第12話 オーク退治(1)



 ◇第十二話 オーク退治(1)






 ブラウさんが見張り台の鐘を激しく鳴らし、警吏さんたちは集まってきた村の人たちに大声でオークに子供たちが拐われた事を告げ、東森へ一緒に救出へ向かえる人たちを募りました。


「オークは少なくとも縄張りに戻るまで、子供たちに何かする事は無いはずだ! だが急いだ方が良い! 行ける者は武器を持て! ジョルジオ、来てくれ!」

「どうしたダリウス?」

「君ら狩人は村の防衛のために弓装備で待機してくれ」

「何だって? 俺らも戦うぞ!?」

「万が一の村の防衛の為だ、頼まれてくれ」

「……分かった、狩人連中は俺が纏めよう」

「すまん、助かる」


 わたしたちも警備詰所の外に出ると村の中は騒然としていて、子どもたちを救出に向かうべく、男の人たちが各々武器になる物を探して走り回っています。


ダリウスあなた……デニウスが拐われたって……本当なの?」

「マリーベル、事実だ。だが息子デニウスは俺が必ず連れ戻す。約束する」

「ダリウス! うちの子が……ユーリが居ないの!」

「ホーリ、大丈夫だ、俺たちが直ぐに行く、いいね?」

「お父様! ダリウス! アヴィが居ないわ! きっと連れ去られたのよ!」

「ルイス……わたしが行く、案ずるな」

「いいえお父様、私も行きます! 子どもの為ならオークなんて怖くないわ!! 亡夫あのひとの代わりに私が娘を守らなきゃ!」

「ダメだルイス! 女子供は待機、これは命令だ! 村長ラーセル、あんたはここに残ってルイスやみんなを落ち着かせてくれ。アビィは必ず助ける」

「わたしに何もせず大人しく待っていろと!?」

「聞いてくれラーセル、いいか? 救出隊が出たら門を閉じて、狩人たちとあんたが村を守るんだ、みんなを纏めるのは村長にしかできない、だから、頼む」

「…………分かった、子供たちを頼む」

「ああ、任せろ。――我らは先行する! 後から来る者は必ずグループで来い! 行くぞカフラン、ブラウ!」


 警吏さんたち三人はそれぞれ剣と盾を持って、カフランさんが引いてきた三頭の馬に跨って門から駆け出して行きました。

 わたしたちは警吏さんに何て言われても、一緒に子供たちの救出に向かうつもりでいたのですが、置いて行かれてしまいました。

 

「千葉さん、アタシたちも行こうぜ!」

「無論そのつもりだ。いいな?お前たち」

「当然ですわ、ウチらならチカラになれますもん」

「はい、助けに行きましょう!」

「よし、そうと決めたならオマエら、早着替えスキルで、試合と同じくコスチュームとマントを纏え」

「マント? 入場する時のヤツか、フク?」

「そうだ。あのマントに、移動能力を特別に強化した付与がしてある。馬に追いつくにはそれしかない」

「そうか! なら変身だ!! ぅおりゃーー!!」


 アカネちゃんの掛け声と共に、早着替えスキルでプロレスコスチュームと入場時に羽織るマントに、みんな一瞬で着替えました。

 千葉さんは白に金の刺繍が入ったゴージャスでエレガントなマント、ラトさんは金色に黒の虎模様のマント、アカネちゃんは赤い炎のファイヤーパターンの袖無しガウンタイプで、みんなそれぞれコスチュームと相まってカッコイイのです!……わたしはと言うと、小学生がプールの授業で使う、ねこマークのお着替えタオルがそのまま入場マントなので、なんかちょっと恥ずかしいかも……て、今はそんな事を言ってる場合じゃありません!


「お嬢ちゃんたち……あんたらは一体……」

 

 ……混乱してる最中とはいえ、一瞬で変身した私たちを見た村長さんたちは、唖然と動きを止めたのでした。


「ラーセル村長、私たちは冒険者ではありませんが、闘うことを生業としています。警吏殿がどう言おうと私たちは子供たちの救出に向かいます」

「君たちを拘束してしまったというのに、すまない……ありがとう……よろしくお願いする……」


 村長さんが胸に手を当てて頭を下げると、お母さんと思われる村の女の人たちも次々と祈るように頭を下げてくださいました。

 

「どうか……どうか子供たちをお願いします!」

「必ず連れて帰ってきます。みんな、行こう!」

「はい!」


 わたしたちは警吏さんたちが向かった東森目指してダッシュしました。……って、ぇええ〜!? 何これ、う、浮いてますよ? 副社長さん!??

 わたしの体が地面から2メートルくらい浮き上がり、飛んで移動しています! す、凄すぎなのです!!


「ちょ、おいのの! 何でオマエだけ完全に飛んでるんだ!? どーなってんだフク!?」


 振り返ると、アカネちゃんたちは、オリンピックの三段跳び選手みたく、一歩がもの凄く大きくて、跳ねながら走っている感じです。


「う〜む、ノノは四人の中で身体能力が一番低いからな、アレにだけ念入りに付与を盛りすぎたみたいだな……まさか飛べちまうとは」

「ののだけズリぃーぞぉ!? アタシも飛びてぇ!」

「飛べはしないが、この跳躍力は有難いな、疲れもなく凄いスピードで移動できる」

「これやったら、忍者ばりに木の上も飛び移っていけそうやねぇ」

「忍者!? ラトそれだ!――とぉっ!」


 アカネちゃんは跳び上がると木の幹を蹴りあげ、太い木の枝の上を次々と跳び移って行きました。……ほわぁ、ほんとに忍者みたい……


「うおぉぉ! これガキの頃からやってみたかったんだよな! スッゲーーーー!! ニンニンニーーン!」

「アカネ、どこへ行く、そっちじゃない!……まったく、遊びじゃ無いんだぞ?」

「さーッセン! ここ葉っぱだらけで視界が悪いもんで、方向が分かんなくなったっス!」


 視界……あ、そうか。 わたしは飛行高度を上げて、木々の間に警吏さんたちが見えないか探しました。


「のの! 見えるか!?」

「はい! 警吏さんたちは……このまま真っ直ぐ行って、少し先の別れ道を右です!……あれ、オークなのかな? 何か追いかけてますけど、ここからはまだ遠くてよく分からないです!」

「了解だ! よし、みんな、全速で追うぞ!」 


 地上を疾る千葉さんが、空を飛んでるわたしよりも速いスピードで加速して行き、ラトさんとアカネちゃんもそれに続いて行きます。


「お〜い、ノノ〜〜! 俺じゃ追いつけねぇ、悪いが運んでくれ」


 副社長さんが一人遅れ始めて、上空のわたしに助けを求めました。わたしは副社長さんを抱えて猛然と加速しますが、それでも地上を行く千葉さんたちに離されないようにするのがやっとです。

 やがて木立を抜けて視界が広がると、既に警吏さんたちとオークとの戦いが始まっているのが見えました。


「子どもたちを返せぇ!!」

「フガァアーーー!!! ブフゥ! ブフゥ!」

「父さぁーーん!」

「おじさーーん! 怖いよぉ!」

「待っていろデニウス! アヴィ! ラオール! ユーリ! すぐ助けるからなぁ!!」

「カフランさん! オークの増援が来ます!」

「まずいぞダリウス、これ以上は相手にできん!」

「くそっ、何としても子どもたちを取り戻すんだ!!」

「しかし我々三人だけじゃ……」

「危ないカフランさん!」


 

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