第4話 動物たちと庭師(3)

 青年執事に手を引かれて外へ出る。

 広いベランダにティアラが選んでおいたソファーセットが置かれていた。観葉植物と花もよい配置だ。

 スノーウィーは着いてこない。

 ドアが開いていたら逃げ出しそうだけれど、シオナが上手に邪魔をしてくれている。オセロットのシオナはアンドロイドだからそうするようにプログラムしてあった。


 階段を下りた2階の手摺てすりに手を掛けて庭を一望する。広がるイングリッシュガーデンの緑が見た目にも楽しい。


(わぁ、思い通りの仕上がり)


 お城の庭と言ってもおかしくない広さに、高低様々な草花が咲いている。統一感がありつつ自然に見える風景をティアラは満足げに眺めた。なにもかも順調で心地良い。


「庭師のそばにいますよ」


 執事が鳥の所在を教えてくれる。彼が指し示したのは池の向こう。緑に埋もれるように白いシャツを着た庭師が目に入った。

 どこから行こうかといくつかある小道を確認する。最短ルートを見極めてから階段を駆け下りた。


「お嬢様、そんなに急がなくても」

「ルルとモコに早く会いたいし、庭師に礼も言わなきゃ」


 走るティアラの後ろを流れる動きで執事が着いてくる。

 階段を踏み外したところでアンドロイドの彼ならすぐにカバーしてくれるから心配などいらない。


(爺ならみっともないとか、お嬢様が走るなんてって小言を始めるだろうな)


 どんな顔をしているか執事の顔を見ようと振り返る。


「前を見て、危ないですよ」


 言った彼の動きが早くなる。あっという間にティアラより前に駆け下りていった。


「心配させて楽しんでるの? 悪い子だな」


 ティアラの手をとって言う彼は笑っていた。

 悪い子だと言いながら彼女の邪魔はしない。ティアラと同じ歩調で階段を駆け下りていく。仲の良いお兄さんみたいで、妹を猫っ可愛がりする兄のようで嬉しい。


(小さい頃おねだりしたな。お兄様が欲しいって)


 庭に下りると執事は彼女から手を離した。彼が急にすっとした顔になったことが不思議で見回すと、アンドロイドのメイドがふたりを見ていた。




 庭師の姿がよく見える所までやってくると、彼が脚立に乗っているとわかった。


(どおりで高い木もあるのに姿が見えたわけね)


 2階から見た時には不思議に思わなかったけれど、思えばこの距離で地面にいる人が見えるわけがない。


 近づいていくと木々の間からもう1人庭師が出てきてティアラにお辞儀をした。まだ100メートルと少し離れている。きっと執事が伝えたのだ。

 アンドロイドの執事が脚立を見上げると上に腰かけた庭師がこちらに顔を向けた。ティアラが選んだ庭師だ。面接の時と造園の途中、2度顔を会わせている。間違いない。

 こちらに目を向けたまま脚立に座っている男をよくよく見ると、その肩に小鳥がとまっていた。


(嘘でしょ?)


 ティアラは目をしばたたいた。アンドロイドの鳥は彼女以外に懐くはずがない。それなのに、たった2日早めに送っただけの2羽が彼の肩の上で毛繕いまでしていた。


「なんなのっ!?」


 ほんの少し血が頭に駆け上がる感じがする。


「こっちへおいで」


 声が尖らないように気を付けて優しく品よく声をかけた。

 彼女に気づいた2羽は嬉しそうに鳴き、彼の肩からすぐに飛び上がった。そして彼女の差し出した手と彼女の肩に降り立ってかしましいほどに鳴きまくる。たった2羽なのに幼稚園の子供達が一斉にお喋りを始めたみたいな騒がしさだ。


「ぴちゅっ、てぃあらッ! ぴっ、嬉しぴぴ」


 ティアラの手に顔をすり付け目を細めてる。彼女の顔を見上げて片足をあげてハイタッチをせがむ。互いに自分が先だと羽をバタつかせて押し合い圧し合いして忙しい。


「仲良くして。ほら、手が2つあるって知ってるでしょ」


 2羽はそれぞれ彼女の手のひらに埋もれて嬉しそうにしている。その様子が愛らしくて、さっきムッとした気持ちはどこかへ行ってしまった。


「放し飼いにしてよく逃げないな」


 脚立から下りてきた庭師はそう言った。あるじに対する庭師らしからぬ言葉に青年執事がやや怪訝な顔をしている。






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