『白い天使、黒の悪魔』(2)

突然、アヤメが嬉しそうな声を上げた。


「かわいい〜〜!!」


「いや、そうじゃねえだろ」


すかさずオランがツッコむが、アヤメは聞いちゃいない。

何の疑問も持たずに興味津々で子供の方に近寄る。


「私はアヤメって言うの。あなたのお名前はなんて言うの?」


子供は、アヤメのように純粋無垢で邪気のない瞳を大きく開きいた。


「ボク、リョウだよ」

「リョウくんって言うのね………ん?」


アヤメは、ある事に気付いて、オランの方を振り返る。


「オラン、この子羽根があるよ、白い羽根」


リョウの背中には、白くて小さい、フワフワした羽根が生えていた。


「この子、鳥さんかなぁ?」


一人で想像を膨らませるアヤメに、オランは溜め息をついた。

今、問うべきは名前やら何やらでなく、この子供が何者で、なぜ天井から降ってきたのか。

何よりも、アヤメとの朝の時間、一番いい所を台無しにされたのだ。

テンション高めのアヤメとは裏腹に、オランは少々腹を立てている。


「いや、どう見ても天使だろ、このガキ」

「てんし?なにそれ、妖怪の一種?」


悪魔や天使に馴染みのない村娘のアヤメは、人外を何でも妖怪だと思ってしまう傾向がある。

リョウはベッドの上を這うように移動して、オランの背中に回った。

そして、心配そうにしてオランの背中を見回す。


「ごめんね、お兄ちゃん、痛かった?」


リョウは、オランの背中に落下した事を謝ったのだ。

リョウはオランの大きな背中に向かって、小さな両手を広げた。


「いたいの、とんでけー」


それが呪文なのか、そう唱えた直後に、リョウの手から光が溢れ出た。


「えっ!?リョウくんの手、光ってるよ!?」


アヤメが驚きの声を上げるが、同じくオランも驚いた様子だった。

背中に感じる温かい癒しの力。


「これは…回復魔法?こんなガキが使えるはずは……」


力を使って疲れたのか、リョウは突然、ポテッ☆とオランの後ろで倒れた。


「リョウくん、大丈夫!?」


アヤメは急いでリョウを抱き上げる。

リョウばかりを心配するアヤメを見て、オランは不機嫌極まりない。


「まったく面倒だぜ。天界に連絡してやるから、とっとと帰りやがれ」


すると、リョウがハッとして顔を上げた。ぎゅっとアヤメにしがみついている。


「やーーだーー!!」


大きな瞳に涙を一杯浮かべて突然、駄々っ子になった。さすがのオランも怯んだ。


「ヤダじゃねえよ、さっさと離れろ、このガキ……」

「や〜だ〜!!帰らない!!」

「オラン、だめ!!ごめんね、こわかったね〜……」


あの従順なアヤメが、オランを強く制止した。しかも『こわい人』呼ばわりされて、オランはさらに怯んだ。

まったく、女っていうのは子供の前だと、こうも強気になるのだろうか?

初めてだらけの状況と乙女心の不可解さに、オランは反論する術がなかった。

どうやら、リョウはアヤメから離れたくないらしい。

アヤメの手にかかれば、扱いの難しい魔獣も子供も簡単に懐いてしまうのだ。

……もちろん魔王も、である。

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