第3話

 目を覚ますと、車の中だった。


 朝日が目に眩しい。


 助手席には妻がいた。

 目を閉じている。


 妻の手首に指を当て脈を取る。

 どうやら、死んでいるわけではなさそうだ。


 車を出して、来た道を引き返す。


 昨夜の体験をどう説明すればいいのだろう。


 それに、あの夢。


 キスケやヨシチという名前も思い出せる。


 しかし、そんなことよりあの夢の視点が嫌だった。

 ただ傍観していただけの村人の視点だった。


 隣村を助けようとせず、ヨシチ一家への暴挙を知りながら止めようとしなかった。


 この嫌悪感を消せないものか。


 昨夜と同じように対向車も後続車もいない。

 腹立たしさが増して、アクセルを踏む足に力が入る。


 エンジンがうなりを上げ、一時だけ猛スピードで林道を駆け抜ける。


 そんなことをしても嫌悪感は消えない。


 妻はいまだ目を覚まさない。


 私は自分の過去と向き合ってみることにした。




 私には小学生の頃から仲の良かった女の子がいた。

 幼なじみと言っていい。


 中学に上がるころには恋愛感情に変わった。

 それは彼女も同じだったようだ。


 私たちは隠れて付き合うようになる。

 彼女がクラスには知られたくないと言ったため、関係は秘密だった。


 その時、私たちは別々のクラスだった。

 だから、私は彼女の状況を知らなかった。


 彼女はクラスでいじめを受けていた。

 私の耳に入る頃には、ひどい状況になっていた。


 私たちの関係は次第に冷え込んでいった。

 特別、距離を取ったという記憶はない。


 それでも、どちらからともなく話をしなくなった。

 自然消滅と言えば聞こえはいいが、私はいじめを止めなかったのだ。


 結局、彼女は学校に来なくなり、ついには引っ越していった。


 数年前、ふと気になって彼女のSNSを探してみた。


 彼女は死んだと書かれていた。


 いたずらかもしれない。

 アカウントを乗っ取られた可能性もある。


 私はSNSで連絡を取ってみた。


 相手は彼女の遺族だった。


 彼女の死を知らせるために書き込んだらしい。


 死因は自殺だった。


 彼女との関係を隠し、ただの同級生として彼女の両親に会った。


 両親は中学の頃のいじめが原因だろうと話した。

 あれ以来、家からでなくなり、ふさぎ込む日が増えたらしい。


 身勝手を承知で、いじめを止められなかったことを謝罪した。


 両親は彼女のことを覚えていてくれただけで嬉しいと言った。

 二人は今でも、いじめていた奴らのことが憎いと涙を流した。


 別れ際、いじめていた奴らの名前を教えて欲しいと言われた。


 私は知らないとごまかした。


 積極的にいじめに関わったことなど一度もない。


 それでも、自分の名前もそこに含まれるような気がした。

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