第21話 悪魔の生活その3
悪魔に転身してから10日間くらいたった。
王家からの不穏な使者もなく、平穏な日々を過ごしている。
平穏な日々とは、悪魔にとって不名誉
それに悪魔の力の鍛錬は、想像を絶する過酷なもだった気がする。
わたしは、鍛錬のために一流剣士の真似をして、『鍛錬ノート』をつけることにした。
やはり、能力の格段なレベルアップは、わたしの
たゆまぬ努力こそが、一流の悪魔への近道と考えてのことだ。
なんて、勤勉な悪魔。
わたしの当面の目標は、完璧な悪魔になることだ
初日から振り返ってみた。
初日は、サロンでの悪魔の能力の講習会終了後、おいしいランチを堪能した。
つかの間の
悪魔の鍛錬は厳しいのだ。
直後に、鍛錬は始まった。
いついかなる時も
「マリー様、シェフを呼びますか?」
朝食の約束を覚えていたヤギハシさんが、声をかけてくれた。
ランチは、エビのアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ・パスタ。
エビはぷりぷりして、臭みはない。
香草のくみあわせは、ごくありふれてはいるが、
ほどよいニンニクとともに、食欲を増進するためのスパイスとして絶妙だった。
つまり、海に面していて新鮮なエビが手に入る。
さらに素材の鮮度に頼り切らずに丁寧に下処理している
嗅覚の能力と味覚の能力をフル稼働させての結論だから、シェフの真面目な働きぶりがうかがえる。
「はい。すっごくおいしかったので、ぜひ挨拶を」
すぐにヤギハシさんは、シェフのゴブリンを呼んでくれた。
ゴブリンと
ちょっとドキドキしたが、あらわれたゴブリンシェフは、愛くるしい存在だった。
「人間の小娘にオレの料理が口に合うのかバカヤロー」
「会えばわかります」
「しょうがねぇなバカヤロー」
コック帽子を握りしめて
「初めまして……?わたしの言葉?わかりますか?」
「ああっ!わかるよバカヤロー。なっなんだゴブリン語、喋れるじゃねぇかバカヤロー」
「シェフ!バカヤローはよけいです」
鋭くヤギハシさんが注意した。
「バカヤロー、『バカヤロー』は口癖だバカヤロー」
バカヤローが口癖なら、わたしには問題なかった。
「初めまして、シェフ。わたしは、最近こちらでご
「ああ、アスタロトの花嫁だろうバカヤロー。こんどはまともなのを選んだなバカヤロー」
「?」
「一言よけいだぞ。お前の代わりはいくらでもいるんだぞ!」
アスタロト様の思いがけない
なっなんてことを!!
「だめです!!シェフの変わりは、
「マリーは、食べもののことになるとずいぶん強気に出るな……」
「あたりまえです。食べなければ死んでしまします」
「マリー、お前、元人間なのにアスタロト様にたてつくなんて、なんて命知らずなんだバカヤロー」
「間違っているとおもったら、誰であろうと、反論いたします。そのうえで互いの考えを話し合い、
「一方的に殺され続けてお強くなりましたね~、マリー様は」
ヤギハさんはそういうと考え深げにしていた。
「元人間なのにゴブリン語もうめぇじゃねぇかバカヤロー」
照れくそうに褒めてくれるゴブリンシェフは、どうやら、ただの照れやさんだったようだ。
「そういえば、本当でしたわね!!」
言葉の不自由さを全く感じない。
「さっき説明したろう?それが悪魔の聴覚能力だ」
「まぁ」
「無意識に、そこまでナチュラルに能力を発揮できているなら心配ないな」
なんだかつまらなそう?
「つまらなくなどない!面白くないだけだ!」
「?」
「テレパシーですよ」といたずらっぽくヤギハシさんに教えられた。
鍛錬の初日は、こんな感じだった。
また、別の日の『鍛錬ノート』は、こんなことを書いた。
視覚能力は、お花の種まきに能力を発揮した。
虹色の花壇を作来ることができた。
種の状態で、何色の、どんな花が咲くかわかる便利ものだった。
けれど、アスタロト様から悪魔の城がメルヘンになるからと注意を受けた。
悪魔の力の調整は難しい。
厳しいばかりではないのが、アスタロト様のお優しいところだ。
人目にはつかないけれど、
裏庭と言えば、別な日にはこんなことが書いてある。
裏にうっそうとした
そこを散策中にみるからに毒キノコ毒キノコした、毒キノコを見つけた。
軸は白いが、立派な傘部分に紫に白の水玉模様だ。
絵にかいたような毒キノコ。
ゴキュリ。
食べてみたい。
悪魔になった今なら、イケる!!
悪魔が、わたしにそう囁いた。
その毒キノコを食べたくてわがままを言って、ゴブリンシェフに毒キノコのガーリックソテーにして出してもらった。
シンプルな調理方法だからこそ、素材の毒キノコの旨さがわかる。
毒キノコだけれど、凄くおいしかった。
でも、その後、お腹をこわした。
「毒の耐性があるわけじゃない。少量でも感知して、即座に無毒化する能力だ。どうして、完食なんかしたんだ!?考えればわかっ……」
アスタロト様に叱られながら、万能の強い体が欲しいと欲
「マリー、お前が欲しいのは、
アスタロト様は、わたしが苦しむベットの横で、美しいの顔を手でおおった。
そんな
わたしは、今日、シンシアちゃんのことでアスタロト様に相談をしていた。
「お城の縮小を要求します。シンシアちゃんとヤギハシさんだけでは、現規模のお屋敷を維持するのは難しいです」
「確かに、マリーを迎えるために広くしたが、へスぺリデス家を
「そうですわ」
「いらない部屋は、つぶしてしまおう」
「待ってください!あの立派な調度品の数々はどうされるのですか?」
「燃やしてしまうさ、悪魔の業火で一瞬だ」
「なんでもかんでも可燃ごみにするのなら、街に行って古道具屋に売りませんか?」
「!?。さすが商人の娘!」
「シェフからも、街にしか売ってないスパイスが欲しいと頼まれていて」
「いつの間に仲良くなった!?」
「お手伝いにいくと、
アスタロト様は、ハァーと深いため息をつき
ーいつもお褒めにあずかり光栄だー
そうだった。テレパシーでわたしの気持ちはいつでもアスタロト様に筒抜けだった。
久しぶりの人間の街では不穏な噂でもちきりだった。
街の古道具屋の主人から、話を聞いた。
オイジュス王太子が、デスピオ火山の悪魔のアスタロト侯爵の討伐を再び行うというものだった。
「いまさらどうしてですか?」
清算中の古道具屋の主は、持ち込んだ品物の見事さに目を奪われつつも詳しくおしえてくれた。
「元王太子妃のマリー様が 実は、インバスキュアの
「インバスキュア?」
性に
「なんでも、へスぺリデス家は悪魔に乗っ取られていて、宗主国でつかまって全員処刑されたって聞いた。家族は全員
オイジュスは、へスぺリデス家の全員を手にかけた。
「そっそんなこと……」
わたしの体は、震えていた。
恐怖ではなく、怒りで。
今までにないくらいオイジュスに対して憎いと感じた。
けれど、憎く思っているのはわたしだけではない。
いまやオイジュスは、赤っ恥をかかされた元凶のわたしを完璧に排除するために、アスタロト様もろとも殺す気なのだ。
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