『白い天使、黒の悪魔』(3)
「……………え?」
ディアは、驚きに目を見開いたまま固まってしまった。
それも、そのはず。
寝室から出て来たオランとアヤメが、小さな子供を連れて来たからだ。
ディアの目には、その姿がまるで、子連れの親子のように見えた。
「えぇ…と……いつの間に、お世継ぎを産まれたのでしょうか……?」
ディアの口からやっと出た言葉が、これだった。
冗談を言わない真面目なディアが、思わず冗談みたいな事を言ってしまう程に衝撃だったのだ。
しかし、リョウは色白で水色の瞳。褐色で赤い瞳のオランの子供に見間違えるはずはない。
ディアの勘違いが、オランの不満を増幅させた。
「違ぇよ。この天使のガキが、勝手に天井から降って来たんだよ」
「はぁ……天使ですか……」
そうは言うものの、ディアはオランの説明では全く要領を得なかった。
そんなディアに構わず、アヤメは勝手にリョウにディアを紹介し始める。
「リョウくん、このお兄ちゃんは、ディアさん」
「でぃあさん?」
「あっ、違う、『ディアお兄ちゃん』よ」
「ディアお兄ちゃん!!」
キラキラとした瞳を向けられ、ディアもつられて笑顔を返す。
魔獣の心すら浄化する、アヤメとリョウの癒しの効果は凄まじい。二人まとめて天使のようだ。
アヤメは、リョウに構うのが楽しくて仕方がないようだった。
「ディアさん、この子、羽根があるのよ。ほら見て、可愛い〜」
アヤメは、まるで自分の子供のようにリョウの背中を見せて自慢した。
「羽根ならオレ様にだって、ある」
「私にも一応、ありますね」
オランとディアが、なぜか同時に対抗してきた。
オランは普段の生活では羽根を魔法で消していて、ディアは魔獣の姿の時だけ羽根がある。
「オランの羽根は『黒くてツルツル』だけど、リョウくんのは『白くてフワフワ』なの」
「なんだよ、『白くてフワフワ』してりゃいいってモンなのか?」
「魔王サマ、大人気ないです」
リョウを可愛がっているアヤメに完全に嫉妬しているオランだった。
アヤメは、オランの羽根を最初に見た時は『コウモリの妖怪』と勘違いしたのに、この扱いの差は一体何なのか。
ようやく冷静さを取り戻したディアが、いつもの有能な側近の顔になった。
「とにかく、すぐに天王様に連絡を入れますね」
天王とは、天界の王・ラフェルの事である。
ディアは、3人を残して退室した。
アヤメは屈むと、小さいリョウの目線の高さと同じ位置で優しく話かける。
「リョウくんは、どうやって、ここに来たの?」
オランが話かけると怖がってしまうので、アヤメが代わりに色々と話を聞き出すつもりなのだ。
「まほーの勉強してたら、ポンってなったの」
リョウの言葉の意味が分からなくて、アヤメは顔を上げて頭上のオランに視線を向けた。
「オラン、どういう意味?」
「魔法の勉強をしてた、か……空間移動の魔法だな」
オランがアヤメを人間界から魔界に連れ帰った時に使った魔法も、空間移動の魔法であった。
「さっきの回復魔法といい、ガキが使えるレベルの魔法じゃねえ。コイツ一体……」
オランが考え込んでいると、アヤメがさらにリョウに問いかける。
「じゃあ、リョウくんは、なんでここに来たの?」
しかしリョウは『分からない』という風に首を傾げた。
「ボク、キレイな場所に行きたいーって思ったの」
リョウがそう念じて空間移動の魔法を使ったら、魔界に来てしまったのだろう。
しかも何故か、オランとアヤメの愛の巣とも言えるベッドの上に。
野生の魔物も徘徊する魔界が、天界よりも綺麗な場所かと問われると疑問だ。
突然、リョウが弾ける笑顔でアヤメに両手を伸ばした。
「お姉ちゃん、だっこー!」
「え?うん、いいよ」
「おいコラ、ガキ!!調子に乗んじゃ…」
場が混沌とし始めたその時、ディアが再び部屋に入ってきた。
「魔王サマ。天界に連絡をして、天王様からのお返事を頂いたのですが…」
「で、どうした」
「丁度良いので、勉強がてら、しばらく魔界でリョウ様を預かって欲しいとの事です」
「あぁ〜〜〜!!?」
思いっきり不満の声を上げるオランだったが、アヤメとリョウは同時に喜びの声を上げた。
「やったー!」
「やた〜〜」
もはや、どちらがアヤメで、どちらがリョウの声なのか分からない。
「あと、リョウ様は将来の天王様の側近候補だそうで、丁重に扱って欲しいとの言付けが…」
すでにディアの口からは、リョウは『様』付けになってしまっている。
リョウが幼いながらも高度な魔法を使えるのは、すでに将来を期待されている優秀な天使だからだ。
天王は、魔界をリョウの留学先とか、ホームステイ先とか、そういう軽い考えでいるのだろう。
いや、年齢的に『保育先』だろうか…。
そう言われると責任問題で目を離す訳にもいかないし、リョウもすっかりアヤメに懐いてしまった。
国交問題とプライドを天秤にかけているようなものだ。
「………後ほど、天界に諸経費を請求しますか?」
ディアが現実的な問題を問いかけると、オランは静かな怒りをこめて答えた。
「それだけじゃ済まさねぇ」
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