第4話 異世界へようこそ(2)


 


◇第四話 異世界ヴェルスタニアへようこそ(2)


 



 

「車の中の私物やらリング設備やらは、そのまま馬車の荷台に積んである。魔物といつ遭遇するか分からないから、フィールドではコスチュームを装備して、いつでも戦えるようにしておいた方がいいな」

「あたしは早く戦ってみたくて今から楽しみだぜぃ」

「慌てなくても何れ戦う事になる。……でもその前に、まずは基本の生活魔法を使えるようにしないとな」


 ……そうなのです、魔王はいなくても、魔物が襲ってくれば、戦わなくちゃいけない……単にプロレスを広めるってだけじゃ済まなそうなのです。


 副社長さんの簡単な魔法講義の後、全員で練習をすることになりました。

 大まかに言うと火をつける魔法、水を出す魔法、ゆるく風を起こす魔法、清潔魔法など、日々の暮らしで役立つものです。

 

「この世界の人間は、誰でも5歳になれば、教会で祝福をもらって基本的な生活魔法を使えるようになる。オマエらも女神様のギフトで、同じ魔法を使えるようになっているから、コツさえ掴めば簡単だ」


 副社長さんが、魔法を発動する手順を一人一人指導してくれます。


「見よ、あたしの心のバーニングファイヤー! 着火!!……できたー!」

「おぅ!その調子だアカネ! 次々いけ」

 

 一番最初に魔法を習得したのはアカネちゃん。というか謎の呪文?で一発で着火しました。すごい……。次にラトさん。一回は失敗しましたが、二度目で成功です。わたしも何度かやって、やっとチョコっとした火が指先に灯りました。ふぉおおぉ……まふぉーだぁ……しゅごいぃ……かんどーしました!!

 

 千葉さんは、アカネちゃんやラトさんが次の水魔法を成功しても、まだ着火できません。


「チバ、オマエは頭で考えすぎなんだ。理解する必要はない。プロレスと同じで、丹田ハラに力を込めて溜めたものを外へ出す。考えるな、感じろ」


「フゥ〜〜………… 」


千葉さんは普段の練習のように集中して、長い呼気の後、言葉を口にしました。


「着火」


 ポッっと指先に、しっかりと赤い火が灯りました。


「やった! やったぞ!」

「わぁ〜! 千葉さん! 綺麗な炎です!」

「ありがとう、のの! 見てたか副社長!?」


 普段クールな分、千葉さんの嬉しそうな顔が、とっても可愛いのです♪……大先輩に対して失礼かもだけど……えへへ。


「ま、オレの教え方がいいからな。コツさえ掴めばもう心配ないだろ」


 副社長さんの言葉通り、千葉さんは、最初の一つを成功させた後は、次々と一回で成功させていき、清潔魔法で躓いていたアカネちゃんを抜いて、全部の魔法を誰よりも早く習得しました。さすがです!……わたしも、みんなより遅れましたが、どうにかこうにか全部習得できました。



 

「よーし、お次は生活に関するスキルだ。全員同じ能力が使える共通のものと、オマエら一人一人の個性に合わせた固有のものがある」

「ユニークスキルってやつやねぇ」

「うおぉ!ユニークスキル! かっけェーーー!」

「そうだろそうだろ〜、じゃ説明するぞ〜」

 

 わたしたちが普段着として着ているCVWのTシャツやジャージ類に特殊魔法が付与されていて、能力発動にはこれらの着用が必須だそうです。逆に、これを着ていないと固有スキルは使えないんだとか。


