えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第10話 唯一の友達、新菜さん ~おじさんの友達が家に来るらしいけど陰キャ男子でしょ? と、油断したら女子だった~
第10話 唯一の友達、新菜さん ~おじさんの友達が家に来るらしいけど陰キャ男子でしょ? と、油断したら女子だった~
4月も下旬になると大学の講義も本格的に始まるので、家で茉莉子の世話ばかりしているわけにもいかない。
今日は1限から出席して、3限の英語会話までノンストップ。
「おーっす!! 秀亀ぃー!! ぼっち飯してんのー?」
頭に乗っかる柔らかい感触。
慣れ慣れしい言葉遣いと、俺を名前で呼ぶ女子の声。
うちの大学は結構デカいが、誰であるかは振り向くまでもなく分かった。
「ぼっち飯じゃない。俺はひとりで飯食うのが好きなの。つーか、お前こそひとりじゃんか。女子はみんなで食べるもんじゃないの?」
「くぁー! もうその考え方が童貞過ぎてターフ生えるわ!! みんなで食べたいときはみんなで! ソロが良い時はソロ! ぼっち拗らせてる子がいたら寄り添う! それがわたしの仁義じゃん? ぼっち警察であーる!!」
短めのサイドテールとデカい乳。
上品さの対極にいるような絡み方を旨とするこいつは
大学の入学式の直後から妙に懐かれてしまった同い年の女子大生。
「ややややっ! ハンバーグ食べてるじゃん! ねーねー! わたしのニンジンのグラッセと交換して!!」
「いや、
「はむはむっ! そして、秀亀のハンバーグは50パーセント減!! 代わりにニンジンちゃんをご進呈ー! そらいけー!!」
「お前……。まだ半分あったのに……」
やってる事はジャイアンなのに「ジャイ子感覚の美人とかイケるやん!!」と謎の支持を集めており、去年の学際で行われたミスコンで3位に入っている。
ジャイアンをヤメて、しずかちゃんなら1位にもなれただろうに。
「
「へいへい。ご意見あざーす。まあ、ヘイト買う方が良いよね。無関心で放置されるよりかはさー」
「おい! ヤメろ!! その思い出話はヤメろ!! その術は俺に効く!!」
「うんうん! ゼミで2人組作れーって言われて、女子からハブられたのがわたし! でも、男子は山ほど集まった! 対して、男子からも、当然女子からも誘われず! 偶数なのに余ったのが秀亀!! いやー!! すっごい!! 孤高の戦士!!」
違う。
あれは事故であり、別に俺がぼっちになった訳じゃない。
確かに山本くんには声かけて「わりぃ! もう決めてんだわ! えーと。誰だっけ?」とか言われたけども。
あれは山本くんがちょっとナニな性格だっただけであり、他の男子に声をかけていたら俺は余裕で2人組くらい作れていたし、調子良ければ3人組だってイケた。
「元気出しなって! わたしが適当にこまったちゃん! って呼んだらそれが定着して、未だにみんな秀亀の名前を覚えてないけど! それがどーしたー!!」
「おう……。何なら苗字すら覚えてくれてるヤツは数人しかいないけどな。こまったちゃんから、なんで小松が出てこないのか。お前が挟んだ余計な『た』のせいじゃねぇか!?」
俺に皿にスッとインゲンを置いてから、新菜は言う。
「いいじゃんか! 誰が何と言おうと! 秀亀は秀亀だよ!! 自信持てよ!! わたしがついてるよ! というか、わたしがいなくなったらガチぼっちだから、マジでその辺気を付けた方が良いよ? 秀亀、バイトでたまに授業休むし? その時のノート借りれるの、わたしだけだし? ねっ! はい!!」
「どうして野菜をまったく食べないのにそのスタイルが維持できるのか。インゲン美味いだろ。全部こっちにのせやがって」
そう言えばうちの茉莉子も野菜嫌いなくせに立派なスタイル。
野菜は必要ないのか。いや、そんなはずはない。
インゲンは美味い。だからインゲンは俺を裏切らない。
昼食を済ませると、英語会話の教室へ。
仕方がないので
もう本当に、仕方がないったらないのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「んがぁぁー!! 終わっだぁぁぁー!!」
