第408話 刀
東雲の剣士たちが絶えず攻撃をし続けるも、大天狗は未だ元気そうに暴れている。
竜巻を起こし、芭蕉扇を振るい、雷を放ち続ける。
そうやっていくうち、徐々に負傷者の数も増えてきている。
安全地帯まで下がらざるを得ない術士たちが多くなるに連れ、戦況は大天狗の方に傾きそうになる。
だが……。
「重蔵!
俺がそう叫ぶと、重蔵は少し微妙な表情をしながら叫ぶ。
「あれをか……!! 未だ使いこなせてないんじゃが!」
「いいから使え!」
「……仕方あるまい!」
そう言って、重蔵は《虚空庫》を開き、そこに手を突っ込んで一本の刀を取り出す。
今まで握っていた刀は逆にその中へ投げ込む。
ちなみに《虚空庫》は北御門の専売特許だが、あの刀をやった後、その辺に放り出しておくのは怖いと言われて俺が教えた。
案の定というべきか、東雲の当主であってもやはり、空間系への適性はあまり高くないようで、重蔵の《虚空庫》はせいぜいがロッカーひとつ分くらいしかものが入らない。
それはかつての俺を倉庫扱いしてこき使いたくなるよな、というものだ。
ただ、重蔵にとってはそれくらいの《虚空庫》でも十分だった。
あいつがそこに入れるものと言ったら決まっていて、それは自らの愛刀たちに他ならないのだから。
《虚空庫》は基本的に一度そこにものを入れたら本人しか取り出すことはできないため、防犯という意味でも完璧である。
ただ、死亡した場合はその限りではない。
それほど習熟していない者であれば、その瞬間中身がその場にばら撒かれてしまう。
ただ、高位の術者であればそのようなことは起こらないものの、他人も干渉して開けるようになるため、結局完全な防犯性能は失われるな。
まぁ、死亡した術者の《虚空庫》を開くのはそれはそれで難しい術なのだが。
「ぬぅぅ……やはりこれは……」
重蔵が取り出した刀、俺が渡した《天狗切》を手にすると、途端に苦しげな表情を浮かべる。
その理由は明らかで、刀は重蔵の真気を恐ろしいほどに吸収していた。
温羅にもらった武具の類は性能も存在も伝説的なものばかりだが、こういったデメリットの多いものも少なくない。
その代わりに、威力は他の術具などをはるかに上回る。
重蔵に渡した《天狗切》も、膨大な真気を消費するものの……。
「だが、これならば……ふんっ!!」
重曹が刀を大天狗に向かって振るった。
すると、
『……なっ!! くそっ……どこのどいつだ、貴様!!』
先ほどまで東雲の剣士たちの攻撃に多少のダメージを受けていたものの、それでも平気そうに暴れていた大天狗が、苦痛に顔を歪めて反応した。
事実、重蔵が切った足の部分から血が滲んでいる。
人間と異なり、毒々しい紫がかった色で、地面にぽたりと落ちると、じゅっ、とその場を灼いているが……勿体無いな、あれもいい素材になるというのに。
でもここで改修でもないだろう。
重蔵の攻撃は、確かに大天狗に効くようになっていた。
もちろん、その原因はあの天狗切にある。
あれは真気を膨大に吸収するが、それが故にその切れ味は他に比類がないものだ。
それ以上でもそれ以下でもないが、剣の道にのみ生きてきた重蔵にはちょうどいい刀だろう。
「これなら戦えそうだな……いつまで続くかはわからんが」
重蔵がそう言って刀を構え、笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます