第419話 助力

 椛の言葉に俺は少し考えてから答える。


「……そうですね、望みます」


 これに土御門側の三人は息を呑んだ。

 こっち側の三人は特に、というかすでに伝えてあるからな。

 今更な話である。

 俺は続けた。


「少し前まで……重蔵と和解した後しばらくは、事情次第かなと考えてはいたんですよ」


「事情とは?」


 椛がそう尋ねたので答える。


「重蔵と同じような事情ですよ。妖魔に思考誘導や洗脳を受けていたとか、その他に何かしらの同情すべき事情があるのなら、とね」


「まぁ、それは分からんでもないが……しかし今は違うのかえ?」


「この十年ほど、景子と慎司を観察してきました。本人の行動や、その周囲なんかをね。その結果、俺が出した結論は、あいつらは別に誰にも操られていないだろう、ということです」


「それは……どうして?」


「重蔵については、その元々の心根や、今の東雲家の様子などを見る限り、汚れがないというか……真っ直ぐだったこいつらしさが、今でも感じられていました。それでも俺は見せかけに過ぎないだろうと頭から決めてかかって、こいつを殺しにかかりましたが……剣を合わせてわかりましたよ。いい意味で、本当に何も変わっていないのだろうとね。ですが、景子と慎司は……」


「……ダメかい」


「ダメでしょう。本人たちから感じられる……後ろ暗さというか、性根の腐った感じというか。それが殺された時に感じたそれと何も変わっていない。それに西園寺家と南雲家は、おかしな商売に手を出していることもわかってきているので。特に南雲は妖魔や邪術士との取引がいくつも見つかっている」


 厳密に言うと、見つけたのは俺たちだが、それ以外にも色々ある。

 西園寺家はそういう意味だと証拠薄ではあるが……景子のあの容姿の変わらなさもどうしても怪しいし、麗華の扱いから見ても確実に何かあるはずだと思っている。

 だからな……。


「妖魔や邪術士か。我々、呪術師も、妖魔や邪術士との関係はあるが……」


「呪術師のそれは、公然としたものというか、後ろ暗いとまではいきませんから。そもそも今の俺は妖魔や邪術士が全て悪いとは思ってはいないんです。問題は、四大家全体として、妖魔は確実に滅すべし、邪術士も滅ぼすべし、と旗を振っているというのに、それを裏切っている態度です。そういう裏切りをなんとも思わずにやっている……それがどうしてもね」


 しかも、助力してるのは一般人にも大きな被害をいずれ出しそうな研究とかそういうのだ。

 そうじゃなければまだ、許せたというか……妥協できた部分もあった気がするが、もはやそうとは言えない。

 

「なるほど……ま、確かに我々もそういうことはやらないね。しかし妖魔や邪術士との関係か……うちらが協力できるとしたらその辺かね?」


「え?」


「いや、復讐をするのだろう? であれば情報が必要だろうが、大っぴらに妖魔や邪術士から情報を得るのは四大家だと難しかろう。呪術師の我らなら、そうではないからね」


「よろしいのですか、復讐などに協力して」


「復讐は、むしろ呪術師の専売特許だからね。否定する気はないさ」


 確かに……呪術とはむしろそういうものか。

 失敗すれば手痛いしっぺ返しを食らうことを前提とした術の体系である。

 そう思った俺は、椛に言った。


「では、ぜひお願いします。ただ安全を第一にしてください。いざとなれば……俺は西園寺も南雲も、家ごと破壊する事もできますから」


 最終手段はそれだが、それだと巻き込む人間の数が酷く多くなるから取りたくない。

 やるのは、あくまでも景子と慎司だ。


 俺の言葉に土御門の三人は顔を若干引き攣らせて、頷いたのだった。

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