第421話 慎司の性格

「……南雲が? ついにか……」


 重蔵の言葉に、俺はそう呟いた。

 南雲家、つまりは慎司の家になるが、この十六年、ずっと見てきて南雲家本体が大きく動くことはなかった。

 あくまでも分家やその分家とか、同盟関係にある家とか、経営している会社とか、そういういわゆる末端が活発に動くことはあっても、本家はあくまでも何もしていないとそう言う態度を取り続け、実際にもその通りに振る舞ってきた。

 しかしここに来て、本体にも動きが出たということだろう。

 事実、重蔵は言う。


「慎司も老いたからな……いくらなんでも、この辺りで動かなければならぬと思ったのだろうさ」


 周りに聞かせるわけにはいかないため、暗号気術でもって会話し始める。 

 周囲には普通の会話にしか聞こえないだろう。


「あんたが言うことじゃないような気がするが……でもまぁ、今のあんたは不自然なほどに若いからな。俺の術がどうこう以前に」


 もちろん、俺が若返りをかけているから、今の重蔵は四十代過ぎの体だ。

 それはそれとして、しっかり元の年齢……八十くらいに戻っても、そんな年齢にはとても見えないのだ。

 せいぜい、五十代半ばくらいか。

 もう少し以前はしっかりと年齢相応の身体をしていた記憶があるが、徐々に若くなってきている気がする。

 そんな意味合いの俺の言葉に、重蔵は少し首を傾げてから言う。


「ふむ、やはりお前もそう思うか? わしもなんだかそんな気がしていてな……お前の力に影響を受けたからではないか?」


「俺の? いや……まぁ仙気が自然に取り込まれて若くなってる、とかはあり得るかもしれないが……それだって微々たるものだと思うがな。まぁ真気自体、千年の歴史があるとはいえ、その本質についてはいまだにはっきりとしているとは言い難いし……」


「それはそうだな。なんとなくの話で言えば、お前たちと過ごしているとそれこそ気持ちから若くなっていくようでな。それも影響しているかもしれんぞ」


「病は気から、ではないが老いも同じということか。確かにそれはありそうだな……気術士でも、老化が遅いのはそういった気持ちが若い人間だし。逆に苦悩に満ちた人生を過ごしている者は老いやすい」


「以前のわしはそうだったが、今は全くそんなことはないからな……そういう意味では、慎司は正反対だろうし、あの容姿も納得はいくな」


 言われて見ると、慎司は重蔵、景子、慎司の三人のうちでも最も老いた容姿をしていた。

 しかしあいつに苦悩があるのだろうか?

 俺を殺す最大の原因だったくせに、悪びれるところは一つもなさそうな性格をしているが……。

 そう思って首を傾げる俺に、重蔵は言う。


「別にお前を殺したことについて苦悩している、とかではないさ」


「ではなんだ?」


「あいつは権力欲が強いからな……南雲を掌握しただけでは飽き足らず、四大家全体をいずれ手中にと考えている風だった。しかし、この六十年以上、それが全く出来ておらんだろ。それで相当イライラした日々を送ってきたのではないか、と思ってな」

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