第14話 凱旋(1)
◇第十四話 凱旋(1)
「父さん!!」
「おじさん!」
「みんな無事か!? 怪我はないか!?」
「うん、こわかったけどへーき……」
「そうか、良かった……本当に良かった」
警吏さんたちは子どもたちと抱き合って、無事だったことを喜んでいます。ちょうどそこへ駆けつけてきた多数の村人さんたちが、一緒になって喜び合いました。
「君たち、ありがとう……本当に、ありがとう……」
カフランさんが目に涙を溜めながらお礼を言ってくれたので、わたしも釣られてうるうるしてしまい、アカネちゃんに頭をくしゃくしゃと撫でられました。
「みんな、良くやったな、子どもたちを助けることができたのは、お前たちが頑張ってくれたからだ」
「そんなん当たり前ですやん、なぁアカネ?」
「そーっスよ千葉さん! 人助けっスから、当たり前っス! な? のの」
「はい! プロレスの技が人の役に立って、嬉しいです!」
「ノノお姉ちゃん!」
「ノノ〜……」
振り向くとアビィちゃんが胸に副社長さんを抱えて走って来て、わたしに抱きつきました。
「助けてくれてありがとう、ノノお姉ちゃん!」
「うん、アビィちゃんが無事で良かった! 怪我とか、痛いとこない?」
「ちょっと痛かったけど、フクシャチョーが治してくれた!」
「そうなの? ありがとう副社長さん! ヒールで治してくれたんだね」
「うむ、くるしゅーない……いや苦しい。オマエとガキ娘に潰されてる」
「良かったなフク、モテモテじゃんか」
「ご、ごめんなさい副社長さん」
副社長さんはわたしたちから解放されると、空中の安全地帯まで逃れようとしたんですが、短い足をアビィちゃんに掴まれ再び抱え込まれました。
「……おい、治ったんだからもういいだろ?」
「だめー、いっしょにいるの!」
「勘弁しろよ……オレはガキのおもちゃじゃ無いんだぜ」
二人(?)の攻防が続いていると、ダリウス警吏さんの大きな声が聞こえてきました。
「皆! すまないがオークの後処理を頼む! 後でベクセンのギルドに報告せねばならんからな!」
オークの討伐証明部位と魔石を確保した後、穴を掘って埋めたりするなど、ダリウスさんは村の皆さんに指示を出しています。子どもたちにあまり見せたくない光景だったので、わたしたちは少し離れた場所で子どもたちと一緒に待っていると、後処理が済んだようでダリウスさんがこっちにやって来ました。
「すまなかった。子供たちを救出できたのは、君たちのお陰だ」
「いいんだ警吏殿、子供たちが無事で良かった、それでいいじゃないか」
「……そう言ってくれると助かるよ」
「それで、この後はどうするんだ? オークの残党退治をするなら協力するが?」
「元々確認されていた数は、十匹程度だった。ここで倒したのが十四匹、既に数が多い。まだ残っている可能性はある……」
「その心配は無用だ。近くにオークの気配は全く感じられないからな」
「そうか副社長、ありがとう。そう言うことだ警吏殿、安心して良いと思う」
「あぁ、精霊がそう言うんなら間違い無いだろう。……よし、子供たちを連れて帰ろう、母親たちが心配しているからな、早く安心させてやりたい。もちろん君たちも一緒にな」
「……分かった。では私たちも村へ戻ろう」
子供たちを連れて村に戻ると、待っていたお母さんたちが一斉に駆け寄り、抱き合って無事を喜び合いました。カフランさんやブラウさんが、わたしたちの助力のお陰だと村の人たちに伝えたので、アビィちゃんのママや他のお母さんたちに泣きながらお礼を言われて、わたしもまた貰い泣きなのです。
更にカフランさんは、わたしたちが通ってきた南森のゴブリンや、それより少し西のラッシュボア退治の話を村の人たちに伝え、ダルカ村の脅威がほぼ解決したと宣言したため、その晩、村人総出でお祝いの晩餐会が催されました。
広場にテーブルや椅子を沢山並べ、ランタンを灯してお祭りのような雰囲気です。わたしも料理の支度をお手伝いしました! だって、白菜に似た野菜が村で採れるのを知って、どうしてもそれを使って、CVW特製ちゃんこを作りたかったのです! ――あ、ちなみにオークに齧られた猪のお肉は、齧られた周辺を削ぎ取って、清潔魔法で綺麗にした後、しっかりちゃんこに使いまいた。
