第3話 焼肉と茉莉子さんとテレパシー

 ジュージューと大変ステキなオーケストラを奏でるお肉たち。

 庭で野菜を育てているので、玉ねぎとピーマンも一緒に焼く。

 後はホカホカのご飯があれば、完璧である。


「食うか!」

「はい! いただきまーす!!」


 俺は小松家からの援助を最低限にしてもらっている。

 こんなデカい家にタダで住ませてもらっているのだから自立もクソもないような気もするが、とにかく生活費は全て自力で調達するのが俺の流儀。


「だから貧相な食生活で、お肉にホイホイ釣られちゃうんですかー」

「マジでお前のそのテレパシー、感受性高すぎじゃないの? ねえ、俺が考えた事は全部拾われてんの?」


「えー。やですよー。なんでおじさんの頭の中をずーっと覗かないといけないんですか。疲れるんですからね、これ」

「その割にずっと覗いてるじゃん。あ! さては茉莉子! 俺のこと好きだな? 言ってたもんな! 秀亀兄ちゃんのお嫁さんになるーって!! なんだ、お前ぇ! 可愛いとこあるじゃないか! うん。肉、これ本当に高いヤツだな。美味い、美味い!」


 真っ赤になった茉莉子がプルプル震えていた。

 俺の脳内が覗かれていることは分かったし、フェアじゃない気もしていたが、こいつに関しては何もしなくても自分から考えている事を表明してくれるらしい。


「か、勘違いしないでもらえますぅー!? あー! 嫌だ!! 童貞拗らせた男の人って!! もう、すぐ勘違いしますからね!! もー! 嫌です、ホントにー!! ちょっとしか好きじゃないのにー!! はー! もう、やですね、ホント! 好きか嫌いかで言えば好きですけどー!!」

「と、言いながら? 俺の思考を読んでるよな? 絶対好きじゃん。俺の事。言っとくけど、大学で心理学専攻してるからね、俺。もうマジで分かるよ? あー。お肉が美味いー!!」


 15歳はさすがにストライクゾーンに入らない。

 年の差5歳は問題ないのだが、いくら体が成長していても、自称マリー様はちょっと幼過ぎて恋愛感情どうこうの前に守ってあげなくちゃって思うもの。


「むぅー」

「また読んでる。よしよし。大人になったらな。いやー。肉、うめぇー」


「……この力に目覚めたのは、3年前です!!」

「えっ。急にどうした? 幼い恋心がバレて恥ずかしくなったか?」



「ちゃんと聞かないとおばあちゃんに言いつけます!!」

「ヤメてよ!! お前、その最強のカードが常に手札にあんの!? もう絶対勝てないじゃん!! 分かった、聞かせて!! すげぇ聞きたい!!」



 満足そうに「ふふんっ」と胸を張る茉莉子。

 ここで胸について色々と考察するとまた面倒なので、チラ見で留める。

 ジト目を浴びせられるだけで済んだので、これは正しい対処だった模様。


「なんかですね、こまっちゃんの女将とか言うご先祖様の力がたまたま継承されたらしいです!」

「適当過ぎるね!? 小松豊大神こまつゆたかのおおかみだからな! いや、マジで偉い坊さんの先祖返りとかならさ、ばち当たるんじゃないの!? そのスタンス! すげぇな茉莉子のメンタル!!」


 褒められたのが嬉しいのか、肉を2枚箸で摘まんでご飯でワンクッションしてから口に放り込みモグモグするエスパー少女。

 話の続きを待っていたところ、俺の育てた肉がまたしても強奪された。


「えっ!? 終わり!?」

「あ、はい。だってよく分かんないですし。おばあちゃんが言ってた事も8割くらい聞き流してましたしー?」


「マジかよ。俺だったらそんな謎の力に目覚めたら、とことん聞くよ? 一晩中問い詰めるよ、ばあちゃんが相手でも」

「おじさんはそーゆうとこありますもんねー。あ! そだ! あたしがこのお上品な言葉を使いこなせるようになったエピソード聞きます!?」


 「聞かない」と言っても絶対に話すので、「聞きたい」と答えると「良い心がけです」と満足そうに頷いてから、茉莉子は肉を摘まむ。

 さっきから焼いてるの俺で、食ってるの全部お前だね。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ほら! うちの村ってクソ田舎じゃないですか!! あり得ないくらい!!」

