えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第8話 何でも信じる小春ちゃん ~ガチのお嬢様に肉の入ってないやきそば食わせる秀亀くん~
第8話 何でも信じる小春ちゃん ~ガチのお嬢様に肉の入ってないやきそば食わせる秀亀くん~
歴史は古く、明治時代に創業してから順調に業績を伸ばしていった。
特にしば漬けは本場京都の有名店と並んでも遜色がないと有名で、さっきからちょっとずつ摘まんでいるが、これはもう大変素晴らしく、こんなものをタダでくれるとか村越
(あの、おじさん。お聞きしたいんですけど)
偽物のご令嬢がさっきから、リアルと脳内でうるさい。
これ、ステレオと呼んでも良いのだろうか。
とりあえずうるさい。
「こ、小春ちゃん? そろそろ門限とかじゃありませんか? 家の人が心配したりしませんか? やっぱり帰った方が良いんじゃないでしょうか?」
「何を言っとるんだ、マリーは。失礼だろう。こんな上等なものを頂いているのに」
(失礼なのはあたしたちなんですよ!! なに作ってるんですか、さっきからぁ!!)
焼きそばだけど。
(ガチのご令嬢なんですよ、小春ちゃんは!! じゃあ、せめてガチの焼きそば作ってください!!)
うちの焼きそばに豚肉はいらない。
代わりにやっすいウインナーが薄くスライスされて投入。
あとは野菜を
玉ねぎとキャベツは特に多くぶち込んで、あとはもやしを入れて、揚げた玉ねぎをさらに叩き込む。
これで食感は完璧。
(完璧。じゃないんですって! 知ってます!? 世の中の焼きそばって、お肉たくさん入ってるんですからね!?)
この子、どこで焼きそば食べたんだろう。
良くない洗脳されてるな。
仕方ないから、魚肉ソーセージも入れてあげよう。
(だーかーらぁー!! 学院の食堂にあるんですよ!! あんかけ焼きそば!! すっごいんですよ!? なんか、エビとかカニとか!!)
焼きそばとあんかけ焼きそばは別物だから。
あれはもう、上流階級の食べ物であって、貧乏学生のご家庭では出てこないヤツ。
(普通の焼きそばもあるんです!! なんか、トリュフとか言うのがかかってるヤツ!! お肉も何とかブタとか言う、なんかすごいヤツが!!)
普通に焼きそばにトリュフは使わないから安心して欲しい。
あと、豚はだいたい何とかいう名前がついているから、そっちも安心すると良い。
名無しの豚の方が珍しいよ。
(そうなんですか?)
そうなのです!
上流階級の人は焼きそばとか食べない!! そもそも存在も知らない!!
そんな訳で、うちの焼きそばが完成した。
ホットプレートから小皿に取って適当に食べるのだ。
「小春ちゃん。好きなだけ食べて行ってくれ! 何なのか分からないだろうけど!」
「これはですね! あ、あの、フランソワ家に伝わる伝統料理でして! 地中海では一般的に食べられているんですけどー。うん、日本じゃ珍しいと思います!! はい!!」
「わぁ! 焼きそばですね! ちょっと見慣れないスタイルですけれど! 私、大好きなんです!! この大きなお皿で食べるんですね!!」
マリーさんにむちゃくちゃ睨まれた。
まあ、ご令嬢だって焼きそばくらい食べるよ。
デヴィ夫人が食べてるのテレビで見たことあるし。
火傷をしてはいけないので、俺が取り分けて差し上げた。
魚肉ソーセージを多めに盛ってあげたから、きっと大満足だろう。
「これは……」
「ち、地中海では一般的に食べられている、アレです! 魚の加工食品です!!」
もう地中海から帰っておいで。
瀬戸内海だって良いじゃないか。
その魚肉ソーセージは瀬戸内海で獲れたタラとアジとタチウオが原材料だって書いてある。
ファミレスの賞味期限切れ寸前の在庫を貰って来た、由緒正しい魚肉ソーセージ。
「柔らかい……!! 美味しい! すごいですね、地中海! 私は2度しか行った事なくて!! 今度行く機会があれば、絶対に食べます! 魚肉ソーセージ!! ふわぁ! しっとりしています!!」
「あ……。けど、アレかもですよー。季節的なアレがですねー。ナニしてー」
それ見たことか。
地中海どころか、海水浴にも行った事ないくせに。
それから、茉莉子も諦めたように焼きそばをモグモグやり始めた。
俺はホカホカご飯に超高いお漬物が待っているで、焼きそばは2人でどうぞ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごちそうさまでした!! こんなに美味しいご飯を頂けるなんて!! 幸せです!!」
小春ちゃんは満足そうに微笑む。
隣で挙動不審なのがうちのマリーさん。
普段は5皿余裕なのに、今日は小食じゃないか。
おじさんはたくさん食べて欲しいな。
(うるさいですよ!! あたし、学校では小食で通してるんですから!!)
