えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第4話 看病するぞ! 茉莉子さん!! ~食中毒だ、秀亀くん~
第4話 看病するぞ! 茉莉子さん!! ~食中毒だ、秀亀くん~
近所にある診療所に電話をして往診に来てもらった。
こんな時は週に3度、ゴミ捨て場の掃除を買って出ている俺の日常が真価を発揮するのだ。
「完全に食あたりだね。ダメだよ。もう4月になるんだからさ。お肉とかお魚は常温で保存したら。まあ、ヤバいタイプじゃなさそうだしね。吐き気がないのも幸い。お薬出しておくから、6時間くらいの間隔で飲んでね。何かあれば電話して。まあ、秀亀くん体鍛えてるし、多分大丈夫でしょ」
こちらは丸岡診療所の
65歳だったか66歳だったか、結構お年なのに元気な御仁。
自治会長も務めている、この地区の顔役。
「ありがとうございました。すみません、うちのおじさんが。ちゃんと言って聞かせておきます。もう、困りますよね。子供じゃないのに」
「そうだねぇ。しかし、茉莉子ちゃんみたいに気の利く姪っ子ちゃんが傍にいてくれたら、安心だよ。やっぱり病気の時は心細いからねぇ。茉莉子ちゃんも困ったことがあったら、僕に言ってね」
「はーい。お世話になりますっ!!」
玄関まで丸岡先生を見送った茉莉子がトタタタと戻って来た。
マリーさんはどこに行ってしまったん?
「えー。家ではしませんよー。疲れるじゃないですか。そもそも、家の中って完全にあたしのテリトリーですから!! 誰にもバレないのでキャラ作る必要もなしです!!」
呼吸するので精一杯な時にはテレパシーって便利だねと思った。
半パンにTシャツで既に実家のように過ごしておられる茉莉子氏。
俺の家なのに。
「おばあちゃんの家ですけどぉー?」
そうだった。
しかし、こうやって見ると本当に体だけは大きくなったな。
5年で人間ってこんなに成長するものなのか。
「あのー。病気だからって、まだ女子高生になってすらいない乙女をガン見するの、ヤメてもらえますか? 見たいならお願いしてください!! その場合は相談に応じます!!」
俺は庭のアスパラガスが「おっ! すげぇ速さで育ったな!!」的な感動をしているのだが、茉莉子には全てが彼女の好みで受け取られるらしい。
頭の中を覗かれてなお伝わらない真意。
コミュニケーションの難しさがよく分かる。
あ。これは読んでないんだ。
当たり判定もイマイチ把握できない。
「ふんふふーん。ふーんふーん」
それから茉莉子は布団で転がっている俺の横で雑誌を読んだり、テレビを見たりして過ごしていた。
確かに心細さはないが、俺は1つ、どうしてもハッキリとさせておきたい事があった。
ちょっと! なんでこれも読み取ってないんだよ!!
声出すのキツいのに!!
『るるぶ東京2022』読んでないで俺の脳内読んでくれ!!
ここ、西日本なんだけど!!
全然心を読んでもらえないどころか、俺を見てもくれない。
仕方がないので、震える手を伸ばして茉莉子の背中をつつく事にした。
だが、お腹痛すぎて狙いが定まらない。
どうにか伸ばした指はつるりと滑り、茉莉子の背中を下って行った。
「んひゃあぁぁぁぁぁ!! な、なぁ!? 何してんですかぁ!! それはまだダメなヤツでしょ!! それやって良いの、同居2か月目くらいなんですけどぉ!?」
違うんだ。
別に、茉莉子の背中の感触を味わいたかったわけじゃない。
そんなものに興味ない。
「……お水、ぶっかけますよ?」
じゃあ興味あります。
「……変態」
どっちもダメじゃないか。
遊び心のあるRPGの選択肢みたいなのヤメて。
その遊びで俺が失神する。
とりあえず確認させてほしい。
「なんですかぁ?」
なんで俺の5倍の肉を食った茉莉子は! ケロッとしてんだよ!?
「ほえー? ああー! 確かに!!」
絶対におかしい。
5倍の量を食べたなら、食中毒のリスクだって5倍になるはずなのに。
「おじさんの胃腸がクソザコなんじゃないですかー? あ、これ知ってます! こうやって煽るんでしょ? ざーこ! ざーこ!! おじさんの胃のざーこ!!」
どこで覚えたのか。
それで喜ぶの、極めて特殊な人だけだから。
ついでに言うと、そのクソガキムーブをキメたら女子の方がえらい目に遭うんだからね。
よし! 読まれてない!!
