第10話 初めての村(1)
◇第十話 初めての村(1)
森の中の街道らしき道を行きます。人どころか、魔物の姿も全くありません。この先に本当に人が暮らしてるのか疑問でしたが、二時間ほど馬車を走らせると、木の塀に囲まれた村らしきものが見えてきました。
村の入り口に強そうな門番さんが立っています。わたしたちが近づくと、御者をしているラトさんに訝しげに声をかけてきました。
「旅の者か? 身分証はあるかい?」
「あ〜、そういやあらへんなぁ……ファンタジーのお約束やったね」
「?……無いのなら入村税として一人につき銀貨二枚をいただく決まりだ」
身分証? 入村税!? わたしたちは両方とも持ってなくて戸惑いました。
「やっぱり身分証とかあるのか。免許証という訳にはいかないだろうな」
「フク、そーゆーことは言っといてくれよ、つーか用意しといてくれよ」
「あー、街や村との交流がなくて、すっかり忘れてたわ、すまんすまん」
副社長さんを見て門番さんがちょっと驚いています。
「精霊か? ほぉー珍しいな。交流がないって、余程の山奥から出てきたみたいだな。精霊は福を呼ぶとも言われてるし、そいつの分は只で構わん」
「うむ、苦しゅうないぞ」
「何で偉そーにしてんだよ」
「なぁ副社長はん、お金どないするん?」
「ああ、それならチバ、そこの金庫を見てみろ」
「金庫? 当日券と物販の売上金は入ってるが、日本円じゃ無理なんじゃないか?」
副社長さんに言われて千葉さんが手提げ金庫を開けると、そこにはなんと、見たことないお金……金貨や銀貨がたくさん入っていました。
「何だ、これは……? 副社長、売上金はどうなったんだ?」
「女神様の計らいでな、売上金を全額この世界の通貨に換金しといた。無いと困るだろうからな」
「あぁ、うん、なるほど、助かるよ。……仕方ない、この売上金を当面みんなの生活費として使わせて貰おう。管理はラトに任せてもいいか?」
「会計とかはウチやりますけど、お金は千葉さんが持っててください。その方がみんなが安心します〜」
「そうなのか? では……社長、申し訳ありませんがお借りします」
千葉さんは社長さんに謝ってから、金庫から取り出した銀貨を人数分、全部で八枚取り出し、門番さんに支払いました。
「念の為に積荷を見せてもらう。一応決まりなんでね」
門番さんが荷台の中を覗き込みました。
「見たことない道具だな。何に使うんだ? 大道芸か?」
「まぁそんなとこですわ〜」
「お前たち四人と精霊だけでここまで来たのか? 道中、魔物に出くわさなかったのか?」
「あー、いたよ、ゴブリンとかイノシシとか。ゴブリンはぶっ飛ばして、イノシシは食った」
「……っほ! 旅芸人がか? たくましいこったね、冒険者で食っていけるんじゃないか?」
「ああ、アタシら強ぇからさ!」
アカネちゃんが力こぶを見せて笑うと、はじめは訝しがってた門番のおじさんも笑いながら門を通してくれました。
「ようこそ、ダルカ村へ。何も無い所だが、歓迎するよ」
村に入ると、通りとかはなくて井戸のような所を中心にぐるっと馬車が回れる広さがあり、その広場が村の中心ぽくて、周りをお店らしい家や建物がポツポツと取り囲んでいる感じです。広場から先の方を見ると、まだ奥の方に家や畑があるようです。わたしは何か外国の古い田舎町に来たみたいに感じて、ちょっとワクワクしました。
「あの看板、何やろ?」
「食事とお酒を出すパブっぽいな……宿屋も兼ねているのか?」
「おみやげ屋とかねーのかな? 何か記念に買いてー!」
「お小遣いはあるけど、お札とか無理だよね? ……副社長さん、どこかで換金てできないのかな?」
「あぁ、それならオマエら個人の財布の中も既に換金してある。買い物する前に確認しとけ」
「マジ!? どれどれアタシの財布〜……うぉっ!? 銀貨が三枚入ってるぜ!」
「あ、ほんとだ……銀貨が八枚と銅貨? 四枚……あとこれ……金貨?」
「金貨!? どれ見してみー?」
アカネちゃんとわたしは財布の中身を確認し、思わず見惚れていました。……金貨……キレイ……。
「フクー! 何でののの財布には金貨が入ってて、アタシのには無いんだー?」
「さっき言っただろ? 財布の中身を換金したんだ。入ってた額そのまんまだ」
えっと……じゃあこの金貨は一万円札の代わり……?
「ウチは金貨二枚と銀貨六枚やな。日本円で二万六千円持ってたから、この金貨が一万円で銀貨が千円てことやなぁ」
「私は四万八千円分の金貨と銀貨になっているな。副社長、手提げ金庫の金貨にもう一回り大きいのがあるが、どういうレートなんだ?」
「大きい方の金貨はオマエらの元居た世界で四分の一オンス金貨が近い、一枚で大体十万円くらいだな。小さい金貨はラトが言うように一万円てところだ」
「フクー、アタシも金貨ほしぃー!」
「アホいうな。自分の小遣い分だけだ」
「え〜、イジワルいうなよフクー。 ……しゃーねー、のの、その金貨……」
「え? だ、ダメだよ? あげないからね!?」
「……ジョーダンだよ、ムキになんなって」
「アカネ、私たちはこれから興行をするんだ。最初は上手くいくかわからないが、稼ぎが出るようになれば、必要経費を抜いた後、給料を出すつもりだ」
「マジっスか!? じゃあ金貨もらえるんスね! やったーー!!」
「良かったねアカネちゃん!」
「ああ! 金貨マジかっけーもんな!」
かっけー……のかは良くわかんないけど、キレイなのは確かなのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます