祭囃子

西山鷹志

第1話 家出した父と年ぶりの再会

 深夜の公園で男と女が言い争っている声が聞こえる。まるで叫んでいるような罵声が響き渡る。いや一方的に女の方が攻めたてる。

 「どうしてなの! 余りにも身勝手過ぎるわよ。もうあれから六年よ。私達がどんな思いで過ごして来たか考えた事があるの?」

 「……」

 「何故黙って居るの。言い返せないという事は自分の非を認めているからでしょう」

 「仕方がなかったんだ。もう俺の事は忘れてくれ」

 「忘れろって? やっと探しあてたのに、よくも母さんや家族を捨てて言えたものね。それならキチンとお母さんに言いなさいよ」

 そんな言い争いが二十分ほど続いただろうか。騒ぎが聞こえた訳ではないだろうが公園に一人の女がやって来た。年の頃は五十半ばだろうか公園の街路灯にその顔が浮かび上がった。ぶ然とした表情で言った。


 「義彦さん、何をしているの、待っていてくれと言ってから四十分よ。誰? この小娘は」

 「小娘? 貴女は誰、勝手に小娘扱いしないでよ。そうかあんたが父の女なのね。私達の家庭を壊した張本人ね。」

 「あぁあんたが義彦さんの娘か。でも父の女とは何よ、気が強そうね」

 「貴女ね、父をたぶらかしたのは。父を返してよ。お父さんいい加減目を覚ましてよ、こんなおばさんの何処がいいの」

 「言ってくれるわね、それ以上私を侮辱したら例え義彦さんの娘でも許さないわよ」

 「貴女に言われる筋合いはない。親子の間に口を挟まないでよ」

 慌てた義彦は二人を止めに入った。だが小娘に言い返され怒った女は小娘こと翔子に殴り掛って来た。だが義彦は逆に女を殴りつけた。

 「何をそんなに興奮している。俺の娘だぞ」

 「なっ何をするのよ! 私とこの娘とどっちが大事なのよ」

 「そう言う問題じゃない。殴り掛る事はないだろう」

 「だからって私を殴る事はないでしょう」

 変な方向に事が進んで行った。でも翔子は嬉しかった。まだ父の愛情が残っていたと確信した。その喜びも束の間、逆上した女はバックからカッターナイフのような物を取り出し父に切りつけた。


 突然の出来事に父は交わす事が出来ず、顔を切られ血しぶきが飛び散る。父が殺されると思ったのか、慌てた翔子は女に体当たりした。フイを突かれた女は一メートルほど飛ばされただろうか、運悪く近くにあるベンチに頭をぶつける。女はギャーと悲鳴を上げた。見ると頭から血が出ている。咄嗟の事だった。父が刺されると思いで女に体当たりしたのに、簡単に転がって何処かぶつけたのか女は動かなくなった。

「えっ ? まさかこんな事になるなんて……」

 「翔子、逃げろ。ここは俺がなんとかする」

 「なんで逃げるのよ。早く救急車を呼ばないと」 

 翔子はスマートフォンを取り出した。だが父は止めた。

「翔子は止めに入っただけだ。何も悪くない。あとは俺がなんとかする」

 翔子も判断が付かないまま、その公園が去って行った。とんでもない事になった。些細な言い争いからが、こんな事になるなんて。

 家を出て行った父と六年ぶりの再会だった。本当は文句をいうつもりはなかった。でも私や母や妹がどんな思いで生きて来たか、それを思うと怒りが爆発したのだ。

それがこんな事になるなんて、それでも父は私を庇って現場からは離れるように指示した。まだ父として心が残っているようだ。


つづく

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