「もー。分かりましたよー。あたしがお肉をダメにしちゃったわけですし。おじさんの看病をもっと一生懸命してあげますから! それで許してくださーい」
いや、そういうつもりじゃなかったから、お気遣いは結構。
茉莉子に家事とかやらせたら、絶対に後片付けの手間が増える。
性格も知ってるし、今も女子力とか嫁力はどう見ても成長してないし。
どうせ洗濯機すら使えないパターンだ。
そこで雑誌読んでいて欲しい。切実に。
「よーし!! エプロンしましょー!! 実は持って来たんですよねー! 家庭的な侯爵令嬢を演出するために!! さてさてー! 何からしましょうか! あ! おじさん、見てください! 短パンとTシャツが良い感じに隠れて、裸エプロンみたい!!」
どうして大事なところで心を読んでくれないのか、この子は。
茉莉子は「まずはお洗濯!! おじさんの汗と汁でひたひたになった服を洗います!!」と言って、俺の服を剥ぎ取って、ついでに張り切って駆けて行って。
しょんぼりして戻って来たのは30分後の事だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おじさん。洗濯機、買い替えた方が良いですよ。あれ、壊れてます」
ちゃんと機械音痴の常套句を言う茉莉子。
どうやったら洗濯の過程でびしょ濡れになるのか。
洗濯板と洗い桶でチャレンジしたのかな。
「……あ! おじさん、おじさん!!」
絶対にしょうもないことを言う顔である。
「美少女がびしょびしょです!! んふふー!!」
笑顔を見せる茉莉子。
もう、なんだろう。幸せそうならオッケーです。
「うー。それにしても、看病って大変なんですねー。よっと!」
ベシャッと音を立てて、濡れた茉莉子の部屋着とエプロンが落下して来た。
家庭的な侯爵令嬢なんていないんだ。
あと俺の体の上に落ちて来たけど、狙いはそれでよろしくって?
「残念でしたー! 下はキャミなので、ラッキーエッチとか言うヤツはありませーん!!」
聞けよ!!
あとラッキースケベな!。
ラッキーエッチって! もうそれただの幸運に恵まれた行為じゃん!!
茉莉子は自分の部屋から着替えを持って来て、何故か俺の前でそれを済ませる。
絶対に「だって、あたしの部屋が濡れるじゃないですかー」とか言う。
「部屋が濡れるのは嫌なので! ちょっとだけサービスです!! けどー! パンツなんて見せませんからねー!!」
茉莉子のパンツは昨日の晩、俺が洗濯して干しました。
とっくに見ています。
「さてー。次は何をしたものかー。丸岡先生に電話してみますかねー!!」
行動力がある田舎者って割と最低な組み合わせだと今さらながらに気付く。
電話する前に、俺の着替えをくれないか。
ずっとパンツ1枚で布団に包まっている俺を見て、何も思うところはないのか。
「はい! はい! なるほどー! ありがとうございます!! 行ってみます!! はーい!! 失礼しますっ!!」
電話を終えると、茉莉子はバッグを持って玄関へ向かう。
続けて「消化の良いものを食べさせるのが都会のトレンドらしいので、ちょっとお買い物に行ってきます!!」と言うと、俺の心を読まずに飛び出して行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
2時間が経ち、ようやく起き上がれる程度の体調まで持ち直した。
「……さて、どうしたものかね」
茉莉子が引っ越してきてまだ2日。
この辺りの案内すらしていない。
スーパーは徒歩10分の場所にあるのに、2時間帰って来ない。
「確実に迷子になってるじゃん!! マジかよ!! ヒジキは体鍛えてるけど、内臓が弱いんだよ!! 誰がヒジキじゃ、俺ぁ秀亀だ!!」
デカい声ではっちゃけたらテレパシーで拾ってもらえるかと思って、身を切るショートコントをしたら心とお腹が痛いだけで返事はない。
使えなくても携帯電話は買い与えておくべきだった。
やむを得ない。
倒れそうだが、探しに行こう。
~~~~~~~~~
本日から2話更新!
次話は18時です! よろしければ!!
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