「女子の声とは思えん色気のなさだな。しかもお前、文法がむちゃくちゃ過ぎるんだが。勘弁してくれよ。なんで俺は推理しながら会話しないといけないんだ」
「すごいじゃん、秀亀ぃー! 英語と推理力が同時に鍛えられてるじゃん! アメリカの空港とかで殺人事件が起きた時、真っ先に参加できるじゃん! いいなー!!」
「殺人事件が起きたら真っ先に避難するよ、俺は。そんな、殺人犯がウロウロしているようなとこでしたり顔の探偵気取ったら刺されるじゃん。撃たれるじゃん」
「そっか。2人目の犠牲者は秀亀か。分かった。わたしが明智警視と一緒に仇取るから!! 犯人がいきり立ったら、お前は死んだ秀亀が生きられなかった明日を生きる義務があるんだぁ!! って叫んで、説得するからさ! その時は空に顔だけ出演しろよな!!」
「うるせぇ! もう帰るから、俺! 晩飯の支度しとかないと、最近山ほど食うヤツがいるから大変なんだ……いや、何でもない」
失言だった。
もう、俺の前で1人ゾーンディフェンスを始めている
突破するよりも白状する方が早い。
というか、こいつに付き合ってるとスーパーから半額の商品がなくなる。
「マジで!? マ・ジ・で!? 女子高生拾ったの!? 秀亀くぅん!!」
「やーめーろーよー、お前!! ぼっちがそういう事案めいた話してると、噂の足が超速くなるの!! 誰にも遠慮せず一笑にふせるとか、パリピたちの大好物だろが!!」
「あ。ごめん……。ぼっちの自覚あるんだったね。わたし、無神経だった。あとね、ごめん。パリピは秀亀のこと知らないんだ。ごめん……わたし、力不足でさ……」
「ねぇ。そのガチトーンはヤメよ? 眩暈がして来たから」
俺を弱らせてからバッグを奪い去るのが、この女のやり方。
結局、そのままスーパーへ向かう事になった。
買い物を終えてもまったく帰る気配がなく、俺のバッグを返す素振りも見せない。
根負けするには充分に、俺は戦った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「電話を1本だけかけさせてくれ」とか言う、アメリカの映画で敵に捕縛されたスパイみたいなセリフを吐かされた俺。
「いいぜ。ただし、5分だ」とか言う
ノリが陽キャなのに、なんで陽キャとジャズらないのかしら、この子。
「もしもし。茉莉子? 電話に出られてる? 聞こえてる? なんか喋って?」
『なんですか! 失礼ですね!! ちゃんと出てますよ! この緑のボッチ押すことくらい覚えましたよ!!』
「ボッチとか言う田舎娘感がなぜだろう、今の俺にはぼっちに聞こえて胸が痛い。あのな、すげぇ面倒な悪友が家に寄りたいって言ってるんだが、平気か? いや、マジであれだったら言って? ねぇ、嫌だろ? プライベート空間浸食されるの耐えられないだろ?」
『所詮はおじさんの友達でしょ? 別にいいですよ? ぜーんぜん気にしません!!』
心が読めるのに、空気は読めない茉莉子さん。
無慈悲なオールオッケーを出す。
電話が終わると再び
逃げるだけ無駄なのだ。
こいつ、俺の家に何度も来ているし。
ここで振り切っても、普通に家にやって来る。
◆◇◆◇◆◇◆◇
玄関を開けると、茉莉子がソファで伸びていた。
俺は言ったはずだ。
来客があるって。
「おかえりなさーい。どうぞどうぞー。あたしに構わず、お部屋でやらしー本の品評会などしてくださーい」
「おじゃまっしまぁぁーす!! なにこの子!! 金髪サイドテール!! わたしの仲間じゃん!! あー! 分かった! 生き別れた妹だ! 久しぶり! 妹!!」
茉莉子がビクッとネコのように驚き止まると、そのまま
犬はピンチを察すると逃げる。
猫は体が硬直する。
「おじ、おじさぁん!? お友達って!? ええ!? なにこの美人!! ぎゃぁぁー! ちょ、ヤメてください!! うぁぁー! 美人がすっごくナチュラルに抱きついて来る!!」
茉莉子。
お前は猫だったのか。
ごめんな。猛禽類を連れて帰って。
~~~~~~~~~
申し上げるまでもなく、次話は18時!
本当に、ライトな作風なのに文量はヘビーで申し訳ございません……。
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