第406話 初撃
しかし封印されて五百年か。
何かの標語みたいにも聞こえてくるが、冗談にはならない年月だ。
俺の十倍だな。
人間の身で五十年も封印されていた奴も相当珍しいだろうが。
五十年ですらかなり長く感じたのに、五百年もあんなところに封印されていたらイラつきも溜まることはまぁ、理解できた。
けれど、語っている内容からしてあまり性質のいいタイプの妖魔ではなさそうだ。
温羅と比べるとな。
あいつは穏やかで理性的だった。
自らのことも客観的に考えられていた上に、俺に同情までしてくれた。
この大天狗とは全く違う。
そしておそらく、温羅が言っていた、各地に封じられている自分と同格の妖魔、というのにもこいつは当たらないだろうと言うのも分かった。
何せ、温羅は千年ほど封じられていたらしいからな。
五百年はその半分に過ぎない。
同時期に封じられた存在ではないと言うことになる。
事実、感じられる妖力は確かに大きいが、温羅を前にした時のような、心胆寒からしめられれるような底知れなさはなかった。
ただ巨大な妖気がそこにある。
その程度というか。
「……皆さん、今のうちに奴に攻撃を!!」
蘭がそう叫び、同時に境内に集っている術士たちが砲撃を開始する。
もちろん、銃とかではなくて、遠距離気術……いや、呪術か。
北御門の術士たちはもちろん気術だな。
そして東雲の剣士たちは最前線にはいるが、まだ動いていない。
距離が遠い上に、今かかっていくと砲撃に巻き込まれるからだ。
一つ一つの術はそれほど規模の大きなものではないものの、数十、数百ともなればそれだけで威力が大きくなる。
数は力だ。
実際、大天狗はそれを真正面から受ける羽目になり、
『うぐぐ……ガァァ!!」
と叫んで、手に持った巨大な扇を振るった。
あれは芭蕉扇かな。
芭蕉扇は術具としても様々なものがあるが、妖魔が持っている妖具としても存在する。
術具と妖具との違いはエネルギー源が真気か妖気か、というぐらいで、それ以外はさほど変わらない。
そもそも、妖具は真気を注いでも使うことが出来るし、その逆もまた然りだ。
ただし、妖具を人間が使うと弊害が出る場合もある。
その身を妖魔へと徐々に変じてしまったり、とかな。
妖具に残っている妖気に侵食されるからだと言われており、高位の妖具を使うほどのその進行は早まるため、おそらく正しいと思われる。
あえて妖具を使って妖魔へと変じようとする術士もいるくらいだ。
俺的には全くお勧めできないが、寿命など、人の頸木から逃れようとするのであれば確かに手っ取り早い方法ではある。
それでも勧められないのは、人が妖魔に変じた場合、多くはその自我が従前のものとは異なるものになってしまうためだ。
記憶や意識がある程度残っていても、本能や好み、さらには食べるものまで異なってくれば、別人と言えるほどに人が変わってしまうものだ。
そんな風にまでなって、一体意味があるのか、という話だな。
それでもやるやつはやるわけだが。
ともあれ、大天狗の芭蕉扇は巨大な風を引き起こし、多くの術士を吹き飛ばす。
中にはそのまま遠くへ吹き飛んでいった者もいるが、まだそれなりの数の術士たちが踏ん張り、また着地してそこにはいる。
『鬱陶しい真似をしおって……まとめて殺してやる!!」
大天狗が飛び上がってこちらに向かってくる
*****
あとがきです。
昨日は申し訳なかったです。
だいぶ良くなりましたので今日は更新できました!
体調管理に気をつけつつ今後も頑張っていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
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