第6話 ゴブリンと初遭遇


 

◇第六話 ゴブリンと初遭遇






「それじゃオマエら、コスチュームのチカラに慣れるためにも、まずはトレーニングだ! チバ、後は任せた」

「よし、全員腕立てからだ! 始め!」


 千葉さんの号令の下、腕立て、腹筋、スクワットなど、異世界でもいつものようなトレーニングが始まりました。


「何かさ、いつもよりスイスイできてね? 普通、話しながらなんて無理だし」

「このコスチュームの加護のおかげですね!」

「せやな、これならいつものセット、楽勝やなぁ〜」

「よし、それならいつもの倍できるな」

「うぇ……倍、スか……」

「何だアカネ? 倍じゃ足りないか? じゃあ三倍だ」

「じゃなくて!なんつーか、異世界に来ていきなりトレーニングより、どっちかっつーと、いきなり魔物との実戦の方がいいな〜って」

「えぇ……アカネちゃん、魔物と急に戦うなんて怖すぎだよぉ」

「せやな〜、相手がどれくらい強いか分からんし、魔物との戦いはレフェリーストップもないしなぁ」

「そ、そうですね、怪我だけじゃすまない事も……」


 わたしは背筋が寒くなりました。

 

「今までの話からすると、十分あり得る事だ。私たちは、そうならない為にもしっかり練習するしかない」

「は、はひ……」

「こうなりゃスゲー強くなって、絶対生き延びてやるぞ! なぁのの!」

「は、はい! 強くなります!」


 わたしは弱気を吹き飛ばすように改めて気合を入れ直し、猛然とトレーニングを続けました。

 



「スポドリです。まだちゃんと残ってました」


 先輩たちにスポーツドリンクを渡して、みんなで休憩している時でした。

 お馬さんがそわそわと落ち着かない様子になりました。それを見た副社長さんがアカネちゃんに声をかけます。


「アカネ、どうやらオマエの願いが早速叶いそうだぞ」

 

 不審に思ったわたしたちが馬車の向こうの茂みに目を凝らしてみると、何かの気配があるのに気がつきました。


「みんな、静かに。……何かいる」


 千葉さんの言葉に、緊張が走るわたしたち。……こ、怖いです……


「ゴブリンだ。複数いるな。準備はいいかオマエら?」


 みんな副社長さんを見て頷きました……わたしは正直怖くて頷けないです……

 アカネちゃんとラトさんが馬車の前方から回り込みます。ラトさんはお馬さんを落ち着かせるように、首筋をポンポンと撫でました。その間、千葉さんはわたしに、この場で待つよう言ってくれて、馬車の後ろ側から回り込んでいきます。

 アカネちゃんたちと頷きあうと、こぶし大の石を拾った千葉さんが、奥の茂みに投げ込みました。

 

 ガサガサガサァーー!

「ギギィーーーッ!!」


 茂みから飛び出してきたのは、三匹の薄緑色の小柄な鬼?みたいな……うん、漫画で見たゴブリンのイメージまんまです! 意外と小さい……でも、手には棍棒を持っています!!

 ラトさんが腕を広げてゴブリンを牽制して動きを止めると、その横から別のゴブリンがアカネちゃんに飛びかかってきました。そこへカウンターのAKANEラリアットが炸裂です!びっくりして動きの止まったもう一匹を、千葉さんがエレガンスソバットで吹っ飛ばすと、ラトさんの前のゴブリンは慌てて背を向けて茂みの方へ逃げようとしたところを、再びアカネちゃんが後ろからAKANEキックで吹き飛ばしました。


 ――まさに、あっという間でした――


 

「ゴブリンで間違いないな。こっちの気配に引き寄せられて来たんだろ。オマエらのKO勝ちってとこだな」

「なんだ、やっぱゴブリンは雑魚キャラだな、歯応えがねぇ」

「アカネよ、油断するな、奴らは集団で女性を攫う事もあるからな。 まぁオマエらのチカラなら心配はないか」

「ん? ののがいないぞ!?」

「あれ? ほんまや、どこいったん?」

 

「うぇえ? あれれ? た、助けてください千葉さぁ〜ん!」


 みんなの戦いに見惚れているわたしを、いきなり何者かが仰向けに担ぎ、運び始めました。気配からすると5〜6匹のゴブリンに担がれている様です! このままだと、みんなのいる方向とは別の茂みへと連れていかれる! ……た、助けてくだひゃい……


「ののを助けるぞ!!」

「おおー! 待てやおりゃぁーー!!」

「ののは返してもらうで〜」


 ドカッ! ボコッ! ドスッ!


