第405話 解放

 そう言って、蘭が指示を出すと洞窟内部にいる呪術師が、大天狗の封印を解く。

 その瞬間、強大な妖気の圧力があたり一面に広がった。


「あ、あぁ……」


 それだけで、あくまでも補助にとやってきていた呪術師見習いなどが意識を失っていく。

 それなりの実力がなければ、これほどの妖気の圧力には耐えられないということだな。

 もちろん、倒れた呪術師達は他の呪術師が回収し、安全地帯に引っ張っていく。

 そういう人員もちゃんと配置してある。

 本来なら倒れた連中もそういった奴らの補助に使えないかと配置されていたわけだが、想像以上に妖気が大きかったからな。

 こればかりは封印を解いてみないとはっきりとは分からないことだから仕方がなかった。


 とはいえ、封印が解かれてしばらくの間、あたりは静かだった。

 

「……何も起こらない?」


 思わず誰かがそう呟いたが、そんなわけはない。


 ──ドガァン!!


 と、何かが吹き飛ばされる。

 それをちょうどいい位置にいた二人の呪術師がキャッチする。

 見れば、それは人だった。

 もちろん、洞窟内部にいたそれなりの実力者のだ。

 最高位の、ではないのは今回討伐するにあたって交代していたからだな。

 封印役の呪術師が使い捨てというわけではないが、今日まで維持する程度のことに最精鋭を封印に投入する必要はないという判断だ。

 幸い、吹き飛ばされた呪術師は生きているらしく、先ほど倒れた呪術師達と同様に安全地帯に連れて行かれる。

 そして。


 ──ガガガガガ!!


 という轟音があたりに鳴り響き、洞窟の存在している岩山がガラガラと崩れ落ちていく。

 数秒の間、静かになり、ガァン!!という音と共に洞窟のあった岩山の一部に大きな穴が空いた。

 それから、にゅっ、と巨大な腕が出てくる。

 さらに大きな頭が。

 顔を見れば、長く赤い鼻に、烏帽子を被っているのが分かる。

 体も出てきて、見ればそれは修験者が伝統的に身につける修験装束のようであった。

 ただし全く同じというわけではない。 

 天狗は天狗道に落ちた修験者の成れの果て、と言われることもあるし、そのような場合もないではない。

 ただこいつはそもそもそういう人から変化した存在とは格が違っているように思えた。

 大天狗はキョロキョロとあたりを見まわし、そして口を開く。 


『……ははは……はっはっは……あーはっはっ!! これは愉快な。ついに、ついに封印が解けたか……五百年、長かった。このまま永遠に封印され続けるのかと思った時もあった。だが、今はこうして、好きに動ける。素晴らしきかな……』


 思った以上に俗な言葉だ。

 いや、やはり長い間、封印などされていたらたとえ妖魔だとて、そんな気持ちにもなるかという妙な納得もあった。

 ただし、娑婆に出れたんだから、今後、封印されないように気をつけて生きてね、頑張るんだよ!

 みたいなことを言っても通じない存在であることは、次の瞬間、明らかになる。


『だが、塵がおるな。ゴミどもだ……わしをあんな詰まらぬ場所に長く閉じ込めおった、呪術師の末裔どもが……!!』


 ──フォン!

  

 と妖気の気配が強くなる。

 戦いの気配が目の前に迫っていた。

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