オトギリソウ(8)


**************


「……ふぅ」

 一人になった店内で彼は息を吐いた。心の中でギアを入れ替える。別にそうする必要はないのだが彼にとっては気分の問題だ。


「さてと……片づけるかね」


 彼は一人つぶやきながらコーヒーをお盆に載せる。


「にしても……うまくいってよかった。よくやったよな、俺も」


 彼は皮肉気に顔をゆがませて小さく笑った。










 …別に陰謀論とかではない。傍から見たら何か企んでいそうな場面だが、そんなことはなく、ただ単にこんな自分が香織の自殺を止められたようでよかった、と自分自身をほめているだけだ。


 別に彼だって自殺を推奨しているわけではない。自分の命は自分の扱いたいように扱うべきだとは思っているが、だからと言って自殺すればいい、などとは思っていない。


 また彼は非常に口下手な一面があった。さらに表情があまり顔に出ないことも相まってコミュニケーションがとりづらい、不愛想に見えるということは彼にとってよくあることであり、苦い経験もいくつもある。


 そんな彼が人を説得するのは非常に疲れるのだ。エネルギーがいるのだ。


「俺もあんな風になれればよかったのかねぇ…それともまた別の…」


 言いかけて頭を振る。いまさら考えても仕方ないことだ、今はとりあえずコーヒーを片付けよう。そう思い、彼はお盆をキッチンに運んで行った。



-to be continued

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