第409話 手下

 それからも大天狗は暴れ続けた。

 特に、重蔵を狙うことが増えたが、大きさのゆえか、なかなか捉えることが出来ずにほとんどの攻撃を避けられている。

 他の東雲の剣士たちも同様だ。

 土御門の呪術師たちはそんな彼らの動きの合間を狙って術を打ち込んでいる。

 地味にきつい効果の呪砲が多く、さすがは呪術師だという気がした。

 あれでそこそこ大天狗の機動力や耐久力を低下させているのが分かる。

 大妖であっても、これだけの数を食らえば平静にはしていられない、ということだろうな


 とはいえ、大天狗も無策でこのまま戦い続ける気はないらしい。


『ちょこまかと……来たれ! 我が眷属よ!!』


 イライラとした様子で重蔵たちを睨んでから、芭蕉扇を高く掲げた大天狗。

 そこに大量の妖気が集約すると、そこに黒い空間が出来る。

 そしてそこから、たくさんの天狗たちが出てきた。 

 背中に鴉の羽があることから、あれは鴉天狗と呼ばれる種類なのが分かる。

 街中に出現していた天狗たちにもそれなりにあの種類はいたが……。

 おそらく、本来の世界とズレた次元の位相を少しずらして、あの穴から呼び込んだのだろうな。

 流石に大妖でも京都の呪術師総出で築き上げている結界を完全に抜くことは難しいらしい。

 もしくは、出来たとしても多くの力を使ってしまうから、今はやめておいているか、だな。


「武尊!!」


 龍輝の声が聞こえる。

 見ればそちらには北御門の術士たちがいて、そちらに五体ほどの鴉天狗が近づいていた。

 少し後ろに立っている咲耶に俺は言う。


「あいつらに手を貸してやってくれ」


「承知しました」


 即座にそう言って龍輝たちに合流する咲耶。

 俺は何もしないのか、というとそういうわけではなく、もう少し範囲を広げて手を貸していく。

 京都の術士たちもいるし、東雲の剣士たちもいるからな。

 鴉天狗相手だとかなり苦戦を強いられる者も多いはずだ。

 何せ、結構な上級妖魔ばかりだからだ。

 さすがは大妖の眷属たちである。

 ただ、俺にとっては本体の大妖でない限りは、即座に首を飛ばせる相手でもある。

 大天狗との直接的な戦いが控えているため、珍しく真気を多少節約気味で戦うことにしたが。

 生まれた土地ではない京都では、地脈からの真気の補充もかなり減っているからな。

 全くないわけではないが、無尽蔵にというわけにはいかない。

 最後の手段の仙術でもって全てを吹き飛ばしてもまずいし、考えて戦わなければ。

 

「あ、ありがとうございます!」


 十体目の鴉天狗の首を飛ばしたところで、そんなお礼を言われる。

 その頃には、他のところでもかなりの鴉天狗を倒せていた。

 それでも半分くらいはまだ残っているが、俺が助けに行くまでもなく倒し切れるだろう。

 そうなると……。


『それで終わりか? さっきまでの威勢はどうした!?』


 大天狗のそんな怒声が鳴り響く。

 見れば、重蔵が片足をついていた。

 容姿も四十くらいまで老いているな。

 かなりの真気を使ったようだ。

 とはいえ、大天狗の方も言葉の割には無傷ではない。

 至る所を切り刻まれていて、体液が地面に流れている。

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