「クソって言うなよ……。いや、でもWi-Fiあるし。スマホも通じたし」


「そーゆう機械はあたし、苦手なので意味ないです!!」


 そう言えばこの子、昨日はデビュー戦で自動改札と喧嘩してたんだった。

 シンプル携帯すら使えないってばあちゃんが言ってたな。


「つまりですよ! 村から出て来たあたしは裸も同然!! こんな美少女が裸で都会に放り出されたら、もう大変です!!」

「警察呼ばれるね」


「そこで! あたしは考えました!! 都会の知識がなければ、高貴な出自の世間知らずなお嬢様になればいいじゃないと!!」

「頭の悪いマリーアントワネットだなー。あ。それでマリーか」


「違いますけど!? 茉莉子のマリーですけど!!」


 どっちでも良いのだが。

 またハムスターみたいに頬が膨らんでいる。


 さては読まれたか。


 仕方がないので、ハンドサインで続きをどうぞと促した。


「大変だったんですから! お嬢様言葉でミスしないように、普段から敬語で過ごして! あと、髪もバッチリ染めました!! やっぱり侯爵令嬢と言えば金髪なので! 縦ロールにも挑戦したんですけど、3時間かかるので断念しました……」

「不器用だもんね、茉莉子」


「あと! これ見てください! 蒼い目!! カラーコンタクトですよ!!」

「おー。すごい、すごい。あの怖がりな茉莉子が、コンタクト使えるようになったんだ。目薬も自分で差せなくて俺に泣きついてたのに」



「んふふー。今は1時間もあれば楽勝です!!」

「むちゃくちゃ苦戦してるよ!? 何なら負けてんな!」



 こうして、金髪サイドテールに碧眼のフランソワ侯爵令嬢が誕生したらしい。

 妙なポーズをキメて、すごくチラチラこっちを見て来る似非侯爵令嬢。


「可愛いね。すごく可愛い。見違えたよ。イモっぽかった茉莉子が、こんな美少女になれるなんてなー」

「おおー!! よく分かりましたね! あたしの求めていた感想を!! さては、おじさんも力の覚醒しました!?」


「いや。顔見てたら分かった」

「むむっ。心理学ってすごいんですねー」


「いや、茉莉子の顔見てたら、だいたい分かるから。お前のおねしょを察して、大人に内緒で始末してやってたの俺だぞ?」

「あ、あたしのこと、なんでも分かるとか!? そーゆうこと言うんですね!? 独占欲強すぎじゃないですか!? まだ1日しか同居してないのに、もう自分の女感覚ですか!? 望むところなんですけど!? ホントにすぐ好きになるこの人ー!! 嬉しいんですけどぉー!!」


 そう言うと、パクパクとホットプレートに乗っている肉を口に運び、麦茶でゴクゴクと喉を鳴らして満足そうにお腹をポンポン叩いて、どうやら誤魔化したつもりの茉莉子。

 俺の5倍くらい肉食べやがって。


 あと、俺の育てた野菜にはまったく手を付けなかった。


 それから風呂に入って、それぞれの部屋に戻って寝る。

 女子と同居とは言え、1日一緒に過ごして確信した。


 茉莉子は茉莉子。

 全然変わっていない。


 明日からも平穏無事な生活が俺を待っていてくれそうで安心した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじさーん? 大丈夫ですかー? おーい? うわー。すごい汗。とりあえず着替え持ってきてあげますから、場所教えてください」

「ゔっ……お、お腹、痛い……」


 全然平穏な明日は来なかった。


 アイスピックでぶっ刺されるような痛みのリフレイン。

 定期的にお世話になるトイレ。

 全身から吹き出る脂汗。


 食中毒が俺を待っていた。



~~~~~~~~~

 明日は2話更新!

 お時間12時と18時!!

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