第7話 初めての野営(1)

 

 ◇第七話 初めての野営(1)


 




「ここらでいいか、ラト、あの木の近くに停めてくれ」


 近くに綺麗な小川が流れる草地に差し掛かった時、副社長さんが、まだ陽が高いうちにと野営地を決めました。


「ハーネスの外し方はオマエの御者スキルで分かるだろ? 逃げたりしないから自由にしてやってくれ」

「あ〜、うん、確かにできるわ〜。前から知ってたような感じがするんやね、不思議やわ〜」


 ラトさんは精霊のお馬さんと馬車を繋ぐくびきを外してあげると、お馬さんは川へと向かい、お水を美味しそうに飲み始めました。わたしは近づいて体を撫でます。


「重いのに運んでくれてありがとう、今日はここでキャンプするみたいだから、ゆっくり休んでね」


 そう声をかけると、お馬さんはわたしに頭をよせ、頷きながら「ブルル……」と返事をくれました。……かわいい♪

 そうだ、この子の名前は、白くて綺麗だから、「みるく」ちゃんなんてどうだろう……うん、みんなに相談してみようと思うのです。


「おーいのの! 確認する事項があるから集合してくれ!」

「あ、はーい!」


 千葉さんがキャンプ設営をするために必要なものを確認していきます。


「車中泊用の寝袋はちゃんと残ってるから馬車の中で寝る分には問題ないか」

「おう、椅子を組み替えれば二段ベッドになるからな。でもちょっと狭いか?」

「せやねん、アカネはホンマ寝相悪いしなぁ」

「いやいやいや、寝相はラトの方が悪い! こいつ寝ぼけて関節技かけてきたりするし、近いと危ないんだよ! なぁのの?」

「……う、はい、いえ……あの……どっちも……です」

「…………」

「…………」

「…………よし、それじゃあ全員、外で寝るか。幸い天気は良さそうだしな」

「雨の心配はないな。後は魔物の襲撃がないよう、この辺一帯を浄化と退魔の結界で包めば問題ない」

「結界! どうやんだフク?」

「こいつを使う」


 副社長さんが何処からともなく取り出したのは、小さな香炉?のような物でした。中に水晶のようなものが入ってて、綺麗です。

 

「これに魔力を通して馬車の中に置いとけば、馬車を中心に半径15メートル程の浄化と退魔の結界が張られる。効果は一晩てとこだ」

「ほーほー」

「ほなこの中におったら、ほぼ安全ちゅうわけやね」

「だいたい、道を挟んで向こうの木から、こっちの川の半ばくらいまでの範囲だな。出入りは別に自由だが、安全のためには、夜はなるべくこの中に居るべきだな」

「あ……あの……副社長さん……」

「ん? どうしたのの?」

「あの……お手洗い……行きたいんですけど……」

「おう? うん、どこでもその辺でしていいぞ」

「おい、副社長……」

「フク……オマエ」

「あかんで副社長はん……」

「……ん?」


 女性陣みんなに責められて、何となくマズイことを言ったと理解して、反省した副社長さんです。千葉さんの指示で、結界範囲内の茂みと木の裏側に、枝に布を掛けて仕切りを作り、簡易トイレを設置することになりました。後は清潔魔法で綺麗になるので、これでもう安心です。




 


「晩御飯、出ろ〜!……………………アカネちゃん、ダメみたい」

「何で出ないんだよのの〜」

「う〜ん、やっぱり食品そのものは無理っぽいよ」

「フライパンと油と塩胡椒だけじゃ飯食えないじゃんか〜〜、なんとかしろよ調理担当〜」

「え〜、そう言われても……」

「千葉さん、夕飯、どないします?」

「そうだな、自分達の能力も含めて、現状を確認してから対策を考えよう」

 

 千葉さんの指示で、まず荷馬車内に残っている食糧、私物を問わず全ての食べ物を確認することにしました。


「エナジーゼリーが4つと、千葉さんのカロリーバーが一箱、私とラトさんの持ってたお菓子が少し残ってますけど、これだけです」

「アカネ……今隠したものを出せ」

「え? 何スか千葉さん、あたしは何も隠してないっスよ!」

「……ラト」

「りょ」

「な、ちょっ、放せラト! 裏切り者〜〜! ああ、やめて千葉さん!それだけはぁぁ」

 

