オトギリソウ(7)


 どのくらい時間が経っただろうか。飲みかけのコーヒーはすっかりぬるくなっていた。


「コーヒーごちそうさまでした。いくらですか?」


「いえ。最初に言った通りおごりますよ。誘ったの私ですし。またのご来店をお待ちしております」


 最後の言葉がまた微妙に心がこもっていなかった。社交辞令が下手くそなのかな?

とりあえずここはお言葉に甘えることにした。


「そういえば家はどこですか?ここから近いのですか?」


「ええ。そんなに離れてないです。自分で帰れますよ」


「そうですか。それでは気を付けて」


 そういえば聞きたかったことができていたのを思い出した私は最後に緑川に聞いてみた。


「あの」


「はい?」


「さっき私が死んだら悲しむ人がいるっていってましたけど、私が死んだらあなたも悲しんでくれますか?」


 緑川は少し考え込んでこう言った。


「いいえ。あなたとは会ったばかりですし、そんなに悲しいとは思いません。少し残念だな、と思うだけでしょう」


 また耳を疑うような答えだ。


「それに…」


「それに?」


「あなたが…もし死を選ぶことになったとき、周りの人を悲しませるという重荷を少しでも軽くできると思うので。私はあなたが死んでも悲しみません。ご安心を」


 独特の答えだった。良識ある大人の答えとは思えない。その分正直に答えてくれていることが伝わってくる。


 しかし、それは裏を返せば彼は彼なりに私のことを思ってくれているということにならないか?


 私は笑顔を浮かべて


「ごちそうまでした。また来ます」


 と言って店を出た。


 結局何も具体的なアドバイスはもらえなかった。私はこの罪悪感をどうすればいいのだろう?それでも少しすっきりした気持ちで私は帰路に着いた。

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