第13話 オーク退治(2)

 


 ◇第十三話 オーク退治(2)




 


「危ないカフランさん!」


 ブラウさんが叫びました。オークの振り上げた棍棒が、今まさに門番さんに振り下ろされようとしています!――間に合って!!

 

「ァアーカァーネェエーー‥スゥーパァアーー‥ドォローップインパクトォオオオ!!!」


 ドカァアーーーーーーン!!!


「ブゥグワァーーー!!」


 アカネちゃんが超跳躍して、体を空中で捻りながらオークめがけてドロップキックをお見舞いしました! オークは後ろにいた一匹を巻き込んで吹き飛び、ノックダウンです!


「エレガンスソバット!!」


 ズバァーーーーーーン!!


 警吏さんに襲い掛かろうとしたオークが千葉さんのソバットで吹き飛びました。

 

「!?」 

「警吏殿、加勢する!」

「お前達……女は来るなと言った筈だ!!」

「……す、すげぇ……彼女ら何もんですか? カフランさん」

「少なくとも俺たちより強いのは確かだ」

「……アームスドラゴンスクリュー」

「ギィグワァーーー!!」


 ドバァーーーーーーン!! ゴギィッ!

 

 もう一方から警吏さんに攻撃を加えようとしたオークの腕を、ラトさんがドラゴンスクリューに捉えて捻り、腕関節を決めた一本背負いのように体ごと投げつけ、地面に頭から投げられたオークはそのまま昏倒しました。


「警吏はん、そんな悠長なこと言ってる状況ちゃいますやん。子どもたち助けんと」

「!……くそっ!」


 オークに向き直った警吏さんは、男の子を片手に抱えたオークと対峙して、そのままジリジリと硬直しています。わたしが少し上空から見た限り、子どもは男の子三人と女の子一人の四人だけのようです。……子どもたちを何とかしないと、警吏さんたちも戦えません。新たなオークの援軍が後ろの山側から来ているのが見えます。

 

「千葉さん! 後ろからオークが六匹くらい来てます!」

「分かった。……警吏殿、聞いてくれ! 人質を取っている相手に剣で戦うのは躊躇いがあるだろう、そこであなた方には後方から来るオークの足止めをしてもらいたい! 子どもたちを抱えたオークは、私たちが相手をする」

「な……何を馬鹿な! はいそうですかと任せられるものか!」

「不服は承知だが、今見た通り、我々は素手での闘いを生業としている。万が一にも、私たちが子どもたちを斬りつける心配は無いからな」

「…………」

「ダリウス、ここは彼女らの言う通りに協力しよう!」

「ダリウスさん! 人質がいなけりゃ、俺らだってもっと戦えます!」

「お父さん!」

「…………子どもたちを、頼む」

「ああ、任せてくれ。よし、ラトは左の子を、アカネは右の子だ。ののは後ろの女の子を。私はデニウス君を助ける」

「わかりました!!」

 

 ……とは返事をしちゃったけど、どどど、どうすればいいんだろう? 警吏さんたちは千葉さんを……いえ、わたしたちを信じて子どもたちを託し、後ろから来るオークに立ち向かっていきます。何とかしてあの子を無事に助けなくちゃ……


「うぉおおお来いっ!! お前等の相手は俺たちだ! カフラン! ブラウ! 一人二匹の割り当てだ。奴等をこれ以上近づけさせるな!!」

「応!!」


 キン! ガキン!! ガンッ!!


 オークって漠然とだけど、三匹の子豚みたいなのをイメージしてたんですけど、ちっとも可愛くなくて、むしろ凶暴な顔だし、おまけにゴブリンよりずっと大きくて、警吏さんより幅がある分、強そうです……それに何かちょっと臭いです。


「ふ、副社長さん、ど、どうしよう……」

「とりあえず奴の注意をこちらに引いて、子どもから意識を逸らすんだ。相手の手が届かない空中で待機しながら様子を見る」

「は、はい……その後は……?」

「その後は……どうしようノノ?」

「ぇえ〜…………でも、とにかくやります」


 副社長さんを上空に残し、わたしは空中を移動して、女の子を抱えているオークからギリギリ攻撃の届かない所まで近寄ります。


 ――こ、この後はどうしよう……あれ?この子、昼間のあの女の子だ……涙いっぱい溜めて、怖いんだね……名前は確か……


「アビィちゃん、大丈夫だよ、お姉ちゃんが助けるから、もうちょっとだけ待っててね」

「…………ノノ、お姉ちゃん……」


 考えろ、考えろわたし! アビィちゃんを助ける方法が絶対あるはず!

 わたしたち四人はそれぞれ、子供を人質に取ったオーク四匹を前に睨み合いの膠着状態でしたが、ラトさんが動きました。

  

「なぁオークはん、子どもより、ウチらの方がええんちゃうん?」


 ラトさんがオークに話しかけ、いきなり虎縞マントを払い上げました。虎縞ビキニコスチュームの見事なお胸が、当然目に飛び込んできます。その途端……


「グフゥグアオオオォォォォォン!!」


 オークは突然にじり寄り、ラトさんを掴もうと手を伸ばしますが、片手は棍棒を持っていて、もう片方は子どもを抱えているので掴めません。ちょっと悩んでから棍棒を手放して、空いた手でラトさんを掴もうとしますが、ラトさんは余裕で躱します。何度か掴み損ねているうちにオークの目の色が変わって、涎がものすごい事になってます……何か、すごく……いやなのです。そしてついに痺れを切らしたオークは、子どもを手放して猛然とラトさんに襲いかかりました。


「副社長はん! 子どもを!」

「おう!」


 副社長さんは放り出された子どもの元に一直線に飛んで行きました。


「フンガァアアアアーー!!」

 

 オークはラトさんにガッチリ抱きついてしまいました。ラ、ラトさんがピンチなのです!!


「待ってたでぇ……ハアッ!!」


 ズッシィーーーン!!


 なんと! ラトさんはオークを掴み返しフロントスープレックスで投げました! 後頭部から地面に落ちたオークは、朦朧とした状態で起きあがろうとしますが、ラトさんの「虎〜すキック!!」が首を突き刺すように決まり、完全に沈黙しました。……ラトさん凄い!!


「なるほど、そういうことか……まったく、オークとは下品な奴等だな」

 

 千葉さんがマントを跳ね上げてオークを挑発しだしました。……ええ、そりゃもう効果抜群です、オークじゃなくたってみんな食いついちゃいます。分かりますよブラウさん、わたしだって見惚れちゃうのです。でも危ないので目の前のオークに集中してくださいね!

 このオークときたら、武器も男の子も一度に放り投げて、千葉さんに飛びついてきました!! その隙を千葉さんが見逃すはずがありません!!


「ハッ!!」


 ズバァッ! ダァーーーン!!!


「グゥェエエエエエ!!」


 空中を泳ぐように飛びかかってきたオークを迎撃するように、千葉さんはドロップキックのように跳び上がって両足でオークの首を挟み、素早い回転で「ウラカンラナ」を決めて、遠心力で回転しながら吹き飛んだオークは、岩にめり込んでKOしました。

 

「おっしゃー!! 今助けてやるから待ってろよガキんちょ! さぁ来いやァーー! カモン! へいカモン!!」


 アカネちゃんがガウンを払って挑発します。オークは何て言うか、さっきまでと違ってイラついてるように見えます。……って、いきなりアカネちゃんに棍棒で殴りかかりました!


 ドガァッ!!


「……ッコラー!! 何で掴みにこねーンだ! おい! テメーがそーゆー気ィなら、こっちだって容赦しねぇ! ケンカだオラァーーー!!」


 ブンッ!! ドガバギィイイイ!! メリリィッ!!


 なんて強引な……! 殴りかかってきた棍棒に、アカネちゃんは拳で殴り返し、粉砕(!)して、思いっきり股間を蹴り上げました!! オークは男の子を抱えたまま、泡を吹いて仰向けにノックダウンです! ……つ、つよい……けど、デタラメすぎるのです!

 プロレスラーは普通、急所攻撃をしません。反則技だからです。でも5カウント以内なら注意は受けても反則と取られない暗黙のルールみたいのがあって、それを利用して反則技を繰り返す悪役レスラーもいます。でもアカネちゃんは正統派ベビーフェイスなのでリング上で反則技を使うことは殆どないのに、今は完全にケンカ殺法になっちゃってます!……それだけ頭にきてるんです! わたしだって許しません!! アビィちゃん、絶対助けるからね!

 

「オ、オークさん、その子よりも、わたしの方が大人の魅力があると思うのです! ……どうですか!?」


 わたしもお着替えタオルマントを捲って、スク水型コスチュームを見せつけてやりました。


「………………」

「さ、さぁ、どうですか? その子を離してくれれば、わたしが代わりになりますよ?」

「………………」

「……何で黙ってるんですか? 何か言ってください」

「………………」


 フイッ……


 え? 何で目を逸らしたのかな?


「も、もしかしてビビってますか? ならこっちから行っちゃいますよ?」


 わたしは低空で浮いたまま、スイッと手の届く範囲に近寄りました。更にタオルマントを目の前でヒラヒラさせます


「…………」

「さぁ、その子を離してください。 さもないと酷い目に遭いますよ? わたしだって、極悪非道なけんか殺法をお見舞いしちゃいますよ!」

「……グフン」


 ――え? あれ? 今、何か鼻で笑いました!?


「……じゃ、じゃあ、これならどうです!? 耐えられますか!?」


 わたしはアイテムボックスに入れておいた巨大な猪肉を目の前にドン!っと出しました。途端に目の色を変えて、オークは涎を垂れ流し始め、アビィちゃんと棍棒を手放してお肉にかぶり付きました。……なんか、分かってたけど、ちょっとだけ納得いかないような……


「ノノお姉ちゃん!」

「アビィちゃん、良かった! さ、危ないから向こうへ! 副社長さん、お願いします!」

「任せろ! 四人ともオレの近くにいれば結界が守ってくれるからな、安心しろ!」 

「ふぅーーーーーーっ……」


 わたしは着地すると同時に深呼吸して、魔法を発動する時の要領で魔力を身体に集中して、鉄の鎧を纏うイメージをしました。そしてお肉にむしゃぶりついてるオークに狙いを定めると、クラウチングスタートのようにして大地を蹴り、強烈なスピアーをお見舞いしたのです!


 ドガァーーーーーーーーーン!!!


 タックルを食らったオークはお肉もろとも吹っ飛んで、奥で戦っていた警吏さんたちの頭上も飛び越えて、増援オークの一匹を巻き込んでKOしました!

 ――やった……やりました……!!


「っしゃーーのの! でかした!」

「アカネちゃん! 警吏さんたちを助けないと!」

「それならほら、見てみ。もう全部片付いてるぜ」

 

 アカネちゃんに言われて目を向けると、千葉さん、ラトさんの素早い援護もあって、警吏さんたちは全てのオークを倒し、脅威は去ったのでした。


 

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