第3話 欲

 頭が半分欠けたとて、日常生活における僕の行動は特に変わることはなかった。食欲もあるし、疲れたら眠くなる。パソコンで仕事をする時に柿ピーを食べたくなる欲求もいつも通りだったし、自宅から歩いて3分程度の場所にあるラーメン屋にもたまに行きたくなる。1日3食しっかり食べる事が出来た。


しっかり性欲もあった。頭が欠けているのに自慰行為をしているなんて、側から見ればスプラッタそのものじゃないか。街でセクシーな女を見れば目で追っかけてしまうし、満員電車でのちょっとしたラッキーな接触もいまだに僕を少し興奮させていた。


少し変わったところといえば、頭があった時と比べて、音の聞こえ方、光の感じ方が若干変わったように思う。割れたガラスをくっつけても、接合面があるので、光が曲がって見えるのと同じだ。欠片はくっ付いてはいるが、割れた部分に元の透明度は無い。屈折と影はずっとそこにあり、見える部分によってはどうしてもぼやけて見えにくい位置がある。僕はそれを調整しながら物を見る必要があった。

レーシックはしたことがないが、きっとこういうものなのかもしれないと思った。あれは光をより強く感じるらしいが、本当だろうか?あの薄っぺらい透明なレンズの表層がどれだけ光を防いでいたと言うのだろうか。


音も同様に頭がある時とは聞こえ方が異なっていた。ある音域というか音階というか、聞こえにくい音が生まれた。生まれたというのか死んだというのか、表現に困るが、これまでこの世界にはなかった感じ方なのだから、それはきっと新しく生まれたものなのだろう。生まれたくせになくなっているなんては皮肉でしかない。


頭は半分以上欠けてしまっているが、日常生活はそこまで不便ではなかった。仕事も続ける事が出来た。僕のボスには本当に感謝している。もちろん、頭がない分、人の視線も気になるし、子供に指を刺される事もある。どうやってタバコを吸うのかとか、どうやってご飯を食べるのかよく質問を受けることがある。僕はそれにいちいち丁寧に答えることにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る