第11話 むちゃくちゃ絡む新菜さん ~ホラーゲームの洗礼を受けた茉莉子さん~

 茉莉子が病院に連れて来られたネコみたいにソファから動かない。

 クッションに頭を突っ込んで無駄な抵抗を始めてから、そろそろ5分ほど経つだろうか。


「ほれ。その辺にしといてやってくれ。茉莉子、俺と同じ御亀村から先月出て来たばっかりなんだよ。はい、麦茶」

「あんがと! ほうほう! 限界集落だっけ? 肥溜めとかあるんだっけ?」


「ねぇよ! 何回目だよ、その話題!! まあでも、クソ田舎だな。茉莉子にとっては新菜にいなが初めて見る年上の同性なんだよ。確か、俺が村出て一人暮らし始めた時にはもう茉莉子が1番年上だったから。お山の大将してたんだから、いじめないでやってくれ」


 茉莉子がクッションから顔を出して仏頂面で抗議を始める。

 珍しく口頭で。


「おじさん、なんでホントのこと言うんですかぁー」

「そのうち分かるけど、こいつ。新菜にいなはガチの陽の者だから。俺たちみたいに、田舎で思春期のコミュ力を培ってきたヤツに勝ち目なんかねぇんだ。最初から無条件降伏しといた方が楽で済む」


「わー。おじさんがなんか、いつも以上の死んだ魚の目に。けど、なんか嫌です。あたしと色々被ってるんです。このお姉さん」

「確かにな。よし、俺が言っとくわ」


 こっちに尻を向けてテレビの下にあるプレステ4を引っ張り出している新菜に声をかけると、「なになに?」と尻が返事をしてきた。


「茉莉子な、頑張ってキャラ作ってんだよ。お前さ、被ってんの。どうにかして?」

「な゛ぁ゛ー!! なんでそんな言い方するんですかぁ!? あたしが痛い子みたいでしょ!?」



「えっ!?」

「意外そうな顔でこっち見ないでもらえますか? 愛情込めてぶっ飛ばしますよ?」



 一瞬の油断が良くなかった。

 次の瞬間には、新菜にいなに捕獲されていた茉莉子さん。

 涙目で無言のままこっちを見つめているが、してあげられる事はない。


「そっかそっかー! 茉莉子ちゃん、キャラ作ってる系かー!! 分かる、分かる! わたしもやったわー! 赤ペンでさ、呪法描くのね! 手の甲から肘にかけて! で、そこに包帯巻きます! いやいやー! 懐かしい! バレた時に、ママが学校呼ばれて泣いてたわー! で?」

「でって何ですか!? あなたはどの呪法? みたいな顔されても困りますけど!? そんな痛い子じゃないです!! 激痛じゃないですか!? すごい、このお姉さん!! あたしは、その! 髪型とか、スタイルとかが被ってるのが嫌なんですぅー!!」



「えっ!? 呪法、描かないの? 普通描くよね? 秀亀のとこではそうなの?」

「……おじさんと仲良しな理由がよく分かりました。敢えて言います。それってあなたの感想ですよね!? 押し付けて来るのヤメてもらって良いですか!!」



 それから新菜にいなが茉莉子を観察して、おもむろにリボンを引っ張り髪をほどく。

 絶対に髪の毛落ちただろ。外でやってよ。


「よーし! オッケー! わたし今日からポニテ女子になるぜぃ! サイドテールは任せたぞよ、茉莉子ちゃん!! 可愛がってあげてね!! あとはねー。胸はわたしの方が大きいから無理でしょ。服装もやや被りだねー。よし! 次来る時から、わたしが清楚なお姉さんするから、茉莉子ちゃんは干物女子高生のままでいいよ!! 完璧!! おっしゃあ!!」


 無言の茉莉子。

 これは来るかしらと思っていたら、やっぱり来た。


(おじさん、おじさん。あたし、この人苦手です)


 言うと思った。


(ニーナってなんですかぁ!! ナチュラルボーンご令嬢ネームじゃないですかぁ!! もうその時点で完全に宣戦布告されてますよね!? 茉莉子が攻撃されてますよね!?)


 世の中の茉莉子さんに申し訳ないから、自分の名前をディスるのヤメて。

 良い名前じゃないか。茉莉子も新菜も。


(あたしより背が高くて、胸が大きくて、足が長くて!! なんですかぁ!! 上位互換ですかぁ!? 言っときますけど!!)