 千葉さんたちの声が聞こえたと思ったら、あっという間にわたしは救出されていました。

 殴りかかってきた棍棒を素手で掴み、ゴブリンの体を蹴り飛ばして武器を取り上げると、アカネちゃんとラトさんが不敵な笑みを浮かべました。


「てめーら、よくもうちの大事な妹分を可愛がってくれたなぁ」 

「凶器攻撃には凶器攻撃で返さなあかんなぁ」


 ドガーン! バキィィ!! バァーーン!!


「のの! 無事でよかった……怪我は?」

 

 千葉さんに抱き起こされて見上げる中、ホームランでも打つように、全てのゴブリンは棍棒で吹き飛ばされていきました。

 

「ひゃい、大丈夫でひゅ……ありがとうございまふ千葉ひゃん……アカネちゃん……ラトひゃん……」

「クソ……悪りぃのの、油断した」  

  

 アカネちゃんの言葉にふるふると頭を振るのが精一杯だったわたしを、千葉さんが抱きしめ、ラトさんが頭を撫でて慰めてくれます。


「まだ安心でけへんみたいやわ。隠れてんのがおるなぁ」


 ラトさんが茂みを見て呟きます。わたしは震えが止まらず、掴まってる千葉さんの腕をギュッと握りました。


「立て、のの!」


 アカネちゃんが私の両肩を掴み、力強く言いました。


「この先、この世界で生き抜くために、お前は今、ここで闘わなきゃいけない! 奴らはこの世界じゃ雑魚だ! そんなの相手にビビってたら、この先ずっと逃げることになる! お前はガキの頃、弱かったけど絶対泣かなかっただろ! 今のあたしたちには戦うチカラがある! だから立て! 立ってブチのめせ!!」

「……のの、アカネの言う通りだ。お前にはガッツがある。お前ならやれる! ほら、立てるか?」

「心配せんでええで、のの。ウチらが付いとるんやから」

「ノノ、いざとなったら、オレがヒールかけてやるから、何も心配するな。ドーンと行ってこい!」


 アカネちゃん、千葉さん、ラトさん、副社長さんの言葉に励まされたわたしは、決意して立ち上がりました。


「はい、わたし……やります!」


 ガサガサ……ザザッ!

 

 わたしが前に出ると、武器を大きく振りかぶったゴブリンが茂みから飛び出してきました。


「のの!!!」


 ガキィーーーン!!


 わたしは咄嗟にクロスした腕……正確にはリストバンドでゴブリンの振り下ろし攻撃を受けると、相手の武器は折れて弾け飛んで行きました。

 唖然とするゴブリンに、そのまま肩口から渾身の力を込めたスピアータックルです! ゴブリンは茂みの奥まで吹き飛んで、大きな木の幹に当たってノックアウトしました。


「ふー、ふー……や、やったよアカネちゃん! やりました千葉さん! ラトさん!」


 わたしは嬉しさのあまりガッツポーズを取りました。


「うぉおおお! やったなのの!」

「うん、見事だ、のの! 凄いぞ!」

「たいしたもんやわ〜、まさか素手で剣をへし折るとは思わへんかったわ〜」


 ……はい? ラトさん、今なんて?


「今の奴、一回りデカくて鎧着てたもんな! いやぁ〜見てるこっちがビビったぜ!」


 ……アカネちゃん? ナニヲイッテイルノデスカ??


「ののはやっぱり光るものを持ってるな。これからも頼むぞ!」


 ……ハ、ハイ、コレカラモガンバリマス千葉サン……デモマッテ、ケン? ヨロイ??


「うむ、あれはホブゴブリンだな。体格も一回り大きく、剣と鎧で武装してる。他のゴブリンよりパワーもダンチだ。よくビビらずに剣を捌いたな、ノノ。大したもんだ」

「……ってのの? あれ!? なんでまた腰抜かしてるんだ?」


 わたしはヘナヘナと崩れ落ちそうになって、千葉さんが慌てて駆け寄って支えてくれたのでした。


 ……剣とか、鎧とか、ほぶごぶりんとか聞いてないですのだ……


「まあこうやって実戦を重ねていけば、オマエらの成長も早いだろう、肩慣らしにもなったしな。チバ、今日は切り上げて、早めに野営地を探そう」

「そうだな、ほらのの、立てるか?」

「すびばせん、ありがとう、ございまふ……」

「頼りになるんだかならないんだか、わかんねぇーなぁ、にひひひひ」


 ――せっかく活躍できたのに、何だか残念な感じになっちゃいました……トホホ。


 

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