オトギリソウ(8)
**************
「……ふぅ」
一人になった店内で彼は息を吐いた。心の中でギアを入れ替える。別にそうする必要はないのだが彼にとっては気分の問題だ。
「さてと……片づけるかね」
彼は一人つぶやきながらコーヒーをお盆に載せる。
「にしても……うまくいってよかった。よくやったよな、俺も」
彼は皮肉気に顔をゆがませて小さく笑った。
…別に陰謀論とかではない。傍から見たら何か企んでいそうな場面だが、そんなことはなく、ただ単にこんな自分が香織の自殺を止められたようでよかった、と自分自身をほめているだけだ。
別に彼だって自殺を推奨しているわけではない。自分の命は自分の扱いたいように扱うべきだとは思っているが、だからと言って自殺すればいい、などとは思っていない。
また彼は非常に口下手な一面があった。さらに表情があまり顔に出ないことも相まってコミュニケーションがとりづらい、不愛想に見えるということは彼にとってよくあることであり、苦い経験もいくつもある。
そんな彼が人を説得するのは非常に疲れるのだ。エネルギーがいるのだ。
「俺もあんな風になれればよかったのかねぇ…それともまた別の…」
言いかけて頭を振る。いまさら考えても仕方ないことだ、今はとりあえずコーヒーを片付けよう。そう思い、彼はお盆をキッチンに運んで行った。
-to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます