『白い天使、黒の悪魔』(4)
その日の夜の『寝る前のキス』は難関となった。
いつもは二人だけのベッドに、リョウも一緒に寝るからだ。
オランは朝から納得のいかない事ばかりで不満が最高潮に達している。
「ガキは別で寝かせろよ」
オランと向かい合うアヤメはベッドの上に座り、リョウを膝の上に乗せて抱っこしている。
何故オランが不満な顔をしているのか、アヤメには分からない。
「う〜ん、でも離れると泣いちゃって、眠れないんだって」
アヤメは、リョウの事に関しては頑に意見し、自分の主張を通すようだ。それは母性なのか。
「母性ならオレ様との子供で発揮しろよ…」
「え、なにそれ?」
聞こえてないのか天然なのか、オランの不満すら見事に流される。
空気の読めないリョウは、アヤメの膝の上でニコニコしている。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おやすみなさーい」
「うん。おやすみなさい、リョウくん」
「さっさと寝ろ、ガキ」
素っ気ない挨拶を返すと、オランは口を閉ざし、何も言わずに待つ。
アヤメが、次に取る行動を。
アヤメはリョウを自分の方に向かせて、後ろ頭に手を添えて優しく抱きしめた。
リョウの視界を遮る為だ。
やはり従順なアヤメは、オランの期待を裏切らない。
アヤメはリョウを抱いたまま前屈みになり、正面からオランに顔を近付ける。
「おやすみ、オラン」
「それだけか?」
アヤメがどうするかは、分かっている。
アヤメはどうするかを、分かっている。
彼女に全てを仕込んだのは、オランなのだから。
でも、この想いだけは、決して仕組まれたものではない。
だからこそアヤメは、こうやって今夜も、たった一瞬の行為に恥じる。
少し照れながら、朝にも見た、あの『最高に可愛い』微笑みで囁く。
「……好き……」
「それでいい」
そうして、キスという名の『日課』は今夜も交わされる。
その一瞬の甘い感触で、オランの一日の不満も全てが浄化されて消えて行く。
それは回復魔法にも勝る、アヤメだけの癒しの力。
半分寝惚けた朝のアヤメは、一日の中でも最高に可愛い。
寝る前に恥じらう夜のアヤメも、一日の中で最高に可愛い。
オランの一日は、彼女への愛しさで埋め尽くされ、満たされている。
結局の所、魔王オランも天使リョウも、『純粋で綺麗な心』を持つアヤメに引き寄せられたのだ。
こうして、人間の少女と、天使の子供と、悪魔の大人の同居生活が始まった。
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