第420話 宴会場にて
「……楽しんでおられますかな?」
そう尋ねてきたのは……誰だったかな。
おそらくは京都の呪術家分家の誰かだったように思う。
ただし土御門からは若干遠く、流石に一発では覚えられていなかった。
しかしその表情に宿るのは純粋な好意であって、何か俺に対して悪い感情を持ってはいない。
それも当然で、今、俺がいるのは宴会場だ。
何のためのか、といえば、大妖討伐を祝する祝賀会を開いている。
三日連続で行われており、流石に俺でも気疲れを覚えつつある。
どうして三日も、という感じかもしれないが、今回の大天狗討伐には京都中の呪術師が本当に総力を結集して挑んだからだ。
全ての家が、俺と重蔵、それに北御門と東雲に対して挨拶と感謝を述べたいと言ったため、そうなると日を分けるしか無かったというわけだ。
まぁ嫌な感じは一切ないので全然構わないのだが、酒がまだ飲めないからな、俺は……。
前世と合わせればとっくに二十歳など超えているわけで、そういう意味では飲んでもいいだろうと思ってしまうが、体はまだ十六のそれだ。
飲むべきではないとされてしまう。
まぁ、気術士呪術師は二十歳になる前に飲んでしまうことが多いのだが、流石に公的な宴会場で飲むのはやめておいた方がいいだろう。
京都の呪術師のおっさんや爺さんたちはしきりに上物だと言って京都の酒を勧めてくるんだけどな……まぁ呪術師とはいえ、そういう意味では普通のおっさんたちというわけだ。
「ええ、十分に。こんなに豪華な宴会を何日にも渡って開いていただいて、大変ありがたく思っていますよ」
俺がそう言うと、目の前のおっさんは苦笑して言う。
「その年にしてお世辞も心得ておられる。流石にお疲れでしょう。申し訳ありませんな。どうしても貴方様に礼を言わねば、気が済まない者が多くて……代わりと言ってはなんですが京都の術師は全員、何があろうと貴方様に頼まれたことは断りませんぞ」
「それはそれは……いずれ何かをお願いするときもあるかと思います。どうぞよろしくお願いします」
そう言うと、おっさんはグラスを掲げて去っていった。
続けてまた別の爺さんが寄ってきそうになったが、その前に重蔵が俺の前に現れて肩を強引に組んでくる。
今の重蔵の年齢は四十代くらいに見えるな。
大天狗討伐の後、また若返りをかけてこうなっている。
宴会で昔のように目一杯酒が飲んでみたいから頼むと言われたからだ。
実際には、俺のところに酒を注ごうとする爺さん方から守るためだったようだが。
延々と飲み続けても顔色に大きな変化はなく、重蔵はうわばみなのだなとそれで理解した。
「おう、武尊。飲んでおるか!?」
それでも若干声が大きくなっているのは多少酔っているからか?
「飲めるわけないでしょう、重蔵様……」
流石に事情を知る人の前以外では今まで通り敬語だ。
そんな俺の耳に重蔵は口元を寄せ、
「ま、そう言うな……それより、つい先ほど、関東の本家から連絡が来てな。南雲が動き出したようだぞ」
そう言った。
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