だから帰ってきたら食欲が抑え切れなくなるのか。
バイト上がりの俺より食べるもんね。
「マリーちゃんは秀亀さんと2人暮らしなんですか? 確か、執事さんが8人ほどいるんでしたよね? メイドさんは70人とか!」
うちのマリーさんがバカすぎる件。
「うぇぇ!? あ、あー!! 今はですね! あの、休暇です!!」
「全員が同時にですか?」
「……あ。はい」
こいつ!
諦めやがった!!
瞳から光が失われたマリーさん。
もういつもの茉莉子だ、これ。
「マリーの実家の方針でね。基本的に俺と2人なんだよ。必要に応じて実家から来てもらうけど。自立した令嬢になれるようにっていう配慮らしいよ。知らんけど」
マリーさん、こっちを見て胸の前で手を組んで、パァァと瞳を輝かせ始める。
小春ちゃんも瞳を輝かせているのでバレていない様子。
「すごい! マリーちゃん、すごいです!! 私も自分の事は自分でするように心がけているんですけど! メイドに手伝いを申し出られると断れなくて! やっぱりマリーちゃん、クラスのみんなと一線を画すお嬢様なんですね!!」
「……はい」
また目が死んだな。
一線を画していたのか。
「マリーはクラスで浮いてるの?」
(黙れぇぇ! お黙りです、おじさん!! それ、あたしが1番聞くの怖いヤツ!!)
「いえ! 目立っているだけです! マリーちゃんだけなんですよ、うちの学年の編入生! 堂々としていて! だけど、他の皆と立ち居振る舞いが違っていて! 一昨日なんて、教室に蜂が入って来たんです! 全員が廊下に避難するのに、マリーちゃんはその蜂を教科書で叩き落して!!」
何やってんの、マリーさん!!
(仕方ないじゃないですかぁー!! 村では蜂とか虻とか、ワンパンですもん! 蠅を箸で摘まめるくらい、みんなやってたでしょー!?)
挑戦はしてたけど、みんなできなかったよ?
そうか、マスターしちゃってたのか。
「あの時の動じないマリーちゃんの姿はステキでした!! もう、クラスではマリーの会って言う、フランソワ家秘伝の奥義を学ぶサークルもできたんですよ!!」
えらいことになっていた。
何を学ぶのだろうか。
逆に興味がある。
「あ、あはははー。そんな大したものは教えられませんけどね?」
「とんでもないです! 昨日はメンバー全員で側転のコツについて学びました!!」
お嬢様たちに何を教えてるの?
マジで、彼女たちの実家に訴えられる時は俺を通さないでね!
「……普通に皆さんできるものかと。あの。つい、魔が差して」
「すごいんです! マリーちゃん、スカートが捲れないように側転ができるんです! 秀亀さんはご存じでしたか!? 私たちも挑戦したんですけど、はしたなくって! 日村先生が目を丸くしていました! ふふっ!」
マリーさんのスカートが捲れなかった事を驚いたのち、全員で挑戦した。
なるほど。スカートが。
(なに納得してるんですか、おじさんのスケベ。小春ちゃんの方を見ないでください。穢れますから)
クラスの風紀を穢した子には言われたくないな!
それから小春ちゃんは玄関で行儀よく頭を下げてから帰って行った。
送ろうと申し出たのだが、既に黒いスーツの人が玄関の前に立っていたのでそれ以上の言葉は必要とされず。
余計なこと言ったらね、間違いなく腕、折られてたな!!
静かになった居間で一言だけ茉莉子に戻ったマリーさんに聞いてみる。
「意外とクラスでブイブイ言わせてるんだな」
「そ、そーですけどぉ!? もうね、みんなあたしの事、大好きですから!! ……お嬢様ってね、おじさん。あたしたちが考えてるのとちょっとだけ違ったんですよ? ……くすんっ」
涙目で強がる茉莉子に、コンビニで買ったプリンをあげた。
知ってるよ。
俺が考えているお嬢様の方が、お前が考えてるヤベーヤツよりよほど現実的だってことくらい、再会してからずっと知ってる。
~~~~~~~~~
次話は18時に更新!
文字数がこっそりと増えて行っております!! 申し訳ございません!!
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