第四章 義兄を再訪問して感情を洗いざらい喋ってもらう

①義兄にマウントをとってから更なる追求を始める

「……という訳で、色々調べて来まして、お義兄様はそもそも亡くなった実のお母様の面影を持つカイエ様のことを、グレヤード様が亡くなった時のしんみりした様子から見いだして恋に落ちてしまったのだと、私はまずこの浮気の発端について一応の結論を出したのですが」


 帰宅後、また多少の間を置いて義兄の元に出かけた。

 今度はお姉様が旅立つ前のカイエ様のところに行っているから、という理由で家を空けている。


「……そう君が結論づけたのならそうなんだろう。確かにあの時彼女にときめいてしまったのは否めない。だけど!」  


 私の横に座る先輩を指して義兄は声を張り上げた。


「何だってそういう話にまた別の人間を巻き込むんだ!」

「だってお義兄様、私に婚約者が居ること自体疑ってらしたでしょう。だからその証明もすべくですね」

「お初にお目にかかります。官立研究所第三十七支局に勤務しておりますアルディト・トリガです」

「官立研究所……」


 義兄はややうろたえる。

 彼の中で、先輩は唐突に自分が刃向かえる存在ではない、ということになった様だ。

 官立研究所には様々な分野がある。

 それこそ医学・窮理学・工学から史学・社会分析学・芸術学・文学に至るまで幅広い知識の集合体なのだ。

 大概が大学本科まで出た者でないと在籍できない。

 予科で終わった義兄からすれば、自分で納得して選んだとは言え、本科出に対してのコンプレックスは確実にある。

 それでこその先日の「今更」だ。

 高い木の果実が採れなかったのを酸っぱいからと言い訳する様な気持ちが義兄にもある。

 だからこその「今更」だ。

 心情に突っ込むというのはなかなかやはりきわどいものだ。

 私に対し「たかが女専生に何がわかる」と言われても仕方がない。

 先輩が居ることで、その理由をあらかじめ抑えておこう、というのが連れてきた第一の理由だった。

 まあ無論、第二として、私に婚約者なんて本当に居るのか? という義兄に現物があるぞほら! と言いたい気持ちもあったのは確かだが。

 第三に、やはり私が気付けない点をフォローしてもらいたいというところがあった。

 分析力もだが、やはり私に気付けない、だけど私に近しい男性の目線も欲しかったのだ。


「……そうですか初めまして」


 そう返す義兄の言葉のトーンが落ちたこと!


「実家やエザクにまで聞きに行ったのなら、大体のことは想像がついているのだろう?」

「残念ながら、私には家庭を破壊してしまう様な感情が解らないので、その辺りを流れにそって聞きたいのです」

「それもまたトリールは了承したと?」

「しっかり聞いてらっしゃい、気が済むまでと言われましたが?」


 嗚呼! と義兄はがっくりと肩を落とし、頭を下げた。


「トリールは僕のことを許す気は無いんだな、ああ言っても……」

「ああ言っても?」

「順番に言えと言ったのは君だろうマルミュット、それこそ時間に沿って言ってやるさ。最初に出会った辺りからの僕の気持ちがしっかり入ったあの辺りのことをね」


 はあ、と大きくため息をつくと、義兄は話し出した。


「そう、気になったのは確かに葬式の時の、彼女の喪服姿からだったよ」

「その時からですか? 結婚式の時には気付かなかった?」

「印象が全然違っていたんだよ! 結婚式の時にはまだ未婚で明るい色の服に髪型も華やかだったろう? トリールの友達と聞いてもああそうか、としか思っていなかったよ。何せ自分自身結婚式で皆に挨拶回りするのに精一杯だったからね! 敬愛なる教授の愛娘を娶った男ってことで、あちこち引きずり回されていたのは君だって知ってるだろう?」


 確かにそうだった。

 お父様の友人達にもお姉様は評判が良かった。

 だから婿取りでなく嫁に出すという選択ができた男というものに対し、皆さんの目は厳しかったのだ。


「それだけで肝が冷える思いの時に、トリールの友人になんて、いちいち目をやっていられなかったよ。皆同じ様に華やかで、見分けがつかなかったくらいだ。君はまだ女学校の制服だったから、すぐに分かったが、それ以外はひたすらひらひらとした明るい色の服で……」


 やれやれ、という様に義兄は首を横に振った。

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