第413話 結末
目の前に迫る、大天狗の強大な妖気の込められたエネルギー砲。
《妖気砲》とでも呼ぶべきか。
術による変換を挟まないために、エネルギー量だけで言えば一切のロスがない、ある意味最大の攻撃だった。
しかしそれだけに、融通が利かない攻撃でもある。
俺の後ろに広がる、位相のズレた京都市街。
だだ、このままこの《妖気砲》を避ければ、そのまま呪術師たちによって張られている結界を抜き、
それだけの密度が、この《妖気砲》にはあった。
もちろん、それだけの力を込めた大天狗には、もう残りの力など存在しない。
《妖気砲》の後ろで、徐々に高度を落とし、存在が希薄になってそのまま地面にゆっくりと墜落するように落ちていく大天狗の姿が、俺の目には映っていた。
正真正銘、いま自らの出来る最大最強最後の一撃を俺に放ってきた、というわけだ。
その見切りは、敵ながらある意味あっぱれという感じだが……。
「……それでも、相手が悪かったな」
俺は《温羅切》を鞘に収め、腰溜めにし、一瞬で大量の真気を注ぐ。
コンマ一秒もなかっただろう。
そして次の瞬間、刀を抜き放ち、振るった。
「……鬼神流《滅消撃》」
──フォン。
と、随分軽く美しい音が、あたりに響いた。
そしてそれと同時に、目の前に存在していたはずの《妖気砲》は、その存在を丸ごと消滅してしまっていた。
『ばか、な……』
墜落していく大天狗の口から、そんな声が漏れる。
ほとんど力を使い果たしていても、まだ意識は保っていたのはさすがと言える。
だが、これ以上何かできるはずもなく、そのまま地上へと墜落していった。
大天狗の気持ちも、まぁ理解できる。
あれだけの妖気だ。
どんな方法で対抗しようとしても、それなりの余波というのが発生するべきなのだ。
しかし、今の一瞬で起こったことは、ただの消滅である。
そんなことは普通、起こらない。
それが常識のはずなのだ。
「……ま、とりあえず下に降りるか。大天狗にとどめを刺さなければならないしな」
俺は大天狗が墜落した地点へと向かって飛ぶ。
当然のことながら、そこにはすでに多くの気術士、呪術師たちが集まっていて、仰向けになって息苦しそうにしている大天狗を囲んでいた。
もう見習い気術士すら跳ね除ける力はないようで、浅く息をしている以外には、全く動かない。
まぁ、それでもこのまま一日も放置しておけば、周囲から気を吸収して動けるようにはなってしまうのだが。
だからトドメが必要だった。
「……さぁ、大天狗。言い残したことはあるか?」
俺が大天狗に近づくと、その周囲を囲んでいた気術士、呪術師たちはザッ、と道を開ける。
俺を見るその視線にはどこか恐怖すら宿っているように思え、なんだか少し笑ってしまった。
大天狗はそんな俺を見て、少し笑い、
『……そんなものは、ないわ……だが、お前の名を聞きたい。我を調伏せしめた、優れた術士の名を』
「そうだな……ま、今更呪で縛るもないか」
そもそも、俺の真名は北御門の方にある。
名乗ったところで俺をそこからどうこうすることは出来ない。
だから俺は言った。
「高森武尊だ。大天狗」
「高森、武尊か……その名、覚えておこう……我は大天狗、那智……この身滅びようとも、また……』
そして、トドメに首を切り落とすと、直後、大天狗の体がサラサラと砂のようになって空気に溶けていく。
最後に残ったのは、巨大な霊石一つ。
俺はそれを《虚空庫》に収納し、そしてその場にいる術師たちに言った。
「……勝ったな」
それと同時に、歓声が上がった。
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