『反抗期到来?』(6)

アヤメは顔を上げて、先ほどよりも近くにあるオランの顔に問いかけた。


「怒ってる?」

「オレ様が、いつ怒った?」

「じゃあ、キス?」


いい加減キスしてやらないと、この可愛い『おねだり』は永遠に続きそうだった。

そんなアヤメを見続けたいとも思うが、今日のアヤメは上出来だ。

怒るどころか、ご褒美を与えて褒めてやるべきだろう。

オランは真剣な眼差しで、赤の瞳にアヤメの瞳を映した。


「好きだ。アヤメ」


その言葉に驚いたアヤメが何かを言おうと、唇を開いた瞬間。

その唇を塞ぐかのようにオランが深く重ね、口付けていた。

腰の後ろに回されていたオランの両腕が、アヤメの身体を強く引き寄せた。


「……んっ…………」


やっと、待ち望んでいた温もりと感触を与えられ、悦びと快感に身を任せる。

自分からのキスではない。オランから与えられたキスだ。

アヤメはその『ご褒美』を、酔い痴れるように目を閉じながら味わっている。

もう、ずっと離れたくない。

そう思わせる程に全てを受け入れるアヤメの姿は、オランをも満たしていく。

ようやく離されると、オランは今朝と同じように『言葉攻め』でアヤメの反応を試す。


「なんだよ、物足りねえような顔してんなぁ?」


まだ夢見心地で呆然としているアヤメは瞬きもせずに、まだ熱の残る唇を小さく動かした。


「うん……もっとして……」


明らかに今朝とは違う反応を示した。

恍惚としながらも妖艶な微笑みは、少女が女に変わる瞬間を垣間見た気がした。

キス1つするのに必死になっていたあの頃から見違えて、ここまでの仕上がりになるとは。

その出来映えには感嘆する。

そんなアヤメの姿は、自ら手掛けた芸術作品の完成を見るようで、オランに確かな満足感を与えた。

だが満足していないのは、アヤメの方だった。長い期間の渇望は、1回のキスでは満たされない。

だが、満足させないのが、オランの『調教』。ご褒美は一度に何度も与えてやらない。


「そうだなぁ……いい子にしてたら、またしてやるよ」


そう言ってオランは、アヤメの頭を優しく撫でた。


「いじわる……」


子供扱いされたようで、アヤメは頬を膨らませた。

女になったかと思えば、すぐに少女に戻る。

反抗期かと思えば、やはり従順で自分を求めてくる。

目紛しく表情を変える姿すら、オランを悦ばせる快楽の1つなのだ。

アヤメは、すぐにその顔を微笑みに変えると、改めて向かい合う。

ここからは、いつもの『習慣』を行うのだ。

それを理由に、もう1回『アヤメからのキス』が許される。


「おやすみ、オラン」


「それだけか?」


初めて『好き』と言ってくれた彼に返す言葉は、これしか見付からなくて……

彼の『好き』よりも、もっと沢山の『好き』を込めて返したい。

いつもの言葉だけでは、物足りないから……



「……好き」



そうして今度は二人で眠る為の、優しい『口付け』を交わす。

微笑みを交わした後に再び抱き合い、ようやく二人は同じベッドで眠りについた。

反抗期も悪くはない……オランは、そう思いながらアヤメを抱き寄せて、栗色の髪を撫でた。







「ディアお兄ちゃん、一緒に寝よう〜〜」


その頃のリョウは突然、ディアの部屋に押し掛けて、怖いもの知らずの彼を驚かせた。


「リョウ様……どうされたのですか?アヤメ様は?」


リョウはお構いなしにディアのベッドに上がり、布団の中に入り込んだ。

何かいい事でもあったのか、ご機嫌なリョウはニコニコして布団から顔を出した。


「お姉ちゃんとお兄ちゃん『らぶらぶ』なの〜」


ディアはその意味を想像して固まった。だがリョウは止まらない。


「だから、ジャマはダメなの〜〜」

「え、ええ……そうですね。ご立派です、リョウ様」


何かがあったかと思って散々、心配したのに今度は………

ディアは失礼を承知で今、二人に言いたい事がある。


………結局は、ノロケだったのか。


言える相手もなく、言えるはずもない言葉は、心の中での一人ツッコミで終わった。

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