「よしオマエら、手を前にかざしてステータスオープンと言ってみてくれ」

「ステータスオープン! うお!? ステータスウィンドウだ! スンゲェーーー!!」


 アカネちゃんの目の前に、半透明のモニターのような画面が浮かび上がりました。……すごい、ホントにゲームみたい……。

 わたしたちもアカネちゃんに倣って、ステータス画面を表示させると、名前と年齢と種族、体力値、能力値、魔力値とかの数字がずらりと並んでました。


「オマエらの能力値は、今回ざっと目を通すだけでいい。その画面の下の方にスキルの項目があるはずだ」

「おー、スキルあったけど、何だこの[解体]って……土建屋か??」

「[御者]て、ウチ、ドライバー決定やん。ところでこの[クラフト]の横の[ex]てなんや?」

「あ、わたしも[ex]ってゆーのがあります!」

「あたしのも付いてるじゃん!」

「私もあるな」

「ラトは以前から部屋の壁の穴とかベッドが壊れたりしたら自分で修理とかしてたろ? それ系の加工技術全般の能力がクラフトで、実際加工するには、トンカチとか釘とかの道具がいるよな? exはその必要な道具を取り出せる特別空間セットの事だな。ギフトのアイテムボックスと繋がっているんだ」

「私は[サバイバル ex]だから、地図とか方位磁石が出るということか」

「じゃあ、わたしの[調理 ex]は、お鍋とか、調味料?」

「ギフトの[早着替えex]もコスチュームの出し入れができるってことやね」

「そんな感じだ。アイテムボックスには後から別の物を入れることもできるから、まぁその辺は実際使う時に試してみるといい。じゃあこっからが本番だ、コスチュームを装備しに馬車に行くぞー」

「…………あたしの[解体 ex]は、ユンボとか鉄球クレーンとかが出るのか?? すげーじゃんあたし」


 


 

 わたしたちの乗っていた機材用ワゴン車は、今やお馬さんが繋がれた幌馬車になってしまいました。不思議です。

 荷台部分は木で出来てて、大きな幌がかかっています。さっき降りた時に気がついたのですが、ワゴン車の時と同様に、「C V W」の文字と「副社長」さんモチーフの猫マークが、幌の側面に大きくしっかりと入ってました。


「この馬は普通の馬じゃなく、女神様がくださった中位精霊で、一頭でも馬力はバッチリだ。言葉は喋れないが、オレらの言ってることは理解できるぞ」

「うわぁ〜すごーい……白くて綺麗なお馬さん、仲良くしてね♪」

「ぶるるる……」


 わたしが挨拶をすると、頷くように返してくれました。……はぅぅ、嬉しひです……

 

「で、この馬車は、女神様の加護で祝福されてるから、この中に居れば小さい魔物は入って来れないから安心しろ」

「ハイハイ副社長センセイ質問〜! デカイの来たらどうなんの?」

「まぁ大きな奴は、結界の魔道具で周りを囲むとかすれば、ある程度は凌げる。ある程度ってのは知能の低い奴らだな」

「では、知能の高い魔物もいるということか」

「察しがいいなチバ、魔王はいないが、例えば上位竜とか、魔族とかは居るな。知能が高くて、人語を解せる。そいつらには結界があっても、確実に防げるとは言えない」

「竜……とか来ても、わたしたち大丈夫なんですよね??」 

「大丈夫とは言い切れないが、まぁいきなり竜や魔族に出会うことは無いと思うから、そこまで心配するな」

「ふ、副社長さぁ〜〜ん!?」

「だから、そのためのコスチュームと訓練だ。もしそんなのに会っても、負けないように修行だ修行!」


 ……た、大変な事になっちゃいました……


 

「さっきも言ったように、私物と設営道具は荷台に積んだままだ。長椅子は前のワゴンと同じくフラットに倒せるから、そのまま控室にもなる優れもんだぞ。天井も高いし立って動ける。おい、どうした? 早く着替えろ……って、何だよその目は」


「着替えるのに、何でフクは出て行かねぇんだよ」

「なんや? ウチらの裸見たいんか?」

「副社長もおとこだってことだな」

「ば、そんなつもりねーよ! つーか今まで俺の前でヘーキで着替えてたろう、今さらだよなぁ? のの、何か言ってやってくれよ!」

「副社長さん……見損ないました」

「……………………オイ」


 

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