーが法律で規制される日はいつ来るのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 もう日が変わっており、早急に布団に潜り込むべきなのだが。

 言うまでもなく、説明不要で茉莉子が俺のベッドに入っている。


 なら部屋を出て行こうとするのは当然だが、ちょっとでも動くと両膝タックルをキメられるのでもう抵抗するのもアホらしくなってきた。

 茉莉子は運動神経が極めて優れている。


 機械音痴を生贄にして運動能力へパラメーターを振ったらしく、「男版ジョイナーと言えばあたしです!!」と胸を張る。

 そこはもうジョイナーで良いじゃん。


「おじさん!」

「分かった。寝るまで傍にいるから!」


「えっ!? 寝たらどっか行くんですか!?」

「ほらもう!! 田舎っていえば倫理観がないみたいに押し切れると思ってる!! 何時代だよ!! 現代日本で倫理観がないのは、サイコパスなんだよ! お前な、田舎に全責任を負わせてどうにかなると思うなよ!?」


「一緒に寝たら良いじゃないですか! あたしおじさん好きですし、おじさんだってあたしのこと、嫌いじゃないでしょ!?」

「そういうとこだぞ、お前!! 童貞拗らせてる男子大学生を誘惑してくんな!! 大事に守って来てんだ、こちとらぁ!!」



「えっ? 今までに童貞を失う危機ってあったんですか? ……えっ?」

「……テレパシー使って脳内勝手に探ってよ。なんでそれだけ口頭で聞き取りに打って出てくるの? ないけどさ。それを俺の口から言わせることで誰かが得するの? 俺が悲しくなるだけじゃん」



 そして結局俺が折れる。

 なんか悲しくなったから。


 それこそ、子供の頃は同じブランケットかけられて昼寝してた仲なんだ。

 そもそも同居している訳だし、風呂覗かれたし、今さら意識する方がナンセンス。


「えっ。それは違うと思いますよ? だって、手を伸ばしたらあたしの柔らかい体があるわけですよ? 物理的に濃厚接触可能な状況である以上、間違いが起きる可能性は0ではないので。逆に言えば、接触不可能な距離があれば間違いは起きませんけど、あたしが絶対に離さないので、あり得ない仮定について論じるのも馬鹿馬鹿しいですよ?」



「寝ろよぉぉぉ!! もう2時過ぎてんだぞ!? 朝、起きれねぇよ! 飯作る時間考えたら、もう4時間寝られねぇんだよ!! なんで興奮させてくんの!? せめて無邪気な寝顔と、すんなり寝てやがるこいつ! みたいな拍子抜け感くれよぉぉ!!」

「無理に決まってるじゃないですか!! あたし15ですよ!? あのですね! 15歳の女子が何も知らないで何も意識しないとか、そんなの童貞の妄想ですよ!? 意識してるに決まってるじゃないですかぁぁぁ!! 小学生から意識してますよっ!!!」


 俺たちは何してるんだろうね!!



 なお「やっぱり床に布団敷いて、二手に別れようぜ」と提案したところ、「その程度でどうにかなるなら、お風呂なんて覗いてません!!」と論理的にキレられた。


 そうして、朝日が差し込み始める。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「マジかよ。どっちも一睡もしてねぇの? せめて茉莉子は寝てろよ」

「おじさん。そーゆうとこですよ。寝れる訳ないでしょ。こっちは男の人の背中に胸押し付けてるんですよ? この状態ですやすや寝てたら頭おかしい子ですよ?」


 なんということでしょう。

 俺も茉莉子も寝られないまま、朝が来た。


 ゆうべはおたのしみではないのが、こうなるとただただ虚しい。


「……朝飯、どうする? 俺、まったく食欲ないけど」

「あたしもです。小春ちゃんがくれたお漬物とご飯とお味噌汁で」


「あれ高いのに。……いや、まあ。そうするか」

「はい……」


 この日から、俺と茉莉子はボンバーマンをする事が増えた。

 パーティーゲームは最高だ。


 ホラーゲームはゲーム実況者の皆さんにお任せする。



~~~~~~~~~

 そろそろストックが怪しくなって参りました!!

 次話は18時です!!

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