 ラトさんにフルネルソンを極められて身動きできないアカネちゃんの懐から、千葉さんは板チョコを取り出しました。


「全部出せと言ったろ? 往生際の悪い奴め。これは万が一の時の為、みんなの非常食として取っておく。いいな」

「ああああたしのチョコ〜〜 あだっ!」


 千葉さんに頭をチョップされながらも、アカネちゃんはまだ諦めきれないようでした。


「こうなったらファンタジーのお約束、魔物を倒して食うしかねぇー!」

「待て待てアカネ、まずは手堅く木の実や山菜などを探すほうがいいと思うぞ」

「そ、そうだよアカネちゃん、強い魔物とかいたら危ないよ!」

「せやね〜、そもそも食べれるかどうかも分からへんしなぁ」

「私のサバイバルスキルで可食かどうか確認できるから、そこは問題ないのだが……」

「え!? マジで? 千葉さんスゲー!」

「アカネも自分のスキルをちゃんと確認しておけ」

「へ〜い、さっき確認しましたー」

「まぁ食える魔物もいるが、そう簡単に遭遇するとは限らん。まずはチバの言う通り、山菜や茸などから探すのが無難だな」

 

 わたしたちは副社長さんと一緒に結界の外に食材を求めて出かけました。


「オレが周囲を警戒しとくが、結界の外だからオマエらも気を抜くなよ」

「了解だ。アカネはラトと、ののは私とタッグを組んで、お互い相手から離れ過ぎないようにして探そう」





「千葉さん、うまそーなキノコあったー!」

「いやアカネ、それ判定するまでもなく見るからにヤバいだろ……」

「ちぇ〜、ダメっスか〜」

「千葉さん、この木の実はどうですか?」

 

 木の周りに生えたキノコや、落ちてる木の実を拾って千葉さんに可食判定してもらいます。


「うん、これは大丈夫だ。見つけたら積極的に採取しよう」

「千葉さんのサバイバルスキルって、すごく合ってると思うんですけど、何かそういう経験あるんですか?」

「あぁ、アメリカにいた頃、ボーイ&ガールスカウトというのに毎年参加しててな、そこで簡単なサバイバル術を教わったんだ」

「すごいです……わたしなんてキャンプすらしたことなくて……」

「ふふっ、私の父はキャンプ好きで、子供の頃よく連れてって貰ったよ。なんでも一人でできるように、自立した子に育てようと積極的ではあったな」


 千葉さんのリーダーシップは、CVWでも発揮してましたけど、本当に頼りになって安心できちゃうのです……すごいなぁ。わたしは調理は出来るけど、食材調達はみんなに頼らないといけないし、魔物を相手にするのも頼りないし……みんなキチンと役割をこなしてるのに……せめて何か……


「おい、チバ。アカネたちがいる方に魔物の気配だ」

「!?」

「いくぞ、のの!」

「は、はい!」


 少し離れたていたアカネちゃんとラトさんの所に駆けつけました。


「アカネ、ラト、魔物が来るぞ、気をつけろ!!」

「うおラッキー! 魔物狩り決定ーっスね!」


 奥の茂みを伺うと、何かが猛然とこっちに向かって走って来ています。

 

「オマエら、ジャージを脱いで戦闘服コスチュームになるんだ! 早着替えスキルを使え!」

「わかりました!」

「りょ!」

「こうか!?」


 ……バッ!!

 

 アカネちゃんがジャージの胸元を掴んで脱ぎ捨てると、マントを脱ぐように一瞬でジャージの脱衣が完了しました。


「おお!? フォームチェンジだ!!」


 わたしたちも一瞬で、下に着ていたコスチュームにチェンジしました。……凄い、手品師みたい!

 

「あれはラッシュボアだな、突進力が強い魔物だ、下がって距離を取れ」

「……………………わたしが……わたしが前に出ます!」

「な!? のの、危ないから下がれ!」

「いえ、これはわたしの役目だと思うんです! 任せてください!」


 ドドドドドドドドド!!!

