オトギリソウ(4)


 一瞬耳を疑った。この人この状況で私に死ね、と言ったのか?普通止めるところではないのか?この店に来てこの男に出会って疑問ばかりだ。本当にこの男が理解できない。宇宙人なのではないか、この男は。


 またキレそうになった私は怒鳴り声を上げようと息を吸い込んだ。その時に気づいた。緑川の目が泳いで体を少し縮こませていることに。


「っ……」


 何か私が悪いことをしているみたいで何も言えなくなってしまった。


「…本当に花崎さんのいう通りです。自分勝手な男です、私は。目の前で人が死ぬのが嫌だからその人の気持ちを考えずにただ命だけを助ける。そのあとの問題を解決するわけでもない。罵声を浴びせられても仕方がありません。偽善者です」


 緑川は自分を責めていた。そこで私も少し頭が冷えた。二度目の沈黙は双方にとって気まずいものとなった。


 確かに緑川の言い分は正しい。

 

 普通人が自殺しようとしていたら止めるだろう。

 その行為は多くの人が称賛するものだ。

 立派な行いだ。


 でも助けられた人はどうだ。


 普通の状態にないから自殺しようとするわけで。

 称賛されるような行為ではないから自分を卑下する気持ちが強まるわけで。

 立派ではないからみじめな気持ちになるわけで。


 緑川は自殺する人の心理をわかっている。もしかして彼も――


「私……………弟を殺してしまったんです」


 ポツリと。私は自分の罪を告白し始めた。


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