第415話 後悔

「チームの勝利、ですか……そうおっしゃいますけど、最後の大天狗との戦いは武尊様なくばこのような決着はなかったでしょう。仮に倒せていても、多大なる犠牲者が出ていたはず。それなのに、今回はほとんど死者もなく……」


 蘭がそう言った。

 まぁ、流石に死者ゼロとはいかなかったか。

 大天狗からの攻撃は大抵防いでいたが、京都市街に出現していた上位妖魔達による被害が地味に結構あった。

 広い京都の街を、全て監視することはいくら俺でも不可能だった。

 そんな想いが顔に出ていたのか、蘭は続ける。


「そのような表情をなさらないでください」


「どんな顔をしていますか、俺は」


「悔しそうで、悲しそうでいらっしゃいます……」


「そうですか……。もう少しうまく立ち回れば、もっと助けられた命があったかも知れないと思うと、つい」


 大天狗との戦いの時には、それを優先して戦っていたからな。

 俺が最初から大天狗と直接ぶつからなかった理由の一つだ。

 ある程度、ダメージを与えつつも、向こうからすれば与しやすしと判断して貰い、逃げないようにする。

 手下の妖魔を呼び出すことも大体想像がついていた。

 強力な妖魔というのはそういうものだからな。

 そしてそのような妖魔に広く分散されると困るため、出来るだけ近場で戦って貰うように誘導していた。

 さらに、その戦いでも被害が出ないようにまず補助を優先して……。

 と、まぁ色々やっていた結果だな。

 この辺りは龍輝と咲耶にも全力を注いで貰ったからこそ成功したことだ。

 だからか、俺に握手しに来る者達の中には、二人とも握手して感謝を述べていた者達も結構居た。

 

「本当なら、京都の呪術師のほとんどが死んでもおかしくなかったことを考えれば、微々たる被害です……だからといって、命を過小評価するつもりはありませんが、これを失敗だったと考える必要はありません。今回散った者達も、皆、このようなことは覚悟していたのですから……もちろん、残された彼らの家族にも手厚い保障をしていくつもりです」


「そうですか……そうですね。亡くなった者達に報いる方法は……それくらいしかないですよね……」


 ふと、俺が前世、死んだ後のことを考える。

 あの後、美智や両親はどうしたのだろうかと。

 酷くむなしい気持ちが湧き出るが、かといって死んだ人間は戻ってこない。

 俺はたまたま、悪運が強かったからこうして戻ってこられてしまったが……普通はこんなことはあり得ない。

 

「そうじゃぞ、武尊。胸を張れ。ここにいる術士全員が、お前を英雄と認めているのだからな」


 重蔵がふっと笑ってそう言った。

 俺の顔を見て何を考えているのか、理解したのかも知れない。


「重蔵様……」


 ちなみに、流石に他の術士達も見てる前ではタメ口は利けないな。

 それこそ気術士の生ける伝説なのだから、重蔵は。

 それと並んだかも知れない、と考えればまぁタメ口でも良いかもしれないが、それを考えても俺と重蔵には年の差が大分あるからな。

 控えておいた方が良いだろう。


「ともあれ、今日明日は総出で片付けをせねばなるまいが、その後は宴会じゃぞ。お主が主役のな。そこで暗い顔を見せていたら喜べるものも喜べんだろう。お前は、笑っていろ。少なくとも、皆の前ではな」


 これは耳元まで近づいて、暗号気術で伝えられた。

 まぁ、皆には聞かせられない話か。


「あぁ、そうです。とりあえず、土御門本家に戻って頂けますか。今後のことについて色々とお話がありますので……」


 蘭がそう言ったので、俺は頷く。

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