第20話 悪魔の生活その2


 なごやかなうちに、おいしい朝食の会が終わった。


美味しくて幸せな朝食だった。


ーヤギハシさん、コック長にお会いしたいのだけれど、どんな方?ー


ーゴブリン出身ですー


ーお会いして、お礼を伝えたいのですが、どうかしら?ー


ーランチの後でしたら手もあくでしょうから、その時に挨拶させましょうー


ーそうね、お願いします。あっ!?でも言葉がわかるかしら?ー


ー心配にはおよばん。サロンに移って、くわしく能力について説明しようー




 サロンに移ると、シンシアがお茶を運んでくれた。


シンシアには、わずかだけれど、疲れの色が見て取れた。


「シンシア、大丈夫?」


「ハイ、お嬢様」


なんとなくだが、感じていたことがる。


ーアスタロト様もしかして、わたし付きのメイドは、シンシアだけですか?ー


ーそうだがー


「シンシア、わたしは、自分のことや、お茶をいれることなら、自分でできるわ。へスぺリデス家より使用人の数が少ないのだから今までのように、あなたがなんでも、わたしの身の回りのことをしなくていいのよ」


「ですが、お嬢様」


「だめよ、あなたには大切な役目があるの。わたしの心の支えよ。そのためにあなたは、ここにいるのよ!」


「お嬢様の心の支えですか?わたしがですか?」


「そうよ。わたしのことをよく知る人が少しでもいれば、わたしだってっ不慣れな生活の中でも心をなぐさめられるわ」


ー不慣れとは?わたしが知っている『不慣れ』という言葉と『人間が使う不慣れ』は、真逆の意味なのか?それにしてもマリー昔は、もっとはかなげだった気が……今は、繊細さのわずかかな欠片かけらも木端微塵に消し飛んでしまったようだー


おもわず、アスタロト様をきっとにらんだ。


「よいのです!わたしには、適応能力というスキルが、新たに備わったのです」


ー適応能力なるあいまいなモノをさづけてはいない。マリー、きみは天性の図太さを持っていたんだなー


「聞こえないかしら、シンシアには。アスタロト様の声が。わたしは悪魔が舌を巻くほどの適応能力があるらしいの。でも、アスタロト様は、悪魔のような図太さはさずけてくださらなかったの。だからこそ、わたしの繊細な神経を癒す存在が必要なのよ。それが、あなたなのよ、シンシア」


「嘘つきは、悪魔の常套手段だ。今の話の中身の『癒しの存在』以外の99%を信じるなよシンシア」


わたしは、自然と頬を膨らませてプリプリした。


「とにかく、シンシアは、少し休んで!仕事で、悪魔にまでお茶を入れなくていいわ。そうゆうことは、わたし、自分でやります!」


「わっわかりました。お嬢様、ありがとうございます。」


シンシアは、イマイチ状況がのみ込めないようだったが、わたしの迫力に気圧けおされて承諾するしかなかった。


「あっそれとシンシア、わたしはもうへスぺリデス家の人間ではないから、『マリーお嬢様』と呼ばないで」


「えっ?マリーお嬢様までですか!?……ではなんとお呼びすればよろしいのですか?」


「マリーでいいわ」  


「呼び捨てですか?それはちょっと……では、せめて様はつけさせてください」


「う~ん、わかったわ、そうしましょう。そのかわり、シンシアのことは、『シンシアちゃん』とよばせてね」


シンシアちゃんは、恐縮しながらもお辞儀をしてサロンを後にした。


少しでも彼女の負担を減らしたい。


自立のあかしの第一歩にもなる。


できることは自分で行う。


「いい、心がけだな」


「使用人が増えればいいのですが」


イヤミだ。


「使用人は増やさない。悪魔にひれ伏すようなやからは不要だ。みな、各々おのおのの種族は独立してしかるべきだ。能力に差はあれど、種族間の身分に上下はない」


その言葉に、ハッとした。


ー申し訳ありませんー


ーいいんだ。わかってくれれば。それに、わが種族には、他の者たちよりできることが多い。それをこれから説明しようー


頭の中に黒板のようなものが浮かんできた。


そこにつらつらと文字が書かれていく。


同時にアスタロト様の声が、テレパシーで聞こえる。


ー第一にテレパシー能力。今このように、視覚情報、思考情報を伝えることができる。最初はひとり、ふたり位にしか伝えられないが、何千人規模まで伝えられるようになる。ー


ースゴイですね!ー


ー次に視覚の能力アップ。朝食で、マリーがやってのけた能力だ。あーいったくだらないことで使う者は初めて見たがー


赤面してしまう。


ー続けて、聴覚のアップ。遠くのネズミの鳴き声も聞こえる。さらに悪魔特有なのは、あらゆる種族の言語も理解できるー


ーだから!ー


ーそうだ。ゴブリンの料理長の言葉も理解できる。安心したか?ー


ー便利ですわ~!ー


ー最後が味覚の能力アップー


ーおいしいものしか食べられなくなるのは、困ります!ー


思わず立ち上がってしまった。


ーちがう。落ち着きなさい。座りなさい。毒の判別を可能にし、口にしても無毒化できるー


ーそれは、この世からまずい料理がなくなるという画期的なスキル!!美味しいものはよりおいしく、まずいものは、まずさを感知不能にできるのですね!ー


ーなんでもおいしく食べようとするな!毒の無効化がメインの能力だー


ーわかりました!毒キノコを間違って食べても平気な素晴らしい能力!!ー


ー頭の情報が駄々洩だだもれだ、マリー。すこし食べ物から離れなさい。今後は、悪魔としての能力を鍛錬するんだ。角や尻尾がなくても、悪魔は悪魔だー


アスタロト様は、疲れたようにため息をついた。


ーこんなにもナチュラルに悪魔の能力を使いこなすと思ってもみなかった。しかもそれら全てが食欲に直結している。我は悪魔ではなく、餓鬼に転生させたのか?ー


ーあい、すみませんー


アスタロト様は、ギョッとした顔をしたが、おかしそうに声をあげて笑った。



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