オトギリソウ(5)

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 私、登山が趣味なんです。大学生になって自由な時間が増えて。毎週末どこかの山に行くようになったんです。一人で登ることもあったし、友人と一緒に登ることもあります。山の上から見る景色がすごく好きで。少し雪が残っている山なんか遠くから見ると感動してしまうくらい美しいんです。雪山は危ないし、寒いので行かないんです。なので冬は一番嫌いな季節でした。早く暖かくなれ、っていつも思っていました(笑)。


 大学二年の夏、つまり今ですね。私の弟が私のアパートに遊びに来たんです。弟は高校三年生で受験の息抜きに来たんです。


 いい弟なんですよ。私に懐いてて。勉強もよくできて。少しインドア派で理屈をこねるところが玉に瑕でしたが。

 遊びに来たのが週末だったので、私は弟を連れて山に行ったんですね。って当たり前ですよね、高校生なんだから平日は学校があるし(笑)。


 私のアパートからそう遠くもない山で登り慣れているので丁度いいな、と思ったんです。まずは山登りの楽しさを知ってもらおう!って。姉らしいところを見せよう!って。ちょっと張り切ってたんです。


 登りは順調でした。その日は晴れてて山頂の景色もきれいでした。遠くまでよく見えて、弟も満面の笑みを浮かべていました。


“すごい!姉ちゃん、めっちゃきれい!”


 その笑顔を見て私は、あぁ、連れてきてよかったな、って思ったんですよ。


 そしてその帰り道、珍しくテンションが高くなっていた弟が山の細い道を元気に歩き出したんですね。その時に私は気を付けてねって声をかけたんです。


“わかってるよ、姉ちゃん”


 そしてその数分後に―――――


 弟は足を滑らせて斜面を滑落してしまったんです。

 

 最初私は何が起こったかわからなかったんです。急に目の前から弟が消えて。その数秒後に事実を認識したとき、私は悲鳴をあげていました。慌ててスマホを取り出して救急車を要請しました。そこはギリギリ電波が受信できたので早い段階で弟の体は引き上げられました。しかし全身擦り傷だらけで、特に頭を強く打ってしまったそうです。病院で必死に治療を受けましたがその半日後に死亡が確認されました。


 この三日間は葬式の手配で忙しかったです。葬式がこんなに忙しいのって遺族とかが落ち込まないように、悲しむ暇がないようにするためなんですよね?本当にその通りだと思います。この三日間は私も罪の意識を感じずに済みました。そして今日弟が火葬され、お骨になったとき、涙があふれて止まりませんでした。


 そして葬儀が終了し、家に帰りました。そのあと自分の部屋でまんじりとしていたのですが、両親と一つ屋根の下にいるのが恐ろしいことのように思えて、思わず家を出てきてしまいました。両親はそれからも忙しそうだったので気づかれないように抜けるのは簡単でした。


 そして……あとはわかりますよね?フラフラしていたらいつの間にかあの踏切まで来ていて……死のうとしたんです。


 両親からしたら本当に恐ろしいことが起こってしまったと思います。実の娘が実の息子を殺したんですから。両親の目が恐ろしくて見ることができませんでした。”お前が殺したんだ”そう主張しているんじゃないか。


”お前のせいじゃない”

”お前だけでも生きていてよかった”


 そう口では言っても心の中では私を糾弾しているんじゃないか。


 こんな私に生きている資格はないんです。


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