 あたしの方が若いんですからね、とか言い出したらもう完全敗北だと思う。

 だって、1秒経つごとに茉莉子より若い命が世界では生まれて来るんだから。


(急にインテリぶるのヤメてもらえますか!? おじさんのそーゆうとこ、結構好きなのでさらにムカつくんですけど!! 相手が好意を持ってるとこでマウント取って来るとか、1番女の子的に困るんですけど!! ホントにやだー!!)


 茉莉子は金髪だから大丈夫。

 金髪ってだけで、とりあえずキャラは立つらしいから。


(どこ情報ですか? それ)


 新菜にいなが言ってた。

 というか、俺は去年の今頃だったかな。金髪に染められそうになった。

 「キャラ付けしようぜぃ!」とか言われて。


 新菜が「準備できたぜぃ!!」と言うと、コントローラーを投げて来た。

 高いんだから大事にして欲しい。

 落としたらどうするんだ。


「さぁ! バイオハザードしよう!!」

「いやー。ちょっとそれは……。今度にしないか? 茉莉子いるし」

「なんですか! ゲームでしょ? そんなの余裕なんですけど!! 子ども扱いしないでもらえますか!?」


 フラグなのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 茉莉子は年の割に立派な胸をこれでもかと張って、豪語した。


「ゲームとか!! あたし、スーパードンキーコングは全部クリアしましたからね!!」

「ほっほっほ! そなた、イケる口かね! レトロゲームが趣味なのか、まりっぺ!」


「変なあだ名はヤメてください!! なんか田舎娘感が増したとこがすごく嫌です!!」

「茉莉子、ガチの機械音痴だから。スーパーファミコンがこいつに使える限界のハードだったの。とりあえず、このデモ画面見てどう思う?」


 茉莉子が首を90度ほど傾げた。

 ずいぶんと大盤振る舞いな傾げっぷりであり、個人的には小首を傾げるくらいが好みなのでそこまで行くと心配になる。


「デモ? それって、実写ですよね?」

「ほら! ヤメとこうって! 絶対にオチが見えるもん!! ボンバーマンにしよう! あるから!!」


「秀亀……! ぼっちなのに、どうしてパーティーゲームの代表格を……!! ごめんね! もっとわたし、頻繁に遊びに来てあげたら良かったね!! 気付いてあげられなくて、ごめん……!! あ。桃鉄まであるじゃん……。可哀想……!!」

「うるせぇな! 1人でやっても楽しいの!! ああ、もう! 知らんからな!! そして俺が操作すんのかよ! 新菜は俺が下手くそなの知ってるだろう!?」


「ほっほっほ! ホラーゲームは下手くそがプレイしてこそ盛り上がるのじゃよ」

「……確かに。ゲーム実況とか見てても、それは言える」


 仕方がないので、バイオハザードのプレイを開始した。

 結構な頻度でゾンビに喰いつかれて俺の分身が血だらけになっていく。


 30分経つ頃には、俺の左腕が封じられた。


「茉莉子? なあ、すげぇ邪魔なんだけど」

「へ、へぇぇぇぇぇぇー? なかなか、なかなかすごいじゃないですか、今のゲームとやらも……。ひぃっ!! ちょ、おじさん! なんか来てる!! 撃って、撃って!! 怖いからぁ!! あ゛え゛え゛! キモい、怖い、グロい!!」


「お前がくっ付いてるから操作できないの!! あ゛あ゛! なんで右腕まで!?」

「いやいや、気付かぬとは拙者もまだまだ修行不足……。ここは右腕をわたしがパイスラッシュして、ダブルで封じるのが定番でしょ!! おりゃー!!」


「あ。死んだ……」

「ひぃぃぃ!! もう倒れた後も怖い!! なんですか、このゲーム!! お年寄りの心臓止めにきてますよね!?」


 うちのばあちゃんは普通にプレイしてるし、何ならゲーム実況者としてフォロワーが15万人いるので、バイオハザードは悪くないとだけ言っておく。

 俺、週2で見てるもん。絹子の実況スタジオばあちゃんのチャンネル


 先週はApexで無双してた。

 ヒジキってプレイヤー名で。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「んじゃ、帰るぜー!! また来るね!! まりっぺにもお土産持って来るねー!!」

「あばばばばばば……。もう2度とゲーム持って来ないでください……」

「次はボンバーマンしよう。送って行かなくていいか?」


 新菜は手をひらひらと振ってから「その状態じゃ無理っしょ! またねー!!」と言って、帰って行った。

 未だに茉莉子が左腕にくっ付いたままなので、これから絶対に面倒な展開が始まる。


 俺も予測できるようになって来たもの。




~~~~~~~~~

 明日もやっぱり2話更新!

 お時間いつもの12時と18時!

 どちらも激戦更新時間なので、うちは埋もれております!

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