第2話 逃避行

 翔子は複雑な思いで仕事をしていた。それから数日後、新聞に小さな記事が載って居た。その記事を読んで翔子は真っ青になった。

 『都内の公園で中年女性が頭を打って死亡しているのを発見、事故か他殺か警察では両方の捜査を進めている』

 そう書いてある。あれ以来、父と連絡が取れていない。父がなんとかすると言ったのに死んだ人をほったらかして立ち去るなん信じられなかった。あの時、やはり救急車を呼んで居れば良かったと後悔した。翔子はやはり自首するか悩んでいた。とても仕事をする気分になれない。翔子は会社に数日間の休暇届けを出した。もはや自首するなんて無理、遅すぎた。これから逃亡生活を続けるのか不安が募る。翔子は三年ぶりに実家に帰った。本当は真っ先に父と逢った事を話したかった。あんなことが無ければ……


 ピーシャラピーシャラ・トントン村の神社から祭囃子の音が聞こえて来る。普段は殆ど人も訪れることがない田舎の神社も今日ばかりは大勢の人々が神社にやって来て鳥居から本殿に続く道の屋台に群がる。その神社の境内では喉自慢大会が行われていた。若い者は流行りの歌を唄い老人は自慢の民謡を唄う。そして祭のクライマックス二つの神輿が担ぎ出され一つは子供用の神輿で幼い子供達が大人に煽られワッショイワッショイと楽しそうに担ぐ、そして大人用の神輿は一回り大きく神輿の上に一人乗り一際大きな声でワッショイワッショイと見物人に向かって煽る。見物人もそれに合わせてワッショイワッショイの大合唱だ。


 そんな中、祭りには相応しくない格好をした一人の若い女が人通りから少し離れ場所で神輿を担ぐ若者たちの姿を見ていた。特に何をするでもなく茫然としている。

「あれ? 翔子じゃないの。いつ帰って来た。三年ぶりじゃない。帰って来たら一言声を掛けてくれればいいのに」

「ああゴメン香奈枝、連絡しなくて」

翔子と香奈枝は中学時代の同級生だ。翔子達の同級生の殆どは都会に出ていて、香奈枝みたいに地元の住んでいるのは珍しい。

「元気ないじゃないの、せっかくのお祭りなのにどうしたの? ハハァ失恋したな。どう図星」

「……」

「もう立派な大人じゃない。失恋の一つや二つで落ち込まないでよ。良かった同級生を集めて飲もうか」

「ごめん、そんな気分じゃないの」

「分った。気持ちは分るよ。でも田舎には気分転換に来たんじゃないの? わたし三日間休みを取ってあるの、気を向いたら遊びに来てね。翔子はいつまで居るの」

「ありがとう。特に決めてないの。帰るまでに必ず顔を出すから」

香奈枝は分ったと言ってその場を離れて行った。その時、翔子のスマートフォンが鳴った。ラインを開けてみるとメッセージが入っていた。会社の同僚からである。

『翔子、今どこに居るの、もう有給休暇使い切ったでしょう。このままだとクビになるわよ。会社の人達心配しているよ。連絡くれる』

翔子は見終わる電源を切った。顔は真っ青になって居る。慌てて家に帰る。実家に帰って来たのは昨夜の事だ。帰るという連絡もなしに突然帰って来た翔子に母と妹は驚いたが歓迎してくれた。二人はお祭りだから帰って来たと思っているようだ。恭子は父と会った事も事件があった事も言わなかった。


つづく

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