「美味い! 酒にも合うな!」
「本当、このお鍋良いわ! 特にこのスープ、何だろう? 凄く美味しい〜!」
CVW伝統の味噌ちゃんこ鍋は大好評で、特にお母様方に大人気でした。
わたしたちは四人で一つのテーブルに座り、振舞われた料理や飲み物を楽しんでいるとダリウス警吏さんがやって来ました。
「改めて礼を言う、ありがとう」
「もうええて、警吏はん、頭を上げてぇな。そこ座たってぇ」
「みんなが無事だったんですから、もう十分ですよ警吏さん!」
「ああ、犠牲が出なくて何よりだったと思うぞ」
「へへん、アタシらの凄さが分かっただろ? もう牢屋なんかにゃ入らねーからな! にひひひ」
「それは……本当にすまなかった」
「も〜良いんです警吏さん、はいどうぞ! お酒です」
「警吏殿は意地悪ではなく、理由があって私たちを拘束したのだろう?」
ダリウス警吏さんは、長い沈黙の後、ポツポツと過去に村で起こった事を話してくださいました。
「……もう八年近く前の事になる」
ダリウスさんにはメリーアンナさんという娘さんがいたこと。生きていたら千葉さんくらいの年齢で、村の外で逸れオークの三匹に連れ去られたこと、それを助けようと向かった村人の一人、アビィちゃんのお父さんが殺されてしまって、その後メリーアンナさんが遺体で見つかったこと。そしてそれはダリウスさんとカフランさんが不在の間に起こった出来事だったそうです。
「そないなことが……」
「それは……なんといっていいか分からないが……辛いことだな」
「……おっちゃん……」
「……そんな……ひ、ひどいです……ぐすっ……」
「泣かないでくれお嬢ちゃん……もう、昔のことだ。それに
ダリウスさんはわたしの頭を優しく撫でてくれました。
「でもまた最近オークが現れたってことなのだな」
「そうだ。ここのところ、オークだけじゃなくゴブリン、ラッシュボアなど、村の周辺に立て続けに魔物が湧いてな。……昔のような事が二度と無いよう村人の安全を考えて、男たちしか外へ出ないようにしていたんだ。特にオークは、女、子供の匂いや声に反応してな、女はオークの子を産ませる為に、子供は食糧にする為に拐っていくんだ」
「……そうか、だから私たちが大声で呼び込みを始めた時に、あんなに怒って……」
「安全の為とはいえ、すまなかったな」
「過去の状況を考えれば無理もないことだし、私たちの安全も考えてくれていたのだから、謝ることでは無いよ警吏殿。むしろ、魔物に対する私たちの知識が不足していたのだ。謝るのならばこちらの方だ」
「村を守る者として強くあらねばならない。だから俺は……過去を吹っ切ったつもりでいたのだが……未だに囚われていたのかもしれん。そのせいで君たちにも子供たちにもかなりキツく当たってしまっていた、すまん」
「そんなん忘れられるわけあらへん、誰だって引きずるに決まってるやん」
「いや、今回のことで気付かされたよ。無理に過去を忘れる必要は無いんだと」
警吏さんはお酒を一口飲んで、穏やかな表情で続けました。
「過去を踏まえた上で本当に大切なものを間違えるなということだ。村を守る為には、厳しくすれば良いというのではなく、今を生きている子供たちと、その未来を守ること、そのために一人で抱え込むのではなく、村のみんなで協力し合うことが大切なんだと、君たちを見ていてそう教えられた気がする」
「…………警吏殿」
「あー……なんか色々知らなくて好き勝手言ってゴメンな、おっちゃん」
「いや、オヤジの愚痴に付き合わせてしまって悪かったな、折角の祝いの場がしんみりしてしまった」
「なんか、お互いに謝ってばっかりですね、ふふふ」
「……フッ、確かにそうだなお嬢ちゃん」
「よぉーし、じゃあここはお巡りのおっちゃんと仲直りを祝して、乾杯といこーかぁー!」
「アカネ、お前それアルコールじゃ……」
「はいはい千葉さん、固いこと言わない、今日はブレーコーっスよ! ほらみんなコップ持って、はいせ〜の、カンパーイ!」
アカネちゃんの音頭で半ば強引に乾杯すると、周りの村人さんたちも再び次々と乾杯を始めました。
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