『菖蒲の花』(2)
その日の一番明るい時間、オランはアヤメを中庭へと連れ出した。
寝室からも繋がっているテラスに出ると階段があり、そこを下りて行くと、城の中庭へと辿り着く。
オランに手を引かれてアヤメが中庭の前に立った瞬間、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
一面が、紫色の一色だった。
そこに広がるのは、先が見えない程の紫色の花で埋め尽くされた花畑だった。
アヤメは、その色を見ただけで、それが何の花であるか分かった。
「これって、
嬉しくなって、満面の笑顔でオランを振り返る。
「ああ。アヤメの名前と同じ花だ」
「大好きな花よ、嬉しい…!!もしかして、私の為に?」
「当然だろ。正確には、
アヤメが花畑の中心に向かって伸びた道を歩いて行き、オランがその後を続く。
真ん中まで辿り着くと、二人の周囲は
二人と、
それを見計らってか、オランが背後からアヤメの腰に両腕を回した。
アヤメはふっと力を抜いて、オランに体を預けた。
本当は、
その優しさと、一緒に居る時間の心地よさ。そう、何よりも好きなのは……
「ありがとう、オラン。……好き」
「あぁ?聞こえねえなぁ〜」
「いじわる」
好きなのは、すでに知っている。アヤメの心は完璧に見通しているつもりだ。
オランは、こんな事では満足しない。
オランの本当の野望は、アヤメの口から『愛』という言葉を言わせる事なのだ。
『好き』は『愛』を知らなくても言える言葉。
オランが欲しいのは、『愛』を知った上での『好き』なのだ。
だが、『愛』の意味だけは、直接、言葉では教えてやらない。
オランはアヤメを自分の方に向かせた。
それが何を意味するのか、さすがのアヤメでも分かるようになってきた。
「オラン、今、お昼だけど……」
朝と夜のキス以外にも習慣があるのだろうか?と、空気すら読めないアヤメの思考は今も純粋だ。
「アヤメ、『キス』に時間や回数の制限は無いんだぜ」
「ふふっ…なんだか、それって贅沢ね」
アヤメの発想と感覚は、相変わらず予測が出来い独特なものだった。
アヤメは少し顔を赤らめて、視線を逸らした。
いつも、そうだ。オランはこの表情が見たくて、愛しくて、焦らしたくなる。
だから、意地悪なオランは、すぐにはしない。
アヤメの方が焦れったい、と思うまで待ってやるのだ。
だが……その待ち時間が、仇となった。
焦れったくなってしまった人物が他にも、もう一人いた。
「魔王サマ、仕事のお時間です」
突如、聞こえた誰かの声に、二人は同時に後ろを振り返った。
いつの間にか、二人の背後にはディアが立っていたのだ。
わざと気配を消していたのか、オランですら気付かなかった。
「お昼の休憩にしては長過ぎます。お戻り下さい」
いつものように無感情で淡々と言うディアを、オランは睨みつける。
アヤメは恥ずかしさのあまり、背中を向けてしまっている。
「テメエ……今、どれだけの重い罪を犯したか分かってんのか?」
「分かりませんね。なんせ私は獣ですから」
魔王と張り合えるのは、何者も恐れはしない、この魔獣くらいだろう。
この魔獣にも少々、調教が必要かもしれない。
それは、アヤメへの想いで埋め尽くされた、魔王の心の象徴。
白い
いつかは、この庭園のように紫の
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