 バサァーーー!


 地響きと共に茂みから飛び出してきたのは、大きい猪みたいな魔物でした!……自分で任せろと言ったけど……こ、ごわいでふぅ!


「ののーー!!」


 ドォオオオオオオオオオン!!

 ズザザザザザ……


 わたしはクロスアームで体当たりを堪えましたが、魔物の突進力が凄まじく、踏ん張った両足が地面を掘りながら、後ろへ5、6メートルも押しやられました。


「皆さん!! お願いします!」

「うぉおおりゃぁああ!! AKANE連撃掌底ーー!!」

「のの堪えろ! ハァア!! ヤァー!!」 


 足の止まった魔物の横から顎めがけてアカネさんが掌底を連打し、千葉さんが反対側から首を抱えて膝蹴りをお見舞いしますが、厚い毛皮で打撃が効いていないのか、突進力は弱まる気配がありません。ジリジリと押し込まれます。


「千葉さん、ウチがやってみるわぁ、三人ともコイツが暴れんよう抑えててや〜」


 アカネさんと千葉さんが魔物を抑える形になると、ラトさんは首筋に跨り、両脚で頸動脈を絞めるヘッドシザースを仕掛けます。暫くは抵抗していた魔物ですが、数秒後、前のめりに崩れ、尚もラトさんが締め続けると、ピクピクと痙攣して、泡を吹いて沈黙しました。


「さすがだな、ラト」

「締め技ツエェ〜な!」

「す……すごいです、ラトさん……」

「ちゃうで〜、みんなが抑えててくれたお陰やん。ウチ一人じゃ絶対無理やわぁ」

「ああ、特にのの、頑張ったな、ほら、立てるか?」


 倒れた魔物と一緒に横倒れになっていたわたしを、千葉さんが手を差し伸べて立たせてくれました。……うん、今回は自分の役割を見つけて頑張れました。嬉しいのです!

 

「ったく、さっきホブゴブリン倒したからって、急に強気になりやがって、コンニャロ! にひひ」

「怪我が無くて良かった。しかし、ののばかりが前に出るのは危険ではないか……」

「あの……聞いてください千葉さん。ホブゴブリンの時に剣が折れたのもそうなんですけど、わたし、みんなより防御値が高いから、それで……タンカーできるんじゃないかって……」

「タンカー? とは? もちろん輸送船のことでは無いよな」

「あ、これもファンタジー用語で、盾役ってヤツっス。普通は大きな盾とか装備して、敵の攻撃を止める役っスね」

「あ〜、確かに、ののはウチらより防御値補正、高いですもん。せやから無理したんやねぇ〜」

「副社長、ののはその、タンカーというのに適役なのか?」

「そうだな、ののは前から、根性で耐え忍ぶタイプだったからな、タンカーとしての能力が伸びたんだろ。オレは任せて大丈夫だと思うぞ。もちろん、オマエらのサポート在りきだけどな」

 

 副社長さんのお墨付き?で、わたし、タンカーのお役目をいただきました!……これで、みんなの役に立てます!


「コイツは毛皮がゴツいからな、素手で倒すのは困難な相手だが、オマエらの連携が功を奏したんだ。よくやったな」

「まぁな、へへへん」


 副社長さんの言葉に、アカネちゃんが誇らしそうに答えます。でも今回は、わたしもちょっと誇らしいのです。えへへ

 


 


「ところで千葉さん、こいつ食えそう?」

「ああ、大丈夫そうだ」 

「やったー! 今日は猪鍋だ! 頼むぞのの!」

「うん……てゆーか、丸のまま調理したことないんだけど、大丈夫かな……?」

「まぁ解体はアカネのスキルが使えるし、そこは何とかなるだろ」

「………………っえ? ぇええ!? 解体ってそれ?? ユンボは!? 鉄球クレーンはぁあ!!?」

「てっきゅーくれーん? 何だそりゃ。そんな大それたもんは出んぞ? せいぜい獲物をバラす程度の解体能力だ」

「あたしのロマン返せやフク